ですわんぴーす
大川黒目
第1話 なんで私がお嬢様に!?
「
ある日うちが学校から我が家、
何の冗談かと思ったが、茶化すような口調ではない。
「は? 何言うてんの?」
「いや、なんかアンタ跡取りらしいで。この人の」
部屋の奥を覗き込むと、ちゃぶ台を挟んでお母さんの向かいに、白髪に立派なヒゲのおじいさんがシャンと背筋を伸ばして正座していた。燕尾服を着て片眼鏡をかけた姿は、この大阪南部の団地の一室にはひどくミスマッチだ。
「わたくしのお仕えしている
「ふーん」
おじいさんは
うちは適当に返事をしながらコーヒー牛乳のパックを冷蔵庫から取り出す。ABCテレビか何かの企画かもしれないなと思い、こっそり前髪を直す。
「おばあちゃん覚えとるやろ。
「うん」
「見子ばあ、駆け落ちやって聞いとったけど、元々はその赤坂家の娘さんやったんやて」
「へー」
たしかに見子ばあはどこか浮世離れしていたところがあった気がする。粉もんで白ご飯も食べなかったし。
酒寿さんがそのまま説明を引き継ぐ。
「見子様のご出奔後、赤坂家は妹の
見子ばあに妹がいたなんて今日の今日まで聞いたことも無かった。
「しかし附子様も既にご高齢。ご子女もおらず、この数年は寝たきりになられています」
「やあ、お見舞い行かな。あ、東京ってそういうことなん?」
「ちゃうちゃう」
お母さんがお土産とおぼしき高そうなクッキーをバリボリ食べながら手をヒラヒラ振る。
「附子様は見子様から引き継いだ赤坂の名を絶えさせしまうことに、大変お心を痛めておられました。
――しかし先日、見子様のお孫である春瑠子様をお見つけするに至りました」
「え、うち?」
「アンタ、来月から赤坂春瑠子になり」
こうしてうちは赤坂春瑠子になったのだった。
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