25年目のラブレター

海翔

第1話

 香里奈も大学の3年生になり、今年から就職活動を始めた。

まずは、サークルの先輩のところに挨拶に行き、就職状況とか環境等を話してもらい色々と検討をしてみたが中々自分の思っているようには行かず、悩んでいたら同じように仕事で悩んでいた男性に目があった。

 男性は「そちらの会社、いい情報ありますか?」そう言われ、

「これはと思うのは問い合わせた段階で蹴られてしまい、先には進みません。全く困っています」

「私もですよ。私、新井雅人といいます」

「私は植田香里奈です」香里奈が雅人と初めて出会った時だった。

 それ以来、二人は仕事先の情報交換をしながら目標に向かっていった。

 雅人は何件も直接出掛けて募集要項を確認したり、ネットで調べて電話をしたが、学閥でふるい落とされたりと、さんざんな想いをしていた。

そのたびにやけを起こしたり、香里奈に愚痴を言ったりで自分自身滅入っていた。

そんな雅人を見ては話を聞いてやったり、気分転換を図ったりして、就職先が決まるのを二人で探していた。

 だが、香里奈も4年になってもなかなか決まらず滅入ったときに、父から状況を聞かれ、なかなか見つからないことを話したら「俺の知り合いに中企業だが総合商社があるが行く気はあるのか?」

 そう言われ「よかったら紹介するが、、、」

 「えぇ、、、お父さんいいんですか?」

 「出来たら紹介してもらいたいけど、、」

 「じゃ、戌亥さんに電話して置くから行ける準備だけはしておいて」そう言われ、父はさっそく牧浦商事に電話を掛け戌亥さんと話して2日後に会社に伺うことにした。

 香里奈はさっそく、雅人に連絡して、近日中に牧浦商事に面接に行くことを話した。

雅人は「一歩先に越されましたがよかったですね」と喜んでくれた。

 そして、2日後に牧浦商事に面接に行き戌亥さんに会った。

戌亥さんから「君のお父さんには学生時代はえらくご厄介になって助けてもらった。今回はその恩返しができそうです」そういって、香里奈に話した。

香里奈も戌亥さんに父親の近況を話して家に帰ったら、

 父から「戌亥さんより電話があり、大学卒業後に来てくれ」と連絡があった。

「これでひとまずよかったな」と言われた。

香里奈はさっそく、雅人にこの事を知らせたら、雅人からも「来週に3件面接できることになりました」と、話してくれた。

香里奈は「ここで決まるといいですね」と言った。

雅人も「ここで決めたいです」と話した。


 そして、雅人は翌週から面接に出掛けた。

面接が終わり香里奈に「一応手ごたえが合ったので連絡待ちです」と伝えた。

 1月ほど経ったところでその中の2件から内定をもらい、雅人は大喜びで香里奈に連絡した。

香里奈も喜んで「これで安心できるね」と言った。

ふっと、雅人は香里奈に会いたくなり電話をして会うことにした。

 雅人は「ここまでの道のりで乗りきれたのは香里奈がいてくれたからだ」とお礼を言った。

「これからは結婚を前提に付き合ってもらいたいと話したら」香里奈はそれを受け入れた。

「ただ、直ぐには結婚をすることはできないが、2年間は仕事を覚えるので待ってもらいたい」と話した。

 そして、二人は大学を卒業して就職をした。

 その間に二人で愛を育んでいった。

修司も美保も二人が結ばれることを楽しみにしていた。

 そんな暑い日の夜に修司が家に帰ってみると居間で美保が辛そうに横になっていた。

「どうしたのか?」と聞いたら、

「胃の部分が痛くて、、」そう言われ、

 医者に行ったら「即入院してください」と言われ、

内容を聞いたら胃癌だと分かり、香里奈に連絡して入院準備をしてもらった。

その週末に手術をしたが、全部は切ることができず、ひとまず放射線治療で様子を見ることにした。

 体調は徐々にもとに戻り、普通の生活ができたが2ヶ月を過ぎた頃に同じ症状が起きて、再入院した。

その時に「医者からは余命、半年」と言われた。

側で聞いていた香里奈は思わず涙してしまった。

修司は香里奈に「お母さんには一切この事については言わないでほしい」と口止めをした。

 香里奈はどうしても母に花嫁衣装を見てもらいたく、母の現状を雅人に話した。

雅人は何とか香里奈の希望を叶えられるように結婚式場を探した。

そして、やっと見つけたところで香里奈と相談して、ジューンブライドの月にしたが、結婚式には間に合わず母は亡くなってしまった。

修司はせめてこの式だけは写真を飾ってでも、参加させることにした。

 そして、この月に娘の香里奈と新郎の雅人君が結婚をした。

この姿を一目でも妻の美保に見せたかった。

 披露宴で盛り上がったところで、新郎が新婦とのなれそめを読み上げていた。

雅人がマイクに向かい「私としては恥ずかしい限りですが、どうか皆さん聞いてください」

「もう、香里奈さんと付き合って3年になりますが、大学の就職活動で出会いなかなか仕事が決まらないときに貴女に助けてもらい、時には自棄になったりした時にいつも身近で見守ってくれた貴女に恋をしました。それからは二人でなんとか就職ができ、私の中に香里奈さんの存在が大きくなってきました」

「そして、君と結婚したい気持ちになりました。どうか私のこの気持ちを受け入れてください」

そういって、雅人は顔を上げ「この事が実り、今日、結婚をすることができました」

「これから先、いろんなことがあるかもしれませんが、二人で乗り越えて行きますす」

「そして、この場所にこれなかった新婦の母親である美保さんのおかげで、無事に私たちは結婚することができました。どうか天国で末長く見守ってください」

そう話したら、一斉に拍手が送られ、新婦の香里奈さんの目に一筋の涙が流れた。

 修司は娘がこんな出会いで二人が結ばれたことを初めて知った。

そして、修司は亡き妻に香里奈は優しい男性に恵まれて素晴らしい結婚式を迎えることができたよ。こんなにも香里奈は綺麗な姿で結婚したよと涙を流して話して聞かせた。

 慰霊の妻の写真は良かったねと微笑んでいるようだった。

 

 ふっと、修司の24年前のことが甦ってきた。

あの時はお互いお金もなく式を挙げることもままならなかった。

その上、美保には父親が早く亡くなったことから、母一人子一人でここまで育ったこともあり、式を上げることもできず、二人で生活を始めることにした。

その時は二人が一緒に暮らせるだけで幸せだった。

 そういうこともあり、ラブレターも、プロポーズの言葉さえもなく二人の気持ちだけで一緒になった。

 そんなある日、二人が一緒になって半年が過ぎた頃に美保から「私たち25年の銀婚式を迎えるときに貴方からラブレターをもらいたいの、私、貴方からの宝物がないので一つだけ私の願いを叶えてください」そう言われ、修司はその時には25年目の銀婚式の時には自分の気持ちを重ねて、君にラブレターを送ることを約束した。

だが、その妻に贈る1年前に亡くなってしまった。

 来年の7月7日に銀婚式を迎えることだったが、、、、書き上げてあるラブレターを読むこともなく亡くなってしまった。

 その事を娘の香里奈に話したことがあり、娘からは「母親と結婚して25年目に墓前で読み上げてみたらどうですか?」と言われた。

 「母は何処に居ても父親の側にいるので、聞いてくれるので約束を果たせるよ」と言われ、私も娘に言われたことを実行することにした。

 そして、娘から「どうして7月7日に結婚したの?」と聞かれ、

「その日はお父さんとお母さんが一緒に生活をしようと決めた日なんだよ。丁度、織姫と彦星が出会うようにこの出会いを大切にしようと決めてこの日に決めたんだ」

「そうだったんですか。なんかすごくロマンチックですね」

 

 式は順調に終わり、二人は新婚旅行に出掛けた。

 

 家に帰ってきて静かになった部屋の片隅にある神棚に向かい美保、二人の結婚式は無事終わり、これでひとまず肩の荷が下りたよ。

それにしてもお前がいないこの部屋は寂しいよ。

そういって、一人酒を飲んだ。

 

 それから半年過ぎた頃に香里奈からおめでたい知らせが来た。

香里奈が妊娠したとのことで、修司はやっと明るい気持ちになれた。そして、待ちに待った銀婚式の日が近づいた。

 前日はすごい雨で明日、どんな天気になるか気になっていたが、7月7日の朝は澄みきった明るい朝だった。

 午前中に食事を終わらせて、午後から娘夫婦と墓前に向かった。

そして、修司は娘夫婦の見守るなかで、送るはずのラブレターを読み上げた。

「君と出会ったのは大学のサークルだった。私は初めて見たときから君に夢中だった。あの、くるっとした瞳はいつも僕を見つめているようでたまらなかったよ」

「そして初めてのデートで君の優しさを知った。芝生の中にひっそりと咲いていた四つ葉のクローバーを見つけたときは天にも上るような嬉しそうな顔をしたのを今でも思い出すよ。そして、そのクローバーをもとのところに植えてみんなに見つけてもらいなさいといっていたこと。その優しさに心打たれました」

「そう、私はそんな貴女を探していました。そして、虜になりました。そんな君もいる家庭には笑いが耐えないだろうと想い、君と一緒に生活をしたいと話した」

「だが、君は何も答えなかった。それは自分の家のことだった。母一人子一人の家庭だけに、、、でも、自分には君しかいなかった。だから、自分のすべてをかけて君を守る約束をした。そして、二人は一緒になった。今日25年目を迎えたが、一緒にいない君の墓前に渡せなかったラブレターを今、ここに託す」


 読み終わって、修司も娘の香里奈も涙で濡れていた。

修司は果たせなかった想いをやっと、叶えることができた。

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