第十三話 怪しい地下室

 昼食を静かに素早く終えた俺達は入る前に今回の調査目的等を確認した。


「今回の依頼は、この廃館に最近誰か入った形跡がないかを調べるのが目的だ。

 こういう所に来る奴は怪しい魔法の研究や盗品置き場等後ろ暗い事をする為に来るからだ」

「じゃあ魔獣が大量にいるって訳じゃないんだね?」

「まぁ大量にはいないとは思うが、小型の魔獣はいてもおかしくないし、もし誰かが出入りしているなら罠を仕掛けられている可能性もあるから注意が必要だ」

「なるほど…で、もし誰かがいたらできれば殺さずに捕まえた方がいいって事だよね?」

「まぁそうなるな」

「ニョロ分かった?ヒトは殺したらダメだからね」

「あいあい、努力しますわ」

「定期的に確認しに来てる場所だから気負い過ぎる必要はないが油断はするなよ」

「分かった!」


 俺の返事を聞き届けた父が立ち上がったので俺も急いで立ち上がり、父に続いて廃館に向かった。



 玄関の大扉を父が持って来た鍵で開けて中に入ったらすぐに俺も父も光魔法を頭上に点け、ニョロは自分自身を発光させた。

 廃れて長いのか終始、床板がギシギシ鳴っているが気にせず父を先頭に皆で固まって一階から探索を始めた。


 一階には客間や水回り等があったが、家具もなく室内がすぐ一望できるので扉から二・三歩入って周囲を確認したら次々と部屋を移っていった。

 流れ作業の様に数分で一階の確認が終わったので玄関正面にある大階段で二階へ上がる事にした。


 階段の途中にはよくある大きな肖像画が飾られているが痛みや汚れがひどくて女性の絵っぽいとしか分からない。

 そんな階段を上り切り二階に上がると二階には計六部屋あったが、一階同様特に何もなく数分で確認を終えた。



 そうして、一通り館内調査が終わって玄関前までまた戻ってきたが俺は少し階段途中の肖像画に違和感を感じたので、


「ちょっと俺、もう一回あの階段途中にある肖像画を見てきていい?」

「おう、別にいいが何か感じたのか?」

「うん、何もないとは思うけど何となく…」


 そう言って今度は俺を先頭にして皆で肖像画の前に来た。

 そしてその肖像画をよく光で照らしてみたら薄っすらと少し時計回りに回した様な日焼け跡が見えた。


「やっぱり…

 もしかしたら何かの仕掛けかもしれないけど少しこの絵を回してみていい?」

「ん?おぉ、そんな事した事ないから試してみていいぞ」


 俺は小さく頷いて額縁ごと時計回りに動かしてみた。


 フォンッフォンッ…

 …ガコンッ


 何かが共鳴した様な音が聞こえた後、少し間を置いて階段下から音が聞こえた。


「下から何か音が聞こえたぞ!

 何度もここには来てるがこんな仕掛けがあったのか!」


 父が若干興奮気味に階段を駆け下りて行った。

 続いて俺も階段を下り大階段を横から見てみたら、階段下のスペースが少し扉の様に開いているのが見えた。


「もしかして階段下収納とかかな?」

「分からないな…とにかく開けてみるぞ?」


 そう言って父は恐る恐る階段下収納の扉を開け、発光体を中に入れた。


「地下への階段があるぞ…?」

「下りてみる?」

「まぁそうだな…せっかくサンノが見付けたし…」


 再度、父を先頭に皆で地下へ続く石階段を下りて行った。



 階段を下りて行くと心霊スポットの様な怖さと、地下になってさらに気温が下がった為身震いをしてしまった。

 何度か折り返した階段を下りると大人の目の位置に覗き穴の様な小さな小窓が付いた頑丈な鉄の扉があり、開けようとしたがドアノブがなく、押しても横にずらしても全く動かなかった。


「とりあえず儂が中に入って部屋の様子と、扉を裏側から開けれるか見てこよか?」

「えぇ、ではニョロさんお願いしていいですか?」

「了解、ほな少し待っといてな!」


 そう言うとニョロはスーっと小窓から中に入って行き、小窓から漏れる光が動いて中でグルグル回っているのが分かった。

 父は当然、小窓から中を覗いている。

 いい大人が必死に覗きをする絵面は何とも言えない気持ちになる…

 俺も浮遊魔法で小窓から見ようかなとも思ったけど別にそこまでしなくていいかと思って諦めた。


「中には台座の様なテーブルがあってその上に棺が置かれとるな!

 扉は見た感じ裏からも開けられそうにないわ」

「誰かの墓とかかな?」

「ニョロさん、その棺は開けられそうですか?」

「どうやろなぁ、なんせ儂には手がないからなぁ」

「ですよね…」

「じゃあ父さん、俺が覗き穴から中を見て中にゲートで入るのはどう?」

「おおぉ、その手があったな!そうしよう!」


 父はそう言って興奮気味に俺を抱き抱えて覗き穴から中を覗かせた。

 中に入れるのが分かってテンション上がったのか、俺が浮遊魔法を使える事は忘れた様なのでこのまま黙っておく。


「有難う、父さん。

 じゃあ、《ゲート》」


 そう言って扉のこちら側と向こう側にゲートを出して俺と父は中に入った。



 中に入って辺りを照らすと異様な光景が目に飛び込んで来た。

 四方の壁や天井には十字架が貼り付けられ、部屋の中央には頭の位置と足先の位置にくすんだ銀の十字架で貫いて蓋を固定している黒い棺がある。

 そう、前世の記憶ではまるで吸血鬼を封印している様な棺だ。


「どないする?これ…?」


 俺の前世の記憶を知っているニョロも気付いたのか困惑している。


「うーん…ただならぬ雰囲気はあるなぁ…」


 父が呟いて腕を組んだ。


『タス…ケテ…』


 初期の頃のニョロみたいに頭の中に小さい女の子の声が響いてきた。


「ん?サンノかニョロさん今何か言ったか?」

「父さんにも聞こえた?女の子の助けを求める声」

「儂にも聞こえたで!棺の中からか?」

『タスケテ…ココカラ…ダシテ…』

「また聞こえたぞ!女の子の声!」

「だね…たぶん中から出してって事みたいだけどどうする父さん?」

「んー…危険な気もするがもしかしたら誰かが女の子をここに閉じ込めたのかもしれないし…」

「確かに…誰かの罠とか陰謀の可能性もあるけどもし何の罪もない女の子が捕まって閉じ込められただけなら可哀想だよね…」

「まぁ儂ら三人なら何かあっても対処できるやろうし、やらない後悔よりやった後悔の方がええんちゃうか?」

「えぇ、ニョロさんの言う通り、目の前で助けを求める子供を無視する事もできないし助けよう!

 サンノ!足側の杭を抜いてくれ!俺は頭側を抜くから!」

「分かった!」


 そうして俺達は、何かが起きても自分達だけで解決する覚悟を持って棺を開ける事にした。

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