第27話 特殊職業クエスト
「今忙しいから薬草ならさっさと出しておくれ」
薬屋マジョリカさんがいつも通りの不愛想さでせっついてくる。不愛想はコミュ障の敵なのだが、なんかちょっとこのやり取りに慣れてきている自分もいる。
「いえ、今回は薬草の納品ではないんですよ」
「なんだい、それも違うのかい。じゃあ、なんの用だい? 手短に頼むよ」
そう言うマジョリカさん、癖なのか片眼鏡をカウンター上の布で入念に拭き上げる。
「あ、はい、実はちょっと相談がありまして」
「なんだって? 相談? この忙しい時に時間を取られるのはちょっとね。今じゃないといけないのかい?」
片眼鏡を鼻に引っかけたマジョリカさん、眉間に寄った皴から本当に面倒くさいんだろうことをが伺える。だが、今日は俺も引けないのだ。
「これを使って美容にいいものを作れないかと」
俺はそう言って、カバンから聖水の瓶を6本取り出した。
「なんだ、こりゃ聖水じゃないか。で、美容にいいものを作るって。あんた今度は商売でもやるのかい? わたしの薬草依頼はどうするんだい?」
「いえ、俺が売るんじゃないんです。万事屋さんに売ってもらおうかと思って」
マジョリカさん、首をかしげて再び向き直る。
「はて、なんか話が見えないね。なんであんたが万事屋の商品なんてを考えてるんだい? 万事屋がそんな依頼出すなんてないはずだよ。あそこは仕入先が特殊だからね」
まあ、確かに今回は客が来ないって悩みを相談されただけだからね。商品開発なんて依頼は受けてない。でも仕入れ先が特殊ってのは初耳だな。
俺はマジョリカさんに万事屋さんが閉店予定だったこと、北地区の露店のことを端的に説明し、客足を戻すための商品開発を考えていることを伝える。
「ふむ、そうかい、そんなことになってたのかい。しかし万事屋から客が遠のくことがあるとはねえ。あそこはこの街では唯一いい道具がそろっている店だ。一時的だとしても客がいなくなることなんて考えられないが… まあ、理由はともかく、わたしも万事屋にはいろいろと無理を言って世話になっているからね。いいだろ。協力するよ」
「本当ですか? ありがとうございます」
パワハラ上司仕込みの直角お辞儀で感謝を表す。悲しくも体に染みついてしまった習慣だ。そんな俺に、マジョリカさんはやれやれと言うように目の前に出された俺の頭をポンポンと叩く。今回はダメージは入っていない。
「で、美容にいいもんを作れないかってことだったね。異人の露店ではそういうのは売っていないのかい?」
「はい、異人の露店は基本的に異人向けの商品ばかりなんです。冒険者向けだったり、生産者向けだったりと業務用のものがほとんどです。住人の皆さんの個人使用のものは販売していない…です…ん?」
あれ? じゃあ、なんで万事屋さんの客が流れるんだ?
「ま、おかしな話ではあるがね…理由はともかく、今はその美容関連の話を進めようじゃないか。異人の露店では美容関連の商品は売っていないってことだね?」
「え、ああ、はい。異人は美容商品とは無縁なので」
「無縁って… 女の異人も結構いるようだが、そんなものなのかい異人ってのは」
プレイヤーのアバターでも肌荒れが反映されるなんてことはたとえFGSでもさすがにないはずだ。これで状態異常【肌荒れ】とかあったらもう笑うしかない。
「ええ、彼女たちは全く美容を気にしません。傷なんかは回復薬で回復させますし。気にするのは衣服とかアクセサリーの装備関連だけです」
「ふむ、まあ、そんなもんかね。ってことは美容関連の商品ってのは住人の客を呼び戻すのにはうってつけだろうね。ただ、そんな商品がもしもあればという話だがね」
そう言うマジョリカさんの目はちょっと生き生きしている…気がする。これは何かを思いついている表情と捉えても大丈夫か。ここは一か八か。
「もしそんな商品があったらいいですよね~」
「なんだい、そんな気持ち悪い目で見るんじゃないよ」
ぐ、気持ち悪い。いや、ここは負けません。だって、そんな生き生きした目をするってことはあるんですよねえ、レ・シ・ピ。
「あるんですよね? だって特殊上級薬師のマジョリカさんですものね」
「…スプラ、あんたその肩書をどこで聞いた?」
俺が安直にマジョリカさんの肩書きを口にすると、急にマジョリカさんの目が見開く。そして目を細めたマジョリカさん、俄かに殺気立つ。そしてそのパワハラ上司然とした殺気に気圧される俺。でもここは頑張り処だ。
「あ、スキルです。スキルを習得するときにマジョリカさんの肩書きも知ることが出来たんですよ。あ、もちろん誰にも言ってないですよ」
誰にも言っていないというか、共有できる相手がいないというか…いや、この辺は考えるのを止そう。泥沼だ。
「ふむ、スキル習得でそんなことができるとは…それも異人の能力ってやつかい。じゃあ、これからは注意しないといけないね」
やっと殺気から解放されてホッとする。
「しかし困ったもんだね。そんな肩書きを知られたらこの店ん中が異人で溢れちまう。スプラ、他言は無用だよ。異人はあんただけで十分だ」
「はい」
ま、その他言する相手がいないんですけどね!
「ふむ、わかればいいよ。よし、それじゃあ、本題の美容商品のことだが、そうだね、その前にスプラに一つ確認しておこうか。美容商品を作るって言うあんたは聖水を持ってきた。たしかに聖水は調薬で用いることが多い触媒だ。だけど、あんたは美容商品にも聖水を使うと踏んだ。その理由はなんだい?」
「え? だって、この前マジョリカさんが言ったんですよ。聖水には状態異常耐性を上げる効果があるって。肌荒れって状態異常ですよね? それを解消するんだから聖水を使うんだろうなって、ただそれだけですよ」
「ほう、やはりそれに気づいて持ってきたのかい。そうかい、そうかい」
マジョリカさんは俺の言葉を聞いて満足そうにうなずく。
「よし、スプラ。それじゃあ、あんたにあたしが密かに使ってる美容液のレシピを教えようかね」
「え? マジョリカさんの?」
「なんだい、何か言いたいことでもあるのかい?」
「な、何も思ってませんよ。やだなあ」
再び放たれる殺気に一歩後ずさる。マジョリカさん、NPCなのに何度も殺気放つの止めてくれませんかね。てか、殺気とかどうやって再現してるんだ、FGS。
まあでも、そう言われて改めてマジョリカさんの顔をよく見ると、確かに肌が明るく輝いているようだ。初めて会った時に「おばあさん」と呼べない雰囲気があったのはこの肌艶も要因だったのかもしれない。
「そんな繁々と見つめるんじゃないよ。あんた、いったいわたしを誰だと… まあ、いいよ。じゃあ、レシピの材料を言うよ。あんたが、持ってきたこの聖水は当たりだ。あとは『毒出し草』、『ブルーゼリー』、『活性炭』だね。『毒出し草』はデトックス効果がある薬草でこの街の南の草原にいくらでも生えてるね。『ブルーゼリー』は保湿剤で、東の森に出るブルースライムを狩ると落とす。で、最後の『活性炭』は肌の再生促進効果をもたらすものだ。これは武器屋のマークスに言えば…そうだね、少しだけなら手に入るかもしれないね。どうだい、スプラ。あんたがこれだけの素材を集められるならこの特殊上級薬師のマジョリカが直々に特製美容液の作り方を教えようじゃないか。この素材集め、やってみるかい?」
ピンポーン
『<特殊職業クエスト:マジョリカの弟子>が発生しました。受けますか?』
ん? 特殊職業? ちょっと待って、何それ聞いたことない。そんなことキャラ設定の時コリンズさん一言も言ってなかったんだが?
とか思いつつ、ポチっとする俺。
そらこんなん受けるに決まってるし。これクリアするとマジョリカさんの弟子になれるってことでしょ? 特殊上級薬師の弟子か。ムフフフ。
ピンポーン
『<特殊職業クエスト:マジョリカの弟子>を受けました』
❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖
美容液かあ。
MJそんなもん勝手に作って持ってたのかよ。
アバターの美質に関与するプログラムとか計画にないんだけどな。
しかし、コレ見つかったら
これ見つかったらあれかな。あいつらの事だからもっと早く教えろって言われるんだろうな… よし、俺は何も見てない。美容液なんてものは知ーらね。
…
…
おいおい、特殊職業かよ。早すぎるって。しかもプロモーションには無理…でもないか。映像だけだから職業なんてどうでもいいしな。楽しいポーション作りの映像だけ貰えれば。よし、行け小僧、頑張れ小僧! この際美容液でもいいから楽しく作ってくれ!
しかし、MJが特殊職業を早々と出したとなると、MKもMSも危ういか。いや、小僧以外に信頼度二段階以上あるプレイヤーは…0か。じゃ、大丈夫だな。
――――――――――――――
◇達成したこと◇
・薬屋で万事屋の悩み事相談&美容液レシピ獲得
・マジョリカ特性の美容液のレシピ獲得
・受注:<特殊職業クエスト:マジョリカの弟子>
◆ステータス◆
名前:スプラ
種族:小人族
職業:なし
属性:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
筋力:1
耐久:1
敏捷:1
器用:1
知力:1
固有スキル:【マジ本気】
スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv4】【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】
装備:【孤高狼のターバン風ヘアバンド】
【ただのネックレス】
【夢追う男の挑戦的ローマサンダル】
所持金:約0万G
称号:【不断の開発者】【魁の息吹】
◎進行中常設クエスト:
<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>
●進行中特殊クエスト
<特殊職業クエスト:マジョリカの弟子>new!
<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>
〇進行中クエスト:
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