第11話 満腹度の戦い

 おお、またスキル覚えた。



【勤勉】

 NPCの個人依頼を受けてから達成するまでの間に、3名以上のNPCから勤勉さを認められた行動があった場合に習得するスキル。 

 期限のあるクエストを達成した場合に限り、クエスト中に行った行動によるスキル習得率とスキル成長率が一段階上昇する。

 特定NPCからの信頼度が一段階上がる。



 勤勉って、真面目か! 真面目かよFGS。俺なんかがプレイしてて大丈夫か?


 ふむ、ただまた一つ大きな問題を抱えてしまったな。


 問題とはこのスキル効果だ。これって、つまりはクエスト内限定でスキル習得率とスキル成長率が一段階上がる。


 俺の固有スキル【マジ本気】の効果はスキル習得率もスキル成長率ともに(大)。この場合、これってどうなるんだ?


 俺はステータス画面をチョイチョイする。



【マジ本気】

 三柱の一人レイスに認められ……


≪効果≫ 

 ・スキル習得率上昇(大)

  ※期限ありクエスト内に限り(極大)new!

 ・スキル成長率上昇(大)

  ※期限ありクエスト内に限り(極大)new!


 なるほど、(大)の一段上は(極大)か。 期限ありクエスト内での行動限定で(極大)になるのか。で、極大ってどんな感じなんだ?

 

 俺はスキル表記をチョイ。



◇スキル習得率上昇

 スキルを習得するための行動回数のハードルが下がり、スキルを取得しやすくなる。

 小:20%減

 中:40%減

 大:80%減


◇スキル成長率上昇

 スキルを使用した際に得るスキル経験値が上昇する。

 小:25%増

 中:50%増

 大:100%増



 …うん、知ってた。運営さーん、(極大)が行方不明っすよー。海賊さーん。GMさーん!


 で、えっと、あと【配達】もレベルが上がったんだよな。今度こそ移動が速くなるといいんだけど。報酬の方は多分10%upってとこだろう。



「ほら、報酬の625Gだ」

「追加報酬まで、すみません、ありがとうございます」

「ああ、いいっていいって。ほんの気持ちだから」



 マークスさん白い歯を見せて笑ってくれる。色黒に白い歯か。こう見ると何気に若くも見える。



「そうですか、じゃ遠慮なく」

「ああ、受け取ってくれ。ところで、スプラはこの後には何か予定があるのか?」



 おっと、ここでまた依頼か? もしそうだと嬉しいんだけど。



「いえ、特には。予定がないというより、お金がまぁぜんぜんですし、この通り武器もないので他にできることがないと言うか…」



「そうか…なんか大変そうだな。スプラは異人なんだろ? 異人は皆、なかなかの装備を身に着けてるようだし、金もそこそこ持っているようだが、なんでお前さんだけそんな貧相な身なりなんだ? 金を持ってない異人は初めて聞くんだが」



 ですよね。キャラ作成でGMからパワハラにあったと言いたいところだけど、ここはぼかして話しておこう。



「ああ、それはですね、この世界に来る前にレイスって人に勝手に…、そう、海賊レイスと名乗る亡霊に呪いを掛けられてしまって、ステータスが全部1にされたんです。装備やお金がないだけじゃなくて職業もなくて…」


 別に嘘じゃない。さっきちょっとだけいいこともあったけど、死に戻り縛りの呪縛の中であることには変わりない。



「なに? ス、ステータスが全部1だと? 本当かそれ? おいおい、そんなステータスしてたらこの世界じゃ一日たりとも生きていけないだろう。武器や防具だって装備するにはその品質に合ったステータスが必要だ。ステータスが全部1なんてごく限られたものしか装備できんぞ。それこそ今お前さんが身に着けているようなものくらいだ。それに職業もないなんて、冒険者になるにしても職業は必須なんだぞ」


 ん? ちょっと待って。なにか今、とんでもない情報が出てきたんだが? 装備するにもステータスが必要?



「あの、マークスさん、もしかして俺って武具買っても装備できない?」


「いやいや、全部が装備できない訳でもないぞ。今のスプラでも装備できるものもあるっちゃある。と言っても、ちょっとマシになる程度かもしれんが、とりあえずはそれだけでも揃えるか?」



「マシって、性能はどれくらいっすかね? あと、いくらぐらいです?」


「そうだな、2000Gもあれば足りるだろう。性能はそうだな、スプラのステータスだと…すぐそばに出るモンスターから軽い一撃もらってなんとか瀕死でとどまれるって感じかな」



 2000Gか。それならすぐに貯められそうだな。それで一撃死を避けられるならとりあえずは十分かもしれない。あとはポーション買って凌ぐか…。



「それと、スプラ。武具もいいけどちゃんと食費も考えとけよ。食わねえと弱っちまうぞ」



 えっと、食費? 弱る? なにそれ。



「食費って?」


「食わなきゃ飢餓状態になってステータスが下がる。それでも放っておけばHPが減ってすぐに餓死だ。」



 え? 何その新情報。 餓死とか聞いてないんですけど…。死に戻りルートがリス以外にもあると? マジか。



「餓死ですか?」

「ああ、当たり前だが誰でも食べなきゃ死ぬな」



 大きく頷いているマークスさんを横目にステータス画面をチョイ。今まで一撃死ばっかりで意識しなかったが、画面の左下に上から緑色、青色、黄色の3本の横バーが並んでいる。緑はHPということはわかっている。何度もバーが弾け飛んだの見てるから。でその下の青いバーはMPに違いない。減ったところを見たことないからな。


 てことは消去法で満腹度は一番下の黄色バーか。なるほど1/5くらいになっている。てことは何か、この6時間で1/5ということはあと1.5時間で飢餓状態突入でHP減少。紙HPの俺はすぐに死に戻り。 …なにそれ、やばいじゃん。



「なんか、もうお腹が空いてきているみたいなんですけど」


「そりゃ立て続けに2件も配達の依頼をこなしたら腹も減るだろう。配達依頼は腹が減りやすいんだ。まあそれと引き換えに達成しているもんだからな。2件分の報酬も入ったんだし、その辺で飯でも食ってきたらどうだ。それからスプラさえ良けりゃ、またうちの配達依頼をこなしてくれ。冒険者はみんな魔物を倒したがるからな。配達なんて依頼はギルドに依頼してもなかなか受けてもらえねぇんだよ。だから期限を守るためにいつも自分でやってるんだ」


 なるほど、配達依頼では食べ物代が嵩むのか。ま、そんな甘くはないよな。でもまあ、1150Gも稼げてるんだから赤字にはならんだろう。【配達Lv2】が成長したらもっと稼げるだろうし。それに死に戻りしないで金を稼ぐには今はこれしかないからな。しゃーない。



「そういうことでしたら、こちらからお願いしたいです。お金を稼いで取り合えず最低限の装備だけでも揃えたいので」


「そうか、それならありがたい。まあ、うちも配達が毎日あるわけじゃないが、この街では配達依頼を出したがっている住人は多いからな。ギルドが当てにならねえから皆自分達でやってるんだ。今日、うちの配達しながらでも配達先に聞いてみたらいいと思うぞ」



 へえ、街中で配達依頼があるのか。これはいい情報だ。



「はい、じゃ、そうしてみます。いろいろな情報ありがとうございます」

「おう、いいってことよ。スプラみたいなのがいてくれると俺らも正直助かるからな。お互い様だ。ほら、礼はいいから早いとこ飯食ってこい」

「あ、はい。ではまた後ほど」


 武器屋を出るとすぐに広場に向かう。そう、忘れてはいけない。「ボア肉」が俺の帰りを待っているのだ。





『御礼。本日のボア肉の串焼き完売いたしました』



 あっ、あああー、俺の、俺のボア肉がぁぁぁぁ。


 その場に膝から崩れ落ちた俺だが、その張り紙を見た途端に黄色バーが橙色に変わる。よく見るとゲージがあと僅か。ボア肉喪失の感傷に浸っている場合ではなくなった。


 俺は気を取り直してさきの一角亭へと向かう。一角亭は広場の北側。ここから5分もかからない。


 ついさっきは絶賛仕込み中だったから正直開店してるかどうか不安ではある。だが、これまで料理屋なんてチェックすらしてなかった俺が、唯一確実に知っている店は一角亭しかない。ちょっと高そうではあるが女将マーサさんの「サービスするから」のセリフに期待したいところ。



 うわ、満腹度ヤバいな。


 満腹度ゲージが橙色から赤に変わってしまった。ステータス画面をチョイチョイしてステータス確認。うん、全部1のまま。もしかしたら0になったりするのかと心配していたが、どうやら1からは減らないようだ。敏捷0になったらアウトだしな。



 ステータス画面を見ながら歩いていると、ガヤガヤとした声が聞こえてくる。やっと一角亭に着いたかと思い顔を上げると、目の前には見覚えのある「準備中」の札。


 いや、マジっすか。マーサさーん。



 満腹度はとうにレッドゾーン。いや、これはまずいかもしれない。すぐにどこか食堂を、いや、露店でもいいから何か買わないといけない。もしかして広場を越えた薬屋にも何か売ってたりするか。



「あれ、あんたは異人さんかね」

「うわっ」


 誰かが真後ろから声をかけてきた。




❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


 『スキル習得率(極)100%習得』『スキル成長率上昇(極)100%レベルアップ』なんて記載できるわけねえだろうが。プレイヤーから暴動が起きるわ!


 一番重ねちゃダメな【マジ本気】と【勤勉】が初日に重なるとか。悪夢かよ。


 んで【配達】かあ。また尖ったスキルを。まあ、流石に使いこなせはせんだろう。流石にな…



 おっと、丁度いい時に丁度いい相手が来たようだな。こりゃ楽しみだ。死に戻るか信頼失うか。小僧にとっちゃどっちもアウトだな。はは。



――――――――――――――

◇達成したこと◇

・【勤勉】を確認してちょっと不安になる

・装備にもステータス条件があることを知り絶望する

・満腹度について知る

・ボア肉を食べ損ねる

・一角亭準備中につきピンチ



◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 職業:なし

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:1

 器用:1

 知力:1

 装備:なし

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv2】【勤勉】

 所持金:1150G

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