第34話 逃走したらそこは楽園でした
ここはどこ? わたしはだれ? …いやマジでどこだここは。
渓谷鷲に襲われた俺は、【逃走NZ】の案内通りにスキルを発動し、なんとか渓谷鷲から逃れることができた。が、問題が一つ。自分がどこにいるのかさっぱりわからない。
ここがどこなのかはわからないけど、しかし一つだけ言えることがある。それはここが楽園だということだ。
緑の楽園。そう、見渡す限りの緑。緑の採取アイコンだらけ。
毒出し草と治癒草がほとんどみたいだけど、すべてが生き生きとして立派に育っている。ざっと数えようにもアイコンが重なり過ぎて無理。ただ分かるのはこれで毒出し草の採取は完全に片付いたということだ。
「でも、マジでここはどこだよ?」
後ろを振り返ると遠くに茶色い大地が見えている。多分あっちが大渓谷だろうな。で、太陽の位置がさっきと反対にある。ということは
…これ、大渓谷の反対側だよな。帰れるんか?
と、考えて答えなんか出るわけもないわけで、とりあえず採取だけでも済ませておくことにする。幸いモンスターの気配はない。
南の平原は毒出し草の割合が群を抜いて高い確率だったが、今いるこの場所は毒出し草と治癒草が半々だ。ストレージにどれだけ入るかわからないからまずは毒出し草から順に採取しておこう。
…
…
ピンポーン
「特定行動により、【採取Lv9】のレベルが上がりました。【採取Lv10】に達したことにより【精密採取Lv1】を習得しました」
毒出し草を212個まで採取したところで【採取】がLv10に。そして新たに覚えたスキルがこれなんだが。
【精密採取Lv1】
【採取Lv10】と【植物学】相当のスキルを保有した者が習得する上級採取スキル。
採取物の品質が2つ上がる。稀にレア採取物が採取できる。
上級? ってか中級はどうした? で、レア採取物ってなんだ? 色々分からん…がまあ、品質が2つ上がるってことがいい事だということは俺でも理解できる。
「品質2アップか…」
ストレージの毒出し草を確認すると品質3から8の毒出し草。ほとんどが品質6以下。で、周りを見渡すとまだまだ大量の毒出し草のアイコンが残っている。
…これ、品質が悪いものは捨てて新たに採取していってもいいのでは? ストレージにはまだ入りそうだけど、どれくらいまで入るかはわからないしな。先にちょっと整理しちゃうか?
大渓谷手前で採取した低品質の青草はすべて食べる。青草はそのまま食べても満腹度を少しだけ回復させる。すべて食べたらほぼMAXまで回復。治癒草は俺には無意味なので全部捨てて、毒出し草も品質6以下のものはすべて捨てる。さらに少し迷ったが品質7も捨てる。手持ちには品質8の毒出し草が6個だけになった。
よし、これで毒出し草を取れるだけ全部取っていこう。もし取り切ってしまったら治癒草だ。
それからはひたすら毒出し草を採取していく。【精密採取】を取得してから、採取自体にかかる時間もかなり短縮されたようだ。スキル名だけ見ると余計に時間が掛かるような気もするが、まあ、上級スキルの恩恵ってことなんだろう。
ゴルバさんと採取を始めた頃と違い、今では採取作業が3秒ほどで採取が完了する。オマケに辺りにはモンスターが全くポップしない。採取し放題とはこのこと。凄まじいまでのボーナスステージだ。
そんなボーナスステージで採取を始めて十数分後、採取した毒出し草は全部で264個になった。品質は全て8。品質9以上も目指していたんだが、こちらはどうしても届かず。【精密採取】のレベルが上がると届くのか、それとも採取場所を変えないといけないのか。でもまあ、この品質なら十分過ぎるだろう。
ピンポーン
「特定行動により【精密採取Lv2】レベルがあがりました」
そして265個目の毒出し草を採取している最中に、なぜか上級スキルの【精密採取】のレベルが上がる。そして採取中のログが出たま20秒以上経っても採取が終わらない。ここへきてまさかのバグ発生かとめっちゃくちゃ焦りだした時、やっと採取が終わりその理由がわかった。俺が知らずに採取していたのはこれ。
【
超劇毒。大型モンスターをも数秒で死に至らしめる。
採取には高位の採取技術を要し、採取方法を誤ると採取者も死に至る危険な毒草。
調合、錬金の際も用法を誤ると死に至る。
いやいや、怖いって。物騒にも程があるだろ。
でも、そっか。もしかするとこれが【精密採取】様がおっしゃるレア採取物というやつなのか。…はっ、もしや、この毒草であの大渓谷のでっかい鳥を倒して帰れってことなのか? いや、そんなの絶対無理だぞ。
とりあえず物騒な草をストレージに放り込んで毒出し草を採取し続ける。だが、結局レア採取物はそれだけだった。まあ、あんな物騒なもんがポンポン採取出来たらこっちも困るしな。
ちょっとホッとする一方で、相当レアな草を採取できたことにどうしてもにやけてしまう。いくらになるんだこれ?
採取した毒出し草は合計366個、これ以上はストレージに入らなかった。他の物を捨てようとも思ったけど、さすがにこの品質でこの量だ。もう十分だろう。それよりもどうやって帰るかが心配でしょうがなくなった。考えないように採取に没頭していたんだが。ここまで来たら意地でも帰りたい。
どうする、大渓谷へ戻るってみるか? でも、あのギャオス鳥がどこで襲ってくるかわからんしな。向こう側じゃ崖から落ちたら襲ってきたけど、大渓谷のこっち側はおそらく上級仕様だし、もしかしたら近づいただけで襲ってくるかもしれない。うん、ここは渓谷に近づかないで帰る方法を探すのが吉だな。
渓谷からつかず離れず西方面へと進む。渓谷は次第に北向きに湾曲し、その幅も狭くなってきた。進んでいるうちに周りを当たり前のように占めていた緑のアイコンも減ってきている。さらに進んでいくと始まりの街付近程度の数しかなくなった。
品質もかなり低くなってきている気がする。見た感じですでに萎えてるし。どうやら高品質が取れたのはさっきの場所限定だったようだ。ガッツリ採取しておいてよかった。
そして遂に辺りの緑アイコンが全くなくなった。地面は赤茶けてゴツゴツした剥き出しの大地。それが前方遙か先まで続いている。大渓谷はただの深い谷といった感じにまで規模が小さくなり、さらに進めば谷間は完全に塞がっていそうに見える。そこまで来て俺はふと理解する。
「あれ? この先ってもしかして西の荒れ野じゃね?」
始まりの街から南の平原を南西に進み大渓谷に着いた。そして逃走NZで大渓谷を渡ってボーナスステージ。そこから湾曲する大渓谷に沿って北上へ移動。つまり始まりの街の西の先がここだ。
「これ、ボーナスステージへの正規ルートは西の荒れ野を抜けてからの南下だったのか。
そういや、ゴルバさん、西の荒れ野は難易度高いから行ったらダメだとか言ってたよな。ハハハ…よし、引き返そう。
『グルルル』
んん? なにこの背後から聞こえる不穏な音。もしかして鳴き声?
『グルルル』
『グルルルァ』
え? もしかして威嚇されてたりする? どうしよ。このまま振り向かずに走るか? あ、そうだ、【逃走NZ】使って…
『グルルル』
『グルルルァ』
『ゆ~ら~』
「ゆらってなんだ、うわ、出た!」
物騒な威嚇音に交じるかわいらしい声に思わず振り向くと、牙むき出しの4つの顔がこっち見ていた。しかも大量の涎を垂らしながら。
2つ首の黒犬が2匹。どう見ても定番のアレにしか見えない。
【二首ケルベロス】
地獄の番犬。強いので序盤は無理。
雑! 説明が雑! 運営っ! って、ん?
運営に突っ込み入れてた俺の視界に変なものが映り込む。ケルベロスの片方のそのまた片方の頭の上になにかが乗っかっているのだが?
「へ、草? いや、ネギ?」
頭の上に乗っかっているネギのようなものが俺に向かって手を振っている。いや、そんな風に見えるんじゃなくて、実際に手を振っているのだ。ネギの先についているネギ坊主のところに目と口のようなものがあって、そいつがゆったりとこっちに葉っぱを振っている。
なんなんだこのゆるキャラは。敵か? 敵には見えんが念のため。
頭の上の存在を確認する。
【???】
???
説明すらない! 運営! いい加減にしろ!
『ゆ〜ら〜』
「……?」
『ゆら~ら~』
「はい?」
『ゆらゆら~』
「しゃべってるね…」
ネギがじゃべりながらこっち見て手振ってるんだけど。なにやってんだ? ん? もしかしてジェスチャー?
涎垂らして怖そうなケルベロスの頭に生えてるネギが俺の方を見てジェスチャーらしき動きで何かを訴えてる……ように見える。
「なんだ、え? 俺の…持ってる? 何? 草? 苦しい? あ、毒草?」
ネギはうんうんと頷いている。どうやらこっちの言葉は理解している様子。
「あ、毒草って言えば、さっきのコレ」
カバンからさっき採取したレア採取物【毒毒毒草】を取り出すと、ネギは勢いよく何度もうなずく。首大丈夫か? 折れるなよ。
でもまあ、どうやら正解したらしい。そして、これを…振る? 違う? え、投げる?
ネギが言うにはこのレア採取物であり、マジョリカさんに持っていけば大金をいただけるであろうこの【毒毒毒草】を投げろと言うことらしい。しかも草自身に向かって。っていうか、なんで俺が【毒毒毒草】を持っているのが分かった?
いや、しかし、ネギよ。このレア毒草がどれほどレアなのかわかっているのか? これを捨てるとは新車ポルシェを崖下に落とすと同義だぞ。ポルシェがいくらか知らんけど。
『グルルルルゥ』
『グアゥ』
俺とネギがあれこれしている間に2匹の黒犬は俺を囲むように1匹が背後に回る。しかし俺はそこまで焦ってはいない。なぜなら相手は俺より強いからだ。つまりこういうことだ。
『逃走NZ発動』
俺は黒犬を指さして叫ぶ。
プーン
『周りを囲まれているので発動できません』
「……はあああああああ?」
聞いてない聞いてない。そんなの聞いてない。聞いてないし書いてなかった。マジか。終わった。終わりだ。どうすんのこの品質8の366個の毒出し草。次集められる気なんかこれぽっちもしないぞ。
『ゆらゆらゆ~ら~』
ネギが【毒毒毒草】を早く投げろと言っている。そうか、そんなにこれが欲しいのか。どうせ死に戻ったらなくなるんだし、あげちゃうか。面白そうだし。
「って、こんな距離じゃ届かん」
『グアアアー』
と思ってたら向こうから襲ってきた。
「あ、届くじゃん。ほれ」
襲ってきた黒犬の頭の上のネギが俺が放り投げた【毒毒毒草】をナイスキャッチ。そのまま千切って真下の頭にチョンとつける。
『ビギィヤアアア……』
ネギを乗せた黒犬が俺の目と鼻の先で光の粒になって消える。
ピンポーン
『【逃走NZ】が発動できます。発動しますか?』
お、包囲が解けたってことか。それじゃあ迷わず。
『発動』
その言葉と同時にもう一匹の黒犬は黒い線へと変わる。周りの景色が全て線になり後ろに向かってものすごい勢いで流れていく。そして、流れは緩やかになって止まる。
…
…
「えっと…ここは…」
…
『ゆ~ら~』
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
なんでこうピンポイントでフラグ踏んでくんだよ、この小僧は!
1,特定NPCから信頼を得て動く草情報を得る。
2,癒楽草に匹敵するレア度の草を所持することで会敵
3,自身の頭部に防具を装備してない事。
4,ケルベロスから癒楽草の切り離しに成功。
5,ケルベロスとの戦闘終了
全部踏み抜きやがって。
これははさすがにプロモーションじゃ使えんって。
いや、もうこの際使っちゃうか…
販売予約は確実に増えるだろうし。
あとのクレームはお嬢ちゃんに…
――――――――――――――
◇達成したこと◇
・習得【採取Lv10】【精密採取Lv3】
・高品質の毒出し草採取(366/50個)
・ケルベロスと対峙する
・ケルベロスの頭上の草に【毒毒毒草】を投げる
・草がケルベロスを倒す
・【逃走NZ】発動
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
職業:なし
属性:なし
LV:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
器用:1
知力:1
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv4】【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】【採取Lv10】new!【採取者の勘】【精密採取Lv3】new!
装備:【ただのネックレス】
【夢追う男の挑戦的ローマサンダル】
所持金:約0万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】
??new!
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
●進行中特殊クエスト
<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>
<特殊職業クエスト~マジョリカの弟子>
〇進行中クエスト:
<クエスト:武器屋マークスの個人的な依頼>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます