第44話 はじめての農作業

ピンポーン

『クエスト<教会ステラの依頼5>を完了しました。クエスト内の行動によりスキル【配達Lv9】のレベルが上がりました。【依頼収集】【配達Lv10】を満たしたことにより、職業【斡旋員】の条件を満たしました』



 武器屋マークスさんの恋のキューピットクエストを完了させた後、いつも以上にハツラツとした教会のステラさんから残り2件の配達依頼を受けて完了する。


 ここで、虎の子スキル【配達Lv10】が育ちきった。今の俺の配達時の推定敏捷値は57+16の73だ。体感的にはLv8くらいから世界が激変している。配達時に本気で走ると周りのアバターの動きが遅く見えるようになった。そして、あっという間に目的地に到着するのだ。Lv10になった今はその時よりも倍近い敏捷値を持つ。配達時に限れば自力での逃走もほぼ成功するだろう。

 

 これで、ブルースライム討伐にあと一歩というところまで来た。


 おまけで変な名前の職業への転職条件も満たしたようなので一応確認する。



【斡旋員】

 自身が受けたクエストを他人に斡旋することができる。クエストの斡旋は職業【斡旋員】でいる時にのみ可能。斡旋時は報酬の20%をプレイヤーから受け取る。クエスト達成に関わるその他効果は受け取れない。



 うーん、微妙だ。報酬の20%を受け取っても効果は受け取れないとなると、スキル習得や育成は出来ない。本当にクエストを手数料とって他に回すだけの職業だ。今はまったく必要としない。



「じゃ、ステラさん、また来ますね」

「はい、今日は大変助かりました。スプラさんアッという間に配達終えて帰ってこられるようになってビックリでしたよ。また、いつでもお越しくださいね」


 そんな挨拶をしてからネギ坊用に聖水をいくつか買い溜めして薬屋に向かう。

 

 後は… 配達依頼を探すだけだ。


 因みに既に作戦は完成している。


 はじめはブルースライムを発見したら背後からそっと近づいて、【丸釘】で核を突き刺すつもりだった。でも教会での石投げクエスト10連で【狙撃Lv1】を習得。それで作戦を更に安全な方向へ変更することにした。


 もうね、ブルースライムに近づくことすら止めて、遠くから釘を狙撃してやろうと。できそうなら核を壊したら直ぐに接近して【聖魔のナイフ】で触れて、ドロップ倍増。


 スプラ流では安全こそが正義なのだ。あ、そうだ、後でシルクハットに「安全第一」と書いておこう。


 

「こんにちは、スプラです」

「おや、今度はなんだい? あたしは癒楽草案件で忙しいんだ。用事ならさっさとしておくれよ」

「いえ、配達の依頼はないかと…できれば街の外への」

「残念だけど今は配達はないね。それよりあんた、ブルーゼリーはどうしたんだい。配達なんかしてないで東の森に行っておいで」

「あ、はい…」


 ということで、次は武器屋へ向かう。



「マークスさん」

「おう、今度はどうした? 装備に不備でもあったか?」

「いえ、そうじゃなくて配達はないかと…街の外への依頼とか?」

「お、配達か。悪いな、今のところの配達は終わっちまったんだ。ところでこのローサンなんだが、このあたりの…」


 うん、配達依頼がない。街の外どころか配達依頼そのものすらない。



 今までは武器屋、薬屋、教会に行けばだいたい配達依頼があったから当たり前だと思っていたが、依頼があるのはそこまで当たり前の事ではないのかもしれない。


 東地区、西地区にはよく行ってるし、残るは北地区と南地区。北地区はプレイヤーの数が多いから、さすがにこのピエロの格好で突っ込んでいく勇気はない。とすると、南地区なんだけど、あっちは逆に畑ばっかで人が少なすぎなんだよな…でもまあ、行ってみるしかないか。



ピンポーン

『運営よりお知らせです。現時点での新規ログイン率は84%となっています。現時点での各種統計データをお送りいたします』



 興味のない統計アナウンスをスルーして武器屋を出る。


 思いにふけりながら街を歩く。ふと思い出して冒険者ギルドで頂いてきたお茶菓子を気休めに食べてみる。甘くて美味しい味が口に広がり、空腹度が5%回復し、やる気も回復した。


 もう一つお菓子を頬張り、配達依頼をくれるNPCを開拓するため、南地区へと向かう。こっち方面の道は初日にプレイヤーの視線から逃げてきた方向だからちょっと懐かしく感じな。



「そうそう、ここまで必死に逃げてきたんだよな。腕をシュパンシュパン振ってさ。で、そこの農屋に入って一息ついたんだっけ。それで【マジ本気】の固有スキルの内容を見て絶望したんだったよな」


 懐かしい思いで農屋に入る。あの時は余裕がなくてなんとなくしか見てなかったが、今見ると壁に掛けてある農具が武器扱いになっている。鎌とかくわとか、あの何だっけ、大きな櫛を横向きに棒の先にくっつけた…あ、そうそうレーキだ。それとデカいフォーク、草の束とかぶっ刺して持ち上げるアレ。



「誰だのう? うちの農屋でなにやっとるのかのう?」


 俺が農屋の農具を見ていると、入り口に人影が。


「あ、どうも勝手に入ってすみません。ちょっと住人の方を探してまして」

「住人? そう言うお前さんは異人かのう?」


「はい、そうです。スプラと言います」

「ほう、またか。一昨日からよく異人が来るだのう」



 そう言って農屋に入ってきたのは真っ黒に日焼けした麦わら帽子にオーバーオールのおじさんだった。もちろん、NPCだ。



「俺のほかにも異人が来たんですか?」

「ああ、一昨日から今までに20人ほど来ておるだのう。全員畑を持ちたいと言って訪ねて来おったのう」


「畑? 畑って持てるんですか?」

「勿論だのう。ただ今まで来た異人達は農業を甘く見ておってのう。技術も無いのに畑を持とうなどと。農作業もろくにできんものが畑を持ちたいなど話にならんと追い払ったのう。お前さんも畑目的かのう?」


 へえ、畑を持つのに条件があるのか。ファーマー系を目指すプレイヤーは大変だな。ま、他人事だけど。



「あ、いや、俺は別に畑が欲しいわけじゃなくて」

「おや、違うのかのう。じゃあ、なんでこんな農屋にいるんだのう? この辺は畑しかないエリアだのう」


「あー、なんていうか、俺は配達の依頼を探しているだけなんですよ。住人の方なら皆さん配達の依頼を持ってるとお聞きしたので」

「そういう事だったのかのう。配達ならあるのう。早く届けろといつものせっつかれとるんだのう」


「それじゃあ、俺に配達させてくれませんか?」

「駄目だのう」


「え?」

「儂が世話した野菜は儂の娘のようなもんだのう。今日初めて会ったもんには任せられんのう」


 えー、駄目なのか? 断られることなんてあるんだな。なんだ? 信頼度とかが足りないとかかな?


「えっと、俺はこれまで武器屋さんや薬屋さん、教会でも配達してきたんですけど、それでも駄目ですか?」

「実績ではないだのう。儂がお前さんを信用できるかどうかだのう」



 くー、このオヤジ、「だのうだのう」って素朴な雰囲気出してるくせに、なんだこのガードの堅さ。しかも、のほほんとしていて、視線は鋭いんだよな。



「ところで、お前さん、時間はあるのかのう?」

「えっと、時間?」


「ちょっと農作業を手伝わんかのう。儂一人ではなかなか手が回ってないのだのう。儂は急ぎの配達に行くから、その間そこの隣の畑で作業をしてくれると助かるんだのう」


 こ、これは、ていよく使えるもんは何でも使おうって腹では? だのうオジ、油断ならんな。まあ、やるんだけどね。配達依頼もくれるかも知れないし。



ピンポーン

「〈クエスト:???の依頼〉を受けました」



「では頼むだのう。こっちの畑の耕作とあっちの畑の草刈りとあそこにある干し草をそっちまで移動するだのう」


 だのうオジは、やるべき農作業を淡々と伝えるとそのまま野菜の載ったリヤカーを牽いてのんびり去っていった。



 ということで、作業開始。


 まずは、畑の耕作。

 鍬で土を耕す。

 

 うん、無理。鍬が土に入っていかない。ステータス不足か?



 ということで、農屋に戻って道具を替えて、別作業。


 今度は草刈り。

 大きな大鎌を手に持つ。


 うん、無理。ズッシリと重い。見るだけで死を感じさせるコレ、農具というよりも武器感が半端ない。使うどころか持てない。はい次。



 次のフォークもそれなりに重い。これを干し草の束に刺して移動させるなんて無理。


 無理、無理、無理。つまり、頼まれた作業は全て出来ない事が判明。どうしよ?


 だのうオジがいつ帰ってくるか分からないから、畑に居ないといけないしな…



 「……」


 暇だ。


 鍬を見る。気になる。

 何がって?

 ずっと鍬のアイコンが点滅してるんだよ。

 持ってみた時に点滅しだしたんだけど。


 気になってしょうがないから、とりあえず点滅してる鍬のアイコンを選んでみる。


『簡易鍛治セットを使用しますか?』

「はい?」


 鍛冶? あれ、これってもしかして…


『畑の鍬をリサイクルします。使用する素材を指定してください』


 なんかよくわからんけど、素材を選べと言ってくる。素材? 素材かぁ。 なんかあったかな……


 ストレージを探ると素材にできるものだけが白く、できないものはグレーの表示。白いものに目を通していく。



 え? これイケるの?


 白い表示の中になんと【爆炎草】があった。


 どうせ、売れないんだし、使っとくか。必要ならまた、ネギ坊に貰えばいいし。


 【爆炎草】を素材に指定すると、鍛治セットが光出す。



ピンポーン

「特定行動により【鍛冶Lv1】を習得しました」



 スキルを覚えて、何かが出来ました…?



❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


【斡旋員】か、確か楽して金儲けできる職業のリクエストを受けて作ったやつだよな。なかなかレアな職業なのにもったいない。俺が小僧なら斡旋料20%以外にも金取って仕事回すがな。まだまだ悪知恵が足りねえな、小僧。



うーん、また、お遊び工作か?

農具はなあ、ちょっと地味なんだよなって、おい、爆炎草を農具に使うとかできたの?



お、マジか、鍛冶師にならずに【鍛冶】習得しやがった。


よし、鍛冶行け!やれ!

やるならロングソード辺りが無難だぞ。


楽しい鍛冶プロモーションなら新規ログイン率5%は固いぜ、ぐふふ。



――――――――――――――

◇達成したこと◇

・職業【斡旋員】解放

・完了 <クエスト:教会ステラの依頼3-5>

・習得【配達Lv10】【鍛冶Lv1】

・受注 〈クエスト:???の依頼〉



◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 職業:中級薬師

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1(+5)

 敏捷:1(+16)

 器用:1

 知力:1

 装備:ただのネックレス

 :聖魔のナイフ【ドロップ増加】

 :仙蜘蛛の道下服【耐久:+5、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気)】

 :飛蛇の道下靴【敏捷+16】

 :破れシルクハット

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv10】new!【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】【採取Lv10】【採取者の勘】【精密採取Lv3】【調合Lv1】【匙加減】【投擲Lv10】【狙撃Lv1】【鍛冶Lv1】new!

 所持金:少額

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】

 従魔:ネギ坊[癒楽草]



◎常設クエスト:

<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

〇クエスト:

<???の依頼>

●特殊クエスト

<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>

<エクストラ職業クエスト~マジョリカの愛弟子>



◆契約◆

 名前:ネギ坊

 種族:瘉楽草ゆらくそう[★☆☆☆☆]

 属性:植物

 契約:スプラ(小人族)

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:0

 器用:1

 知力:5

 装備:【毒毒毒草】

   :【爆炎草】

 固有スキル:【超再生】【分蘖ぶんけつ

 スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】

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