元(?)愛犬の為なら地球侵略もやぶさかではない

高山あきの

序章 プロローグ

第一話 光る玉との邂逅

 新月の夜。

 ここはとある場所の深い森の中に人知れずポツンと建っている小さな一軒家。

 そんな何の変哲もない平和な家に深夜、数人の男達がローブを目深に被って静かに侵入して来た。

 寝室を見付けた男達は、大人の住人が寝入っている事を確認し、隣のベッドで寝ている二・三才ぐらいの幼い少女を起こさない様そっと抱き上げた。


「ん~?お父さん?」


 少女が起きた様だ。

 寝起きでまだ寝惚けている少女は目を擦り、自分を抱き抱えている男を見ようとしたら、抱き抱えている男とは別の男が乱暴にさるぐつわを巻いた。


「ん~ん~ん~~!」


 少女が騒ぎ出したので男達は急いで部屋を出て、玄関に近付いたその時、


「誰だ!?」


 と、後ろから男の声が聞こえ、それに続けて女の声も聞こえた。


「どうしたの?え!なに!?」

「んー!んー!」


 男女はすぐにただならぬ事態だと察して追い掛けて来たので、少女は必死に男女の方へと手を伸ばしながら助けを求めたが、侵入して来た男達の一人が踵を返し手を前に出した瞬間、


 ゴオオオォォォ!


 男の手からはまるで火炎放射器の様な激しい炎が出て一瞬にして部屋を出て来た男女を炎が包んだ。


「んーー!んーー!んーー!」

「ぐわああぁぁ!」「きゃああぁぁ!」

「んーーーーー!んーーーーー!」


 少女は抱き抱えられ、さるぐつわをされたまま手を必死に伸ばして泣き叫んだが、男女はその声に応える事なく炎に身を焼かれながら断末魔を上げた。

 手から炎を出した男は満足したのか、そのまま玄関を出てさらに家にも火を点けた。


「んーーー!んーーー!」


 少女を抱き抱えている男は暴れる少女を大人しくさせる為、布でグルグル巻きに包み、用意していた小さな檻に少女を投げ入れた。


 ドサッ!

 ガシャンッ!

(お父さん!お母さん!助けて!

 ・

 ・

 ・

 お兄ちゃん……助けて……)


 少女は意識を失った。






 ――――






(眩しっ!)


 気が付いたら真っ暗闇の中に一際強い光を放つ白い玉の様なナニかが目の前にある。


(何だこれ?ここはどこだ?俺は何をしていたんだったっけ……)


『目が覚めたか?』


 低い声が頭の中に直接響いてきた。


『早速だが現状を簡潔に言うと、汝は死にその魂をここに呼んだ』


 すごく軽いノリで死を告げられた気がする……

 そしてどうやら俺には体がないのか、手を動かす事も体を起こして自分で自分を見る事も出来ない様だ。


(声は出るのか?)


「あ、あぁ、出た……

 ではここは死後の世界という事ですか?」

『その様な所だ。通常、人は死んだ後、我と対話する事もなく魂は浄化され輪廻転生に送られるが、我のいる世界に汝を強く求める者がおるから呼び寄せたのだ』


(誰かに呼ばれたから俺はよく聞く異世界に転生か転移をするという事か?

 というか俺はどうやって死んだんだ?トラックに轢かれた記憶も過労死した記憶もないんだが……)


「えっと、まず、俺は誰に求められているんですか?」

『深い情をもって求める者もいれば強い恨みをもって求める者もいる』


(何か上手くはぐらかされた気がするがとりあえず俺を求める人は何人かいて、善意の人もいれば悪意の人もいるという事か……?)


『さて、ここまで威厳を見せる為にこんな話し方をしてきたが疲れたから普通に話すぞ?

 儂はお主が生前住んどった国の関西弁?っちゅうのが好きやからどこか使い方を間違えとったら教えてくれ』


(!?)


『と言う事でやな、儂の世界に転生させるにあたって記憶の継承だけやとちょい不憫やな思うて、特別な能力を一つだけ与えたろう思うんやけど自分何か得意な事とかあるか?』


(いきなり結構流暢な関西弁だな……)


「それはどんな能力でもいいんですか?

 例えば、あらゆる魔法を使える様に、とか……

 まぁ魔法が存在する世界なのかは分かりませんが……」

『確かにこれから転生してもらう世界に魔法っちゅうもんはあるが、儂も万能の神って訳やないから生前の行いや性格、得意な事に関連した能力が限界やな』

「なるほど……」



 生前の俺はずっと不動産業の営業一筋でやってきた。

 不動産業の様々な経験を積む為業界内で何度か転職もし、賃貸売買の仲介や転売、さらには人から恨みを買いやすい地上げや不動産担保融資にも関わった。

 これらに共通して大事な事だと常々思っていたのは人脈であり、それを築く為のコミュニケーション能力であり、その為の……


「空気をよむ、という事を常に意識した人生でした」

『ふむ……空気をよむか……』


 幼少期は剣道を習っていたが、魔法がある世界との事なのでせっかくなら魔法関係に結び付きそうな生い立ちを話ししてみた。


『空気に関連するとしたら風系統の魔法能力か?

 いや、でも予定しとる転生先の種族は風系統との相性が悪いからなぁ……

 うーん、空気やなくて字面が近い空間に関連する能力とかか……?』

「ではそれでお願いします!」


 色んな可能性があって面白い能力になりそうな気がしたので前言撤回をされる前に食い気味で承諾した。


『分かった、ほな自分に[空間掌握]の能力を与えよか。

 あぁそれと、転生後いずれどこかでまた儂と再会する事になる思うけど、その時は儂も力になるから期待しときいな』

「はい、有難うございます」

『最後に、転生する世界の事を少しだけ説明しよか。

 自分の目や耳で実際に見聞きするんも楽しみやろうけど、赤ん坊になって転生するから世界の事を何も知る前に死んでまうかもしれんしな』


(それは確かに辛い……)



『まず、星の名前は【トートシン】っちゅうて、言語は世界共通で【トートシン語】が公用語になっとるから頑張って覚え直ししてくれ。

 で、トートシンには八つの大国があって、多種族が暮らす永世中立国が一か国、他七か国は七種の種族がそれぞれ種族毎に国を統治しとるっちゅう感じや。

 まぁどんな種族がおるかとか国名が何やとかはどうせ今言うても覚えられへんやろうから興味があったら自分で調べてくれ。

 あぁそれと、地球に比べて重力が少し軽いっちゅう事もあって地球では物理法則上架空の生物やったもんが普通におるから、地球の常識は通用せえへんもんやと考えといた方がええで』

「それは例えばドラゴンの様な生き物もいるという事ですか?」

『おう、その様なもんもおるな』

「魔法がある世界との事ですが、そのドラゴンはよくある擬人化とかはするんですか?」

『残念ながらと言うべきか、ドラゴンは美少女に進化したりせんから安心して倒してええぞ』


(ドラゴンが美少女に変わる話しを知っているという事はもしかして日本のサブカルチャーが好きなのか……?)


『ちなみに、ドラゴンだけやなくてその他、知性が低い魔獣なんかも各地におるから魔獣出現地域に行くんなら死なん様気ぃ付けや』

「なるほど、よくある中世ヨーロッパ風ファンタジー世界という感じのイメージですかね?」

『電力等のエネルギーが魔力に変わっただけで技術レベルは地球の科学技術とそう変わらんから想像しとる様なナーロッパとはちゃうで』


(ナーロッパて……)


『まぁ簡単な説明はこんなもんか』

「はい、後は転生後自分で色々見て回りたいと思います。

 何から何まで色々と有難うございました」

『おう!ほなまた来世でな!』


 その瞬間光の玉は弾けた様に激しく辺り一面を照らし、俺は光に包まれながら徐々に意識が薄れていった。

 薄れゆく意識の中、俺は悪意で俺を呼ぶ者の当てを思い巡らせたが……正直、仕事柄善行ばかりの人生でもなかったので、思い当たる節があり過ぎて考える事を放棄した。

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