第43話 キューピットは金欠な模様

「禁止って、そんなヤバい草だったんですか?」


「ああ、ヤバいね。これはこの国では取れないものでね。世界でも隣国の砂漠でしか取れない稀少な草さ。ドラゴンが好んで食うからなかなか見つからない草でね。採取するにも自生している場所は直ぐにドラゴンが巣にしちまうから手がつけられない。砂漠でドラゴンよりも早く見つけるか、ドラゴンの巣に忍び込むかだが…昔、巣に忍び込んだ超一流の冒険者パーティーが全滅したこともあってね。それ以来ドラゴンの巣に取りに行く冒険者は居なくなっちまった。そんなだから、あまりに高額な取引になるため国が間に入らないと売買はできないことになっているんだ。正規の取引をすれば最低でも快癒草の数十倍、いや、百倍を越えるかもしれないね」


「ひ、百倍?! …ちなみに、この草、何に使われるんですか?」


「ああ、これは火魔法の最高位術式の媒体として使われるものさ。国同士の戦争なんかでしか使われないものだけど、まあ街の一つが吹っ飛ぶような魔法だよ。ただ大量に使うからね。どこの国も数は全く確保できてないがね」


「街一つ…マジっすか」


「だから、スプラ。これは決して住人には見せるんじゃないよ。これが【爆炎草】だって識別できる者は限られてくるだろうが、万が一にも知られたら… あんた王都に連行されて入手方法を徹底的に詰問されるよ。手荒い手段も覚悟したほうがいい」


 いやいや、なんでそんな草を路地のゴザ販売なんかに置くんだよ。海賊の嫌がらせか! バレたら王都に連行されちゃうなんて…ん? あれ? 連行されたら王都に行けちゃうってことか?


「念の為言っておくが、王都に連れてかれても観光なんてできやしないからね。ずっと暗い牢屋の中でいろいろとされ続けるだけだよ」


 うぐ、見通された。ま、とにかくこの【爆炎草】は隠しておくしかないか。なんか最近隠し事ばかりだな。



「…わかりました。これは俺のカバンの中で永遠に眠らせておきます」


「ああ、そうしな。わたしもこのことはもう忘れたからね。まあ、時が来ればその草も陽の目を見ることもあるかもしれないがね」



 時が来れば? って事は、もしかしてもっと先に手に入れるものだったりするんだろうか? そりゃそうだよな。ま、どうであれ、売れないものは仕方ない。一旦教会に戻るか。


 因みに癒楽草の追加買取も持ち掛けてみたが、今持っている分の研究が済むまで追加は要らないと断られてしまった。ということで、金がない。金欠だ。





「ただいま戻りました」

「はあい、ありがとうございます。じゃこれ報酬の260Gです」



ピンポーン

『クエスト<教会ステラの依頼2>を完了しました。クエスト内の行動によりスキル【配達Lv6】のレベルが上がりました』



 よし、これで【配達Lv7】だな。金欠の状態でこの報酬額は正直アレだが、今は【配達】を育てることに集中しよう。そう、無いものに集中してたら楽しめなくなるからな。


「では、ステラさん、マークスさんのところへ行ってきますね」

「あ、あの、スプラさん」


「はい?」


「あの、それを届けていただくときに、その、マークスさんに…か、感謝も添えて伝えてくださいね」



 ん? なんだこの展開? 俺が経験したことのないむずがゆい感覚。でも、丁度いいから聞いておこう。



「あ、そうそう、そう言えば、この前マークスさんがステラさんのこと気にしてましたよ」


「え、え、わたしのことを?」



 ステラさんの顔が赤い。え、なに、そういうこと? 両想い的な? じゃあ、簡単なお仕事じゃん。もうド直球でいいや。



「はい、マークスさん、ステラさんに恋人とかいるのかなって気にしてて」

「こ、恋人! それって、それって」


「今度、デートに誘いたいみたいですよ」

「で、デート…ぷしゅー」



 マークスさんもステラさんもおんなじエフェクトなんだな。流石にここはもう少し凝ってもいいんじゃないか、開発AIさんよ。


「じゃあ、行ってきますね」

「……」



ピンポーン

『クエスト<教会ステラの依頼3>を‥‥』



 俺は頭の中で鳴る機械音を聞き流しながら武器屋へと急いだ。





「マークスさーん」


 武器屋に入るなりマークスさんを呼ぶ。


「おお、スプラ。どうだった、ステ…配達の依頼は?」


 はいはい、ステラさんね。


「はい、配達の依頼はありました。それも4件も。今2件目です」

「そうか、それはよかったな…」


「で、はい、これ受け取ってください」

「ん? なんだこれ?」


「ステラさんからマークスさんにって。配達です」

「え、ステラさんから?」


 マークスさん、そう言われた瞬時に目の前のバスケットをガン見。その動きの速さにびっくりする。


 そして蓋としてかけてある赤いチェック柄の布をそっとめくって中を覗き込む。


「こ、これは、サンドイッチじゃないか! こんなにたくさん。しかも種類もいっぱい」

「マークスさんへ日頃の感謝の気持ちみたいですよ」


「そんな感謝だなんて、ははは。…これ、ステラさんの手作りなのかな?」

「そうだって言ってましたけど」

「……」


 はい、ゆでだこ完成。こりゃしばらくは戻ってこれないかな。また、店内を見ておくか。



「はうっ、お、スプラ、すまんな。また考え事をしてしまったようだ」


「いえ、大丈夫です。それよりステラさんですけど、今は恋人とかいないみたいでしたよ」


「そ、そうか。いないんだな…わかった。いろいろ世話になったな。これで依頼は完了だ。これ、取っといてくれ。」



ピンポーン

『<クエスト:武器屋マークスの個人的依頼>を完了しました。報酬の1000Gを手に入れました』



 1000Gも貰ってしまった。事前に活性炭で先払いしてもらってるのに。まあ、これはマークスさんの気持ちの表れなんだろう。満腹も気になってたしありがたい。


 ちなみにスキル習得はなしか。今回は期限のないクエストだったし、そういうことなんだろう。ま、それだけ普段の習得率・成長率極大の効果が大きいってことだな。


 しかしいつになったら説明文に極大の効果が反映されるんだろうか…。



「ところでスプラ、さっきのローサンなんだが、あれお前が自分で作ったんだよな?」

「え、はい、そうですけど?」


「お前、武具制作系のスキル持ってるのか?」

「あ、はい。一応持ってます」


 ちょっとスキル名までは明かさないほうがいいだろうな。自分でもよくわかってないし。【リサイクル武具】っていったいなんだ。


「なら、うちの工房を使わせてやるよ。この裏の」

「え? ここの工房を? いいんですか?」


「ああ、ローサンを作ったお前が今後どんなものを作るのか気になってな。時間のある時は見せてもらうが、素材以外の道具は何でも使ってくれてかまわないから」

「うわ、それはありがたいです。是非使わせてください」



ピンポーン

『職業【鍛冶師見習い】の条件を満たしました』



 お、【鍛冶師見習い】だって。中級薬師じゃなかったらすぐに転職してたかもな。武器作りはやってみたいことランク上位だし。まあ、でも今はマジョリカさんのエクストラ職業クエストが断然優先だけど。


 鍛冶師にはならないけど、これで工房を使えるようになった。鍛冶はやってみたいが、その前に残り2件の配達だけ終わらせておこうか。


 途中、広場でプレイヤーが屋台を出していた。だれも客がいなかったから満腹度回復の為に立ち寄ってみたらメニューは「肉スープ」だけだった。


 二杯で満腹度半分ほどだけ回復。代金は900G。思ったより満腹度は回復しなかった。料理屋メニューのような満腹度シミュレート機能がなかったから仕方ない。プレイヤー料理店はまだまだのようだ。仕方ないからあとは、茶菓子でも食べながら持たせるとしよう。


 ちょっと失敗した感はあるが、まあ、これはこれでいい。いろいろ試してみないとだもんな、



❖❖❖❖レイスの部屋❖❖❖❖


おーい、SRもMKも、そういうのもういいから。小僧にしょうもないことさせんな。


小僧もだそ。そんなことよりも、ほら、やる事あるだろ調合とか、調合とか。楽しい調合とかさ。


早く調合シーン撮らせろやー。



お、鍛冶師か。鍛冶もいいよなあ。いい絵になるだろうなー。


――――――――――――――

◇達成したこと◇

・【爆炎草】について知る。

・受注 <クエスト:教会ステラの依頼2> <クエスト:教会ステラの依頼3>

・完了 <クエスト:教会ステラの依頼2><クエスト:武器屋マークスの個人的依頼>

・習得【配達Lv7】

・武器屋の工房使用許可GET

・職業【鍛冶師見習い】解放

・プレイヤー屋台で食事


◆ステータス◆

 名前:スプラ

 種族:小人族

 職業:中級薬師

 属性:なし

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1(+5)

 敏捷:1(+16)

 器用:1

 知力:1

 装備:ただのネックレス

 :聖魔のナイフ【ドロップ増加】

 :仙蜘蛛の道下服【耐久:+5、耐性(斬撃・刺突・熱・冷気)】

 :飛蛇の道下靴【敏捷+16】

 :破れシルクハット

 固有スキル:【マジ本気】

 スキル:【正直】【薬の基本知識EX】【配達Lv7】new!【勤勉】【逃走NZ】【高潔】【依頼収集】【献身】【リサイクル武具】【採取Lv10】【採取者の勘】【精密採取Lv3】【調合Lv1】【匙加減】【投擲Lv10】【狙撃Lv1】

 所持金:わずか

 称号:【不断の開発者】【魁の息吹】【新緑の初友】【自然保護の魁】

 従魔:ネギ坊[癒楽草]


◎進行中常設クエスト:

<薬屋マジョリカの薬草採取依頼>

●進行中特殊クエスト

<シークレットクエスト:万事屋の悩み事>

<エクストラ職業クエスト~マジョリカの愛弟子>

〇進行中クエスト:

<教会ステラの依頼3>



◆契約◆

 名前:ネギ坊

 種族:瘉楽草ゆらくそう[★☆☆☆☆]

 属性:植物

 契約:スプラ(小人族)

 Lv:1

 HP:10

 MP:10

 筋力:1

 耐久:1

 敏捷:0

 器用:1

 知力:5

 装備:【毒毒毒草】

   :【爆炎草】

 固有スキル:【超再生】【分蘖ぶんけつ

 スキル:【劇物取扱】【爆発耐性】

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