第35話 新緑の初友、その名はネギ坊

「えっと、ここはどこだろ?」


『ゆら~』



 ケルベロスから逃げるために【逃走NZ】を使ったが、前回と同様に自分がどこにいるのかわからなくなった。



「まったく、【逃走NZ】使うと自分がどこに居るのか分からなくなるってかなりのリスクだよあ」


『ゆ~ら~ら』


「って、いるよな! ネギ! さっきから聞こえてるぞ。どこだ。どこにいる?」



 ケルベロスに【毒毒毒草】をチョンして光の粒に変えた動く草の声が聞こえる。だが、周りを見回すが何もいない。でも気の抜けた声だけは聞こえてくる。なぜだ?



『ゆら!』


「ん? 頭の上?」



 自分の頭を手で探る。



『ゆらら♪』


「…確かに何かあるな。これは…ネギだな。うん、確かにこの触った感じはネギ坊主」



 しかし、ネギよ、なんで俺の頭の上にいる? 


「ん? もしや…いや、まさか。いやいやないない。でも一応ね。念のため見てみるか。ステータス画面オープン」



 名前:スプラ

 種族:小人族

 職業:なし

 属性:なし

 LV:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:1

 器用:1

 知力:1

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv4】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】【採取Lv3】【採取者の勘】

 装備:【ただのネックレス】

    【夢追う男の挑戦的ローマサンダル】

 所持金:約0万G

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】

 従魔:??new!




「あーーーっ、従魔って書いてる! え? どういこと? 俺テイムしたっけ? いや、訳わかんないんだけど?」


 テイマーでもない俺がなぜ従魔なんて従えられるのか。さっぱりわからないが、とりあえず、このネギを見ておく。



癒楽草ゆらくそう

 陽の癒しの精霊に意志を与えられた癒楽草。その体は生物を癒す力で満ちていると言われる。

 再生能力に秀で、一部を欠損しても条件が揃えば短時間で再生できるほか、様々な不思議な力を持つ。

 特定条件の下で分蘖し数を増やすが、条件が特殊なため個体数は少なく極めて稀少。



 うーん、「癒楽草」かあ。従魔なんだから喜ぶべきなんだろうけどな。なんか素直に喜べないのはなぜだろう。どっちかと言えば、このネギが生えてたケルベロスのほうがありがたかったというか…



『ゆ~ら?』



 でもまあ希少な魔物なんだし? 強そうには感じないけど… 一応ステータスも確認するか。



 名前:???

 種族:瘉楽草ゆらくそう[★☆☆☆☆]

 属性:植物

 仮契約:スプラ(小人族)

 LV:1

 HP:5

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:0

 器用:1

 知力:5

 装備:【毒毒毒草】new!

 固有スキル:【超再生】【分蘖ぶんけつ

 スキル:【劇物取扱】new!



 なにこれ、かわいい。敏捷0だって。俺よりも低いって。0ってことは自分では移動できないってことか? 装備は…?? えっとスキルは…おお、固有スキル持ちじゃん? しかも2つ?



【超再生】

 体が欠損しても条件が整えばすぐに元通りになる。太陽光と水と土が必要。



【分蘖】

 個体が分かれ数が増える。条件は未開放。



 【超再生】は言わずもがな素晴らし過ぎる。【分蘖】はさぞかしハードルが高いんだろうな。希少種だし。



「うーん…」


 しかし、俺の頭は混乱し出している。理由はこの【固有スキル】じゃない。こっちの通常スキルのほう。



【劇物取扱】

 猛毒、爆発物などを見分け、安全に取り扱いできる技術。



 これ、new!が出てるってことは、アレだよな。【毒毒毒草】を千切って黒犬倒したから取得したスキルだよな。あの草渡したのってどう考えてもテイムする前だよな。それが意味するところは…敵モンスターも普通にスキル習得すんのかよ!


「FGSって恐ろしい仕様をぶっこんでくるな」


 しかしこのネギ、ただでさえ稀少な薬草なのに、【劇物取扱】とか、なんでさらに稀少な存在になろうとしているんだ。そして、俺が渡した【毒毒毒草】はどうした。



『ゆらゆら~』

「え? ある? あるの? どこに?」


『ゆらら~ん』

「は? それ? 葉っぱの1本がそれになってる?」


『ゆらゆら~』

「うん、知ってた。だって装備してるもんね君… 俺の頭に上に黒犬を瞬殺した毒草が生えてるってことだよね。…物騒すぎるわ!」


『ゆらゆらゆ~ら』

「そんなことより早く名前を付けろ? いやいや、そんなことって。頭の上に劇毒乗っかってることがそんなことなのか?」


『ゆら!』

「わ、わかったよ。もう。うーん、早く名前を付けろって言われてもなあ。名前ねえ… 癒楽草ってことだし、よし、お前の名前は『ネギ坊』だ」


『ゆ~~ら~~??』

「どういう意味だって? それは見たまんまというか… ま、あれ、そう、かわいいっていう意味」


『ゆら…ゆらゆら!』

「安易だけどもそれでいい? じゃあ、お前の名前は『ネギ坊』だな」



『ゆ~~ら~~!!』



ピンポーン

「癒楽草ネギ坊との従魔契約が完了しました」



ピンポーン

「ワールドアナウンス。FGS内で初めてモンスターとの従魔契約に至ったプレイヤーが現れました。ただいまより、始まりの街における従魔ギルドが解放されます。初めてモンスターと従魔契約したプレイヤーには【新緑の初友はつとも】の称号が与えられます」



ピンポーン

「ワールドアナウンス。FGS内で初めて希少種モンスターとの従魔契約に至ったプレイヤーが現れました。初めて希少種モンスターと従魔契約したプレイヤーには【自然保護のさきがけ】の称号が与えられます」




ピンポーン

「プレイヤースプラ様はFGS内で初めてモンスターとの従魔契約を達成しました。これにより【新緑の初友】の称号が与えられます」



ピンポーン

「プレイヤースプラ様はFGS内で初めて希少種モンスターとの従魔契約を達成しました。これにより【自然保護の魁】の称号が与えられます」




【新緑の初友】

 従魔枠+1


【自然保護の魁】

 希少種モンスターとの遭遇率アップ



「…えっと、情報過多でちょっと何言ってるのかわからない」


 …まあ、あれだよな。ネギ坊との契約が無事に終わって、称号が2つ貰えて、従魔枠が1つ増えて、希少種モンスターと遭遇しやすくなったと。



 街に帰れたら従魔ギルドに行ってみようか。ゴルバさんあたりに聞けば場所教えてくれるだろうし。



 さて、それはそうとここは何処なんだ?



 周りを見ると前方遠くに切り立った崖がある。で、今気づいたけど、すぐ後ろにも崖。


 うん、つまり、今俺は大渓谷の中にいると。それはつまり……


『ギャオース!』



 そういう事だよな。



『逃走NZ発動』


 襲ってきたギャオス鳥が一本の線に成り変わる。そして、ここはどこだ?



『ギャオース!』

『逃走NZ発動』

 ……

 ……



 それからもギャオス鳥との数えきれないほどの再会を経て漸く大渓谷の反対側に辿り着いた。行き先ガチャにも程があるわ!


 正直、ギャオス鳥との追い駆けっこがいつまで続くのか、永遠バグみたいにずっと続くのか不安だった。そして【逃走NZ】が無制限に発動してくれるのか。もし発動しないことが一度でもあればすべてが終わるんだから気が気じゃなかった。


 初めはいろいろ心配していたが、途中からはもう無心で逃走を続けていた。そしてふと気が付くとギャオスの声が聞こえてこない。恐る恐る周りを確認すると自分が崖の上に居るのがわかった。そして、太陽の位置を確認。午後の夕日が崖の向こう側。と言うことはここは大渓谷の北東、つまり街側。それを理解して膝から崩れ落ちる俺。着いたどーーーっ!!



「おおおい、スプラ!」


 そこでテンプレ展開のようないいタイミングで聞き慣れたゴルバさんの声。


「あ、ゴルバさん! 良かった、来てくれて~」


「お前が急に目の前から消えるから食われちまったかと心配したんだぞ」


「ああ、そうですよね。急に消えたんですよね」



 【逃走NZ】を発動すると俺の姿は消えたように見えるのか。



「しかし、どこ行ってたんだ。今度は急に現れたように見えたんだが」


「あ、それはですね…」


 言いかけて、周りを確認する。


「ああ、さっきの異人なら安全なところまで連れてって帰らせたところだ。そんでスプラが生きてたらと思って戻ってきてみれば急に現れやがって。心配させんなよ。おら、さっさと帰るぞ。あんまり遅くなるとマジョリカさんにどやされる」



 水色仮面は帰ったか。良かった。なんか妙に苦手だったんだよな。



 それからは俺がギャオス鳥から逃げることが出来たことをメチャクチャ不思議がるゴルバさんに、逃走スキルで逃げ回ってやっと大渓谷を抜け出ることが出来た経緯を説明する。



「ほお、そんなスキルがあるんだな。格上から逃げ切るスキルか。しっかし行先が分からんとは、なんかスプラらしいというか。しかしまあ、これで俺もマジョリカさんに殴られずに済むってことだ。あの人のマジ殴りは俺でも命が危ういからな」


「あ、それわかります」


「お、なんだ、もしかしてお前も経験者かよ。そんな弱そうなのによく生きてたな」


「俺の場合は肩を小突かれたくらいだったので。それでも瀕死になりましたよ」


「ははは、そうか。俺は顔面に正拳突きだ」


「うわ、よく生きてましたね~」


「そうだな、ほんとよく生きてたよ」




 一頻り笑いあい、無事を喜んでいたが急にゴルバさんの視線が一点に集中する。



「なあ、スプラ、それ…何だ?」


 ゴルバさんが指さすのは俺の頭上。あ、忘れてた。



「これですか? ネギ坊です」

『ゆ~ら!』



 緊張感のないかわいらしい声が頭上から聞こえる。


「プッ、お前、これ…」


「なんか従魔契約しちゃったみたいで」


「ンブッ、ん、で、なん…で草が頭の…上、プッ…にいるんだ?」



 ゴルバさんが俺の頭の上を見ては口元を引きつかせているんだが…

 


 それから俺はネギ坊との従魔契約に至った経緯を話す。ところどころで気の抜けたネギ坊の合いの手が入るため、黒犬やギャオスとの会敵の恐ろしさや奇跡的に大渓谷を戻ることが出来たことの感動は全く伝わらず…



「ダーハハハハ、あかん、もう駄目だ。もう勘弁してくれ」



 ゴルバさんが俺とネギ坊を交互に見ながら腹を抱えて笑っている。なんかだんだんとむかついてきたんだけど。これゴルバさんが言ってた動く草なんじゃないかってことは黙っておこう。本人気づいてないみたいだし。



 それからゴルバさんは爆笑しながら地面から襲ってくる土竜鮫を一刀両断し続けて街まで護衛を続けてくれた。お礼に茶菓子をあげようかと思ってたけどやっぱりやめておいた。



❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


ダーハッハッハッハ、やめてくれ、よじれる、よじれる。



はあはあ、よし、小僧、お前はお笑い枠で行こう!


称号は前払いと言うことで。


クフフフフ。ダーハッハッハッハ。


――――――――――――――

◇達成したこと◇

・癒楽草のネギ坊と従魔契約(場所:スプラの頭の上)

・称号 【新緑の初友】【自然保護の魁】

・大渓谷から帰還



◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 職業:なし

 属性:なし

 LV:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:1

 器用:1

 知力:1

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv4】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】【採取Lv10】【採取者の勘】【精密採取Lv3】

 装備:【ただのネックレス】

    【夢追う男の挑戦的ローマサンダル】

 所持金:約0万G

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】new!【自然保護の魁】new!

 従魔:ネギ坊[癒楽草]new!


◎進行中常設クエスト:

<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

●進行中特殊クエスト

<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>

<特殊職業クエスト~マジョリカの弟子>

〇進行中クエスト:

<クエスト:武器屋マークスの個人的な依頼>




◆契約◆

 名前:ネギ坊

 種族:瘉楽草ゆらくそう[★☆☆☆☆]

 属性:植物

 契約:スプラ(小人族)

 LV:1

 HP:5

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:0

 器用:1

 知力:5

 装備:【毒毒毒草】new!

 固有スキル:【超再生】【分蘖ぶんけつ

 スキル:【劇物取扱】new!

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