第18話 シークレットクエストってなんだ?

「おい、どこ行くんだスプラ」



 万事屋へ向かって西地区の大通りを歩いていると、武器屋の前でマークスさんに呼び止められてしまった。そうだった、報告が先だった。心配症な強面マッチョさんだったもんね。



「なかなか遅かったじゃないか。教会には無事着いたのか?」

「あ、はい。大丈夫です。ちゃんと教会のステラさんにお渡ししました。遅くなったのはステラさんからも依頼を受けていたからなんです。帰りに寄れる薬屋さんと万事屋さんへの配達を頼まれまして」


 そう言って受領書を渡す。



「おお、そうかそうか、渡してくれたんだな、お疲れさん。で、早速依頼を受けてきやがったのか。やるじゃねえか」


 マークスさんはそう言うと、俺の肩をバシバシと叩く。そして嬉しそうに報酬の550Gをくれた。ダメージを喰らったんじゃないかとかなり焦ったが今度はHPは減っていなかった。こんなビクビクするならさっき薬屋でポーション買っとけばよかった。今ポーション持ってないからダメージには敏感なんだよな。


 それはさておき、報酬が増えてるのが地味に嬉しい。



ピンポーン

『<クエスト:武器屋マークスの依頼3>を完了しました。

クエスト内の行動により【依頼収集】のスキルを習得しました。

クエスト内の行動によりスキル【配達Lv2】のレベルが上がりました』



 おや、【依頼収集】のスキルを習得したみたいだ。【配達】もこれでLv3だな。あとで調べよう。それよりも報告だ。


 俺はこれまでにあった経緯をすべてマークスさんに話した。



 ステラさんの話をするとひと際嬉しそうな表情をしていたが、俺が快癒草を貰い、マジョリカさんに70万Gで売ったことを聞いた時には目を見開いて驚いていた。


 「マジかよ。だったら…」とブツブツ呟いていたが、俺は翌日の配達の予定だけ確認させてもらい武器屋を出る。


 さて、万事屋さんに入る前にスキルを確認しておこう。



【依頼収集】

 NPCからの個人依頼を受けやすくなる。

 


 …うん、シンプルな説明文はわかりやすくて好きです。



 説明がシンプル過ぎて効果が分からんスキルを放っておいて武器屋のご近所さんの万事屋さんに到着。今までは前を通ってもなんの反応もなかったただのオブジェの建物。それがクエスト中の今は『万事屋』とアイコン表示されている。入ってみると普通に入ることができた。



「ごめんください」

「はい、いらっしゃいませ。万事屋でございます。当店は日常生活品がなんでもお手頃な値段で揃いますよ。どういったものをお求めですか。」



 対応に出てきてくれたのは、少し若めの黒髪ロング奥様風の女性だ。カジュアルな服装にワイン色の長いエプロンをしている。日用品売り場というか、ちょいおしゃれな3コインショップみたいな感じだ。



「あ、教会からのお届け物です」

「まあ、配達でしたか。ありがとうございます。ではこちらに置いてくださいますか」



 俺は聖水の瓶を2本カバンから取り出すと、指定されたカウンターの上に置いた。



「聖水2本、確かに受け取りました。では、こちらが受領書になります」

「ありがとうございます」



 あ、そうだ、さっき【依頼収集】のスキルを取ったばかりなんだよな。ここではないのかな。こう、ぐいぐいっと依頼が舞い込むような感じで。



「あの…」

「はい、なんでしょう」


「あ、いえ、その、俺は異人でスプラといいます。今、配達の依頼をいろんなところで受けさせてもらっているんですが、万事屋さんにはそういった依頼などはありませんか?」

「ああ、配達のお仕事ですか…」



 万事屋の女性は今までの穏やかな対応から急に顔を曇らせる。

 もしかして何かまずいことでも聞いてしまったか? 



「まことに申し上げにくいのですが… 当店はもうすぐ閉店する予定なんです」



 …まさかの閉店予定。そう来るかあ。


「そうですか。それは大変ですね。じゃあ、またどこかで機会があれば…」




~機会なんてな、そうそうあるようなもんじゃねえんだよ。素足舐めてでも仕事取って来い、この雑魚が~


 うぐ、自爆した。自分でクソ上司のパワハラワードを踏み抜くとは。くっそ。



「あ、万事屋さん、もしよかったお話ししませんか? ほら、人に話すだけでも気が楽になることもありますし。俺異人ですけど、異人には特に知り合いもいないし情報漏れとかも心配ないですから」


 く、言いながらも自分で傷つくよなこれ。



 万事屋さんは俺の目をじっと見る。自爆したうえ心の傷を自分で抉ってしまい内心の涙目を悟られないようにぐっと我慢。ここは無理やり笑って見せる。



「ふふ。そうですね、人に話してみるのもありかもですね。隠すようなことでもありませんし」




ピンポーン

『<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>が発生しました。受けますか?』



 はい? シークレット… えっと、何? なんか最近情報過多で頭がついてこない。ちょっと頭がぼうっとするお薬も飲んでるしな。

 

 えっと、まずシークレットクエストってなに? ってことだよな。これは通常では発生しないクエストと見ていい。ということは、知らないうちにトリガーを引いてたってことか。となると、このタイミングじゃないと受けられない可能性もある。


 そうなると、ここはとりあえず受ける方向だよな。



『はい』っと。



 万事屋さんがおもむろに椅子に座る。すごく物憂げな感じだ。



「うちは長い間、この街で唯一の万事屋として営業してきました。…まあ手頃な価格でなんでも売っているお店ということでお客様からご支持も頂け、とても順調にやらせてもらってきたんです。そして更に開発地区として発展してきている北地区にも2号店の出店も計画していました。それなのにお恥ずかしい話ですが、実はここ最近になって客足が随分遠退いてしまいまして」



 万事屋さんが閉店の理由を語る。なんか重い話になりそうで尻込みしそうにもなるけど、自分で起こしたクエストだ。ここは最期までやり遂げてみよう。



「なるほど、それは困りますよね。因みに客足が遠退いたのにはなにか理由があるんですか」

「ええ、それが広場から北に少し行った大通り沿いに異人の方々が露店を開かれるようになりまして。どうもそっちに流れているんじゃないかと」


 あ、そうか、生産を生業とするプレイヤーがもう露店で売り始めているんだな。それでこれまでのお客さんがそっちに流れたと。



「あ、万事屋さん、ちなみにその露店ができたのはいつごろからですか?」

「そうですね。もう二か月ほど前からになります。ただ、ここ最近は全く見なくなってたんで少しは店を続ける望みを持ったんですが、今日の午後にまたどんどん露店が出て来たようで。それでこの街ではもうやっていけないかなって」


「へ?」


 いやいや、二か月前からって意味分かんないし。なんかの設定の問題か? 今日の午後ならサービス開始後だからわからなくもないんだけど。これはちょっと情報不足だな。さすがにこんな時はアレを使うしかないな。

 

「万事屋さん、ちょっとしてから後でまた来ますね」


 俺は万事屋さんを後にしてステータス画面を開く。




 『ログアウト』




 ログアウトした俺はVR機器から身を起こすと、自分の机に移動、パソコンでFGSについて調べ始める。全く見ていなかった事前情報というものを確認するためだ。



§



「なるほど、そういうことだったのか」


 俺は1時間ほどかけて運営が出している事前情報から一通り目を通していった。


 その情報の中には俺がやらかしたキャラ作成の事もあり、初期装備の充実ぶりを目にして改めて凹むことになった。


 そこから立ち直るのに数分を要したわけだが、まあ、終わったことはしょうがない。FGS内で悔しがるとアレが喜びそうだし、ここで気持ちを切り替える。


 ちなみに最弱と説明書きされている俺の初期ステータスの種族「小人族」の情報は載ってなかった。ここはちょっと気になっていただけに残念だ。



 そして本題の万事屋さんのお悩み関連だが、FGSは一般リリースに先立ってβ版として2か月前からの2週間、テストとして募集された500人による仮プレイがなされていた。たぶんこの時の情報がFGS内でAIの記憶としてまだ生きているんだろう。


 彼らβテスターはβ版での貢献度によって、正式版でもキャラ作成時の優遇特典を得ていた。βテスターたちがすでに情報公開していたのでその内容も確認してみる。


 まとめると、βテスターはその期間に習得したスキルなどの価値から算出されたGを得られるということだ。人によっては30万Gを手にしたβテスターもいたとのこと。


 いきなり30万Gとか優遇されすぎじゃね? まあ、70万Gを手に入れた今となっては妬む気持ちは全くないが、もし快癒草と出会ってなかったら嫉妬の炎でとち狂ってただろう。


 生産職βテスターは特典で得たGを使って生産活動に取り組み、スタートダッシュを決めているとのこと。

 

 ちなみに露店を出すには、【商い】【演算】【目利き】等の商業関連スキルを持つか商業ギルドへの貢献値が一定以上になれば、保証金を支払って露店が出せるとのこと。


 配信と同時に手にする多額のGに加え、さらに初期装備を売ればかなりまとまったGが手に入る。そしてすでに生産ノウハウを持ってる彼らは潤沢な予算をもとに生産スキル習得に向けて生産活動中。その生産物をギルドへ収めてギルド貢献度も稼ぎまくる生産系βテスターにとっては露店を出すハードルはないに等しいとのこと。


 よし、とりあえず、クエストの背景はわかった。


 ご飯とお風呂、身の回りのことをしてから再びログイン。あれこれ考えていたら時間が過ぎ、ただいま夜8時です。ログインした俺は再び万事屋へ赴く。




❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


 【依頼収集】か。

 ヤバいスキルは発動条件をぼかして記載。

 もしくは記載しない。

 これ鉄則よ。

 

 必要信頼度を『熱意』で補えるようになるなんて書けるかよ。

 バイタルの急激な変化がないと熱意とは認められねえからな。

 口先三寸じゃ無理。



 あ、万事屋はまずいって。あ、TZが落ちる、落ちる、落ちたー! 

 まじかあ、この店はだめだって。解放予定はずっと先なんだから。


 なんで【依頼収取】簡単に発動させちゃってんの。

 小僧、バイタルを自由に乱高下させるお前、さてはチートだろ。くっそ。


 てかそもそもSRよ。万事屋への配達依頼出すとか何考えてんだよ。お前個体識別権限持ってたよな。分かるだろ、小僧が危険だって。…あ、そうか、小僧の奴、品格スキルコンプしてたわ。そらSRもとち狂うか。はあ。


 なんで俺、初日からこんなに疲れてんだ… やっぱ最新演算チップ欲しい



――――――――――――――

◇達成したこと◇

・完了<武器屋マークスの依頼3>

・習得【配達Lv3】【依頼収集】

・万事屋へ聖水配達

・受注 <シークレットクエスト:万事屋の悩み事>

・FGSの事前情報収集




◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 職業:なし

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:1

 器用:1

 知力:1

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv3】new!【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】new!

 装備:なし

 所持金:70万1700G


◎進行中常設クエスト:

<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

〇進行中クエスト:

<クエスト:教会ステラの依頼>

●進行中特殊クエスト

<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>new!



 


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