第10話
20時。
僕は事務所に着いた。まだ丸山も高瀬の姿もない。僕は一度ソファに体重を預けて、「ふう」と息をついた。そしてポケットに入っている写真を取り出す。
どこかで見たような気がするんだよなあ。
しかし、何も思い出せそうな気はせず、その写真を投げる様に机の上において、コーヒーを作るためにキッチンへ向かった。
コーヒーを三人分作ったその時、入り口のドアが三回ノックされた。丸山ならば何も言わずにドアを開けて入ってくるので、きっと高瀬だろう。
「はーい。今開けます」
僕は作り終えたコーヒーを相談用のテーブルに置く。
――カランカラン――
ドアを開けると予想通り、高瀬が少し戸惑った様子で立っていた。
「どうも。上がってください」
僕は彼女を相談用のソファに案内する。彼女は会釈して相談用のソファに腰かける。僕は彼女の対面に座り、笑顔でコーヒーを一つ差し出す。
「ありがとうございます。それにしてもまさか探偵だったなんて驚きました」
高瀬はお礼を言ってから受け取った。部屋の中を興味津々で見回している。
この後丸山が来るかもしれないので、僕はすぐに本題に入った。
「単刀直入に言います。ここで働くつもりはありませんか?」
「はい?」
高瀬はキョトンとした。そして僕の言葉をかみ砕いた後、理解したように言う。
「その、もう少し悩ませてほしいです。青山さんが探偵だったことも今知ったばかりですし、ここでの業務もこなせるかどうか……」
彼女は少し苦笑いを浮かべながら、僕のことを申し訳なさそうに見る。しかし、そう言われるのは想定していた。
「そうですよね。返事は今すぐとは言いません。ですが一応、説明させてください。ここでの仕事はここに来た人の話を聞くだけでいいです」
「え、外に調査に行ったり、ネコを探さなくていいんですか?」
高瀬は驚いたような表情をしている。僕は探偵のイメージが猫探しの事に驚いたが。
「ええ、ずっとここに居て頂ければ十分です」
「本当ですか⁉」
「はい。本当です。授業等で来れない日は来なくて大丈夫ですし、誰も来ていないときは課題なりなんなり、自由に過ごしていただいて構いません」
高瀬は顎に手を当てて、悩んでいる。そして思い立ったように聞いてきた。
「ちなみに給料は?」
「……一応、年間計画で102万を予定しています」
「やります!ここで働かせてください!」
高瀬は立ち上がって、ぼくに頭を下げた。
「ではよろしくお願いしますね」
僕はそう言って左手を出す。頭を上げた高瀬は僕の左手を強く握った。
――カランカラン――
「じゃあ、明日は全休なんで、明日は朝から来ますね~」
高瀬は笑顔で出て行った。ここで働くことが決まった時、彼女は一番にあのカフェに電話し、やめることを伝えていた。
――カランカラン――
そして彼女と入れ替わるように丸山が入ってきた。時刻は20時半。彼は手を膝につき、ゼエゼエと息を切らしながら、肩で息をしている。
「遅刻ですよ。……そんなに息を切らしてどうしたんですか?」
「い、いや、それがさ、警察の仕事を終わって、こっちに来る途中で、おばちゃんがひったくりにあって、その犯人と追いかけっこして、やっと捕まえたと思ったら8時過ぎてて、ここまでダッシュで来たんだよ」
「警察も大変ですね」
「いや、お前も籍はあるからな?」
「まあ、とりあえず座ってください」
丸山は呼吸を整えながら、先ほどまで高瀬が座っていた席に座る。
「じゃあ、これどうぞ」
僕は最後のコーヒーを丸山の前に置く。すると丸山は僕のコーヒーが少し減っていることに気が付いた。
「誰か来てたのか?」
「来てました。大学生の女の子がバイトの面接に」
僕は事実だけを伝える。丸山はニヤニヤしながら、僕を見つめた。
「言ってくれたら時間ずらしたのに」
僕は「お前、話聞かないで電話切っただろうが」と言いたくなったが、ぐっと堪え、本題に入る。
「それで、インベーダーと言うのは?」
「ああ、そうだったな。インベーダーってのは、裏の世界からやってきた人間の事。奴らには厄介なところが二つある」
「裏の世界?」
「そうだ。いわゆるパラレルワールドとか、並行世界ってやつだ。奴らは俺らが居る世界に来ては、悪事を働いている。なんでもこっちの世界で死んだ人は、裏の世界でも死ぬらしい。インベーダーの血は見た?」
「はい。緑でした」
「現状、その人がインベーダーかどうかを確認する方法は血の色を見るしかない。だから外見からは判断ができないんだ。それが厄介なところの一つ目。二つ目はこっちの世界の攻撃方法は奴らには効かないってことだ」
「え? 僕の銃は効きましたよ? それに最後殺された時も、ただのライフルでしたし」
「そうか。青山はイレギュラーなのか」
「イレギュラー? 鶴見香菜もそんなこと言ってましたけど、それって何ですか?」
「イレギュラーは、どっちの世界の人間にもダメージを与えられる人間の事。僕もそうだよ。でも数が少ないし、外の世界から積極的に狙われることになるから、身近な人以外には秘密にしておいた方がいいよ」
僕は鶴見香菜があんなにも慌てた理由に合点が言った。本来であれば、僕は彼女にダメージを与えられないはずだったのだ。鶴見からすれば、とんだ貧乏くじだ。
「青山君、君には頼みがあるんだ。僕が殺し屋を始めた理由にインベーダーが関わっている。だから、僕のインベーダーの調査に協力してほしいんだ」
「もちろんです。それにインベーダーとアルファは関係がありそうなんです。アルファは『ダイバー』という組織に属しているみたいで」
「『ダイバー』だと? 本当にそう言ったのか⁉」
丸山は焦った様子で僕に確認してきた。僕は首を縦に振り、丸山の様子を窺う。
「……そうか。僕が追っている組織と同じ名前だ。『ダイバー』は裏の世界で一番の犯罪組織らしい」
僕がやらなければならないことははっきりした。丸山と共に、『ダイバー』を捕まえることだ。
そして海斗と薫の仇を取る。待ってろ。
探偵兼殺し屋 増井 龍大 @andoryuu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。探偵兼殺し屋の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます