第47話 豊穣の三宝具
「こ、これは。ふかふかではないかのう。まさに至高の団粒構造。水捌け、水持ちも申し分ない。どうやったのだのう?」
「えっとですね…」
俺が耕した畑の土を手に取るだのうオジ。土を握りしめたりパラパラ砕いたり、ひとしきり確認するとキラキラした目で俺に聞いてくる。言葉での説明が面倒なので農屋から【畑の
パンパンパンパンパンパンパンパンパン…
…
…
「土魔法でもこれだけの質の土には出来ないだのう。それを鍬1本でやったとは。なるほど、爆発の力で小石なんかも細かく砕かれておるのう。いやはや、凄いのう。魔法の鍬だのう」
何やらやたらと感動しているだのうオジには悪いけど、俺としては早く配達依頼が欲しい。ここはさっさと次に進みたい。
「じゃあ、次の畑へ行きましょう」
爆裂鍬をキラキラした目で愛で続けるだのうオジの手を引っ張って草刈りの畑へ移動する。
「おおお、これはまた、美しく刈り取られた草だのう。一気に広範囲を刈り取らねば、こうも草が整然と倒れないだのう。非力そうなお前さんがどうやってこれをやっただのう?」
「えっとですね…」
再び農屋へ戻り、【畑の鎌鼬】を持ってきて性能を説明し、実演する。
「おおお、あの大鎌が軽々と。何というスピード感。それにこれは真空刃かのう。鎌のはるか先まで草が刈れとる。何という効率だのう。あの重くてどうにもならなかった失敗作の大鎌が…ぐすん」
だのうオジ、今度は泣き始めてしまった。これ、どうすんの。待ってればいいの? 慰めればいいの? どっちでもいいけど早く配達依頼くれ。
へ垂れ込んで一頻り泣き崩れていただのうオジ、急にムクッと立ち上がると俺の方を向く。で、その顔に俺は一歩後ずさる。だってだのうオジの顔が変わってるんだもん。
「え、えっと?」
「いやはや、お待たせして申し訳ございません。いたく感動してしまいまして。いやあ、貴方様の今回の成果は眼を見張るものがありました。まさか、農屋の農具をここまで見事に改良なさるとは御見逸れしました。その手腕確かにこのアイザックが見届けましたぞ」
えっと、だのうオジが、だのうオジじゃなくなった。田舎ののほほんおじさんから都会のビジネスマン風に。なんか妙なオーラまで放ってるし。
「わたくしはこの街の農業ギルドでギルドマスターをしておりますアイザック。この街の食に責任を持つ者でございます」
うは、まさかの農業ギルドのギルドマスターでした。マジかよ。この街のギルドマスターはなにか、マジョリカさんといいアイザックさんといい、みんな一癖ある人ばかりなのか? でもなんか面白そうだからそのうち従魔ギルドにも行ってみよう。
「このアイザック、貴方様に切実なお願いがございます。この3つの農具を農業ギルドに売って頂けないでしょうか?」
アイザックさんが大事そうに農具を抱えて俺を見る。その目は少しウルウル。確かに切実さが伝わってくる。
「えっと、売ると言われても、その農具は元々そこの農屋にあったものを俺が勝手に改良してしまっただけの物で……」
ここは「売ってくれ」じゃなくて「返せ」だよな。
「いえいえ、あの農具は中古品やら失敗作やらで二束三文で買えるものばかりでした。それが今では農作業に携わるものにとっては至高の農具、いや宝具となりました。これらにはそれ相応の素材が使われているはずです。その対価をお支払いし、正式にお譲り頂きたいのです」
そう言ってグイっと前に出てくるアイザックさん。なかなか圧が強い。
「譲るもなにも。勿論お譲りしますよ。てかお返しします」
「そうですか! それは僥倖。このような豊穣の象徴を得てギルドも益々繁栄することでしょう」
ピンポーン
「〈クエスト:アイザックの依頼〉を完了しました。
クエスト内の行動により、【団粒構造Lv1】のスキルを習得しました。
クエスト内の行動により、【農地管理Lv1】のスキルを習得しました。
クエスト内の行動により、【農具知識EX】のスキルを習得しました」
【団粒構造Lv1】
畑を耕すための上級技術
採れる作物の品質+1
品種変位率上昇(小)
レベルアップにより、品質、品種変位率が上昇
【農地管理Lv1】
農地を適切に管理し、虫食い、病気などの被害を抑える上級技術
収穫量上昇(小)
畑での癒し効果[HP・MP回復(小)]
レベルアップにより、収穫量、癒やし効果が上昇
【農具知識EX】
農具の働きの本質を見極める知識
農具の改良・開発においてイメージ図による造形が可能
ピンポーン
「ワールドアナウンス。FGS内で初めて農業スキルが規定の基準に達したプレイヤーが現れました。ただいまより、始まりの街における農業ギルドが解放されます。初めて農業スキルが基準に達したプレイヤーには【農楽の祖】の称号が与えられます」
【農楽の祖】
畑(中規模)+1
農屋(EX)+1
…畑作業なんてずっと他人事だったのに、開放させちゃったみたい。なんかごめん。
その後は、だのうオジ改め、農業ギルドマスターと化したアイザックさんに連行されて農業ギルドへ到着する。
農業ギルドの位置は中央広場から大通りを南へ進んだちょうど南地区の中心。周りは殆ど畑だけ。農業系プレイヤーには便利な場所だろう。確かこの辺はオブジェクトの農屋が固まっていたはず。今はその農屋がなくなって立派な建物になっている。
中に入るとカウンターが5つ。その全てに女性職員が配置されている。掲示板もあり、談笑? 商談? スペースも確保されている。なんか農業ギルドってもっと泥臭い感じかと思ってたけど、正直冒険者ギルドよりも気品を感じる場所だった。
俺が通されたのはカウンターではなく、カウンター奥の一部屋。なんか上等な椅子と机、上品に存在感を放つ調度品の数々。間違いなくVIP部屋だろう。そして俺の対面には白のストライプ模様のスーツを来て、髪型をオールバックに決めた色黒のアイザックさん。
いや、変わりすぎだから。っていうかこのギルドの雰囲気も実はアイザックさんの趣味でしょ。
「では、スプラ様、こちらが三種の宝具の代金となります。お納めください」
そう言ってアイザックさん、机の上に金貨を山積みしていく。
目の前で数えるのも気が引けたので、そのまま鞄に吸い込ませる。そして、所持金を確認すると、760万G…ナニコレ?
なにかの間違いの可能性を鑑みてアイザックさんを見上げる。
うん、ニッコリいい笑顔。色黒の肌からキラリと光る白い歯。どうやら、間違いじゃないらしい。
「では、有り難くいただきます」
「はい。それでですね、この度農業のスキルが初めてギルド規定に達したスプラ様にはギルドより中規模畑を農屋とセットで進呈させて頂くことになります。只今、場所は全て空いている状況ですので、お好きな区画をお選びください」
アイザックさんがそう言うと、俺の目の前に透明の画面が現れる。どうやら街の南東地区の地図のようだ。赤い点滅がギルドの位置だろう。適当な場所で地図を拡大していくと赤い線の枠が出てきた。どうやらこれが中規模の畑の大きさらしい。
そうか、畑の場所か…、畑なんてやるかもわからんけどとりあえず武器屋、薬屋、教会には近い方が無難だろうな。でもあんまり中央寄りだとプレイヤーに見られまくるなんてこともなあ。となると…ここかな。
「では、アイザックさん、ここの畑をお願いしてもいいでしょうか?」
「ほう、こちらですか。ではこちらで進めさせていただきますね」
俺が指定したのは中央広場と農業ギルド、そして教会を三角形としたその中央部分だ。教会のある東地区は住人街となっていて訪れるプレイヤーは少ない。その東地区と南地区の境目あたり。ここからなら聖水を買える教会も近いし、ブルースライムのいる東の森も近い。ついでに一角亭もそこそこ近い。うん、ここがベストだ。
「あ、それとアイザックさん。配達の件ですけど…」
「はい、承知しております。配達依頼は掲示板にいくつかございます。場所の事もありますでしょうから、わたくしが選ぶよりもスプラ様ご自身でお選びになった方がよろしいかと」
「そうですか、それもそうですね。じゃあ行ってきます」
「はい、どうぞ。あ、1つの申し忘れるところでした。受付の職員が当ギルドについての説明をさせていただきますので、お帰りの際によろしければお聞きになってください。スプラ様にとっても有益かと存じますので」
話が終わり、カウンター奥から出ると、既にプレイヤーがちらほらと入って来ていた。勿論、入れない筈のカウンター奥から出てきた俺に視線が集中するが、全力で気付かない振りを決め込み、カウンターの女性に話しかける。
そこで説明された話を纏めると、農業ギルドでは、農業に関するクエストが常備され、それをこなす事でギルドのランクを上げることができる。ランクが高くなると信用クエストという特別な依頼が受けられるようになる。アイザックさんが言っていたのはこの信用クエストにある配達クエストの事だった。どうやら俺のランクは既に3となっていて、ある程度の信用クエストなら受けられるらしい。他の信用クエストは聞いたことのない名前の野菜を栽培してギルド職員に見せるものや、日毎の売上を一定期間ずっと続けるものなどがあった。この辺は他人事なので、俺は配達クエストだけを受ける。そしてその配達先が見知った場所だったからなんか嬉しくなった。でも20分以内という制限時間付きだから油断はしない。
ギルドを出る時に、1度振り返ると、カウンターの真上の目立つ場所に、俺が改良した農具が「豊穣の三宝具」として派手に飾ってあったので、見なかったことにしてギルドを出た。
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
うーん、農業ギルド解放か。ちょっとばかし早いが、ま、前回の従魔ギルドは意外にログイン率と販売に貢献したからな。ここは様子見だな。
しっかし、IZよ。お前もっと傲慢キャラじゃなかったっけ? どした?
――――――――――――――
◇達成したこと◇
・完了<農業ギルドマスターアイザックの依頼>
・習得【団粒構造Lv1】【農地管理Lv1】【農具知識EX】
・改良農具を760万Gで売却
・農業ギルド解放
・称号【農楽の祖】
・畑と農屋をGET
・受注:農業ギルドの配達クエスト
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
職業:中級薬師
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1(+4)
敏捷:1(+15)
器用:1
知力:1
装備:ただのネックレス
:聖魔のナイフ【ドロップ増加】
:仙蜘蛛の道下服【耐久:+4、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気)】
:飛蛇の道下靴【敏捷+15】
:破れシルクハット
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv10】【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】【採取Lv10】【採取者の勘】【精密採取Lv3】【調合Lv10】【匙加減】【投擲Lv10】【狙撃Lv1】【鍛冶Lv3】【調薬Lv1】【団粒構造Lv1】new!【農地管理Lv1】new!【農具知識EX】new!
所持金:760万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】【農楽の祖】new!
従魔:ネギ坊[癒楽草]
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
〇進行中クエスト:
●進行中特殊クエスト
<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>
<エクストラ職業クエスト~マジョリカの愛弟子>
◆契約◆
名前:ネギ坊
種族:
属性:植物
契約:スプラ(小人族)
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:0
器用:1
知力:5
装備:【毒毒毒草】
:【爆炎草】
固有スキル:【超再生】【分蘖】
スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】
《不動産》
畑(中規模)new!
農屋(EX)new!
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