ドラゴンロード二代目~見捨てられた冒険者は、竜王の力を継いで復讐する~

川崎俊介

第1話 ドラゴンロード襲名

「ついに、【北の厄災】を倒した!」


 勇者レギアは、肩で息をしながら勝利を宣言した。


 俺たちが討伐したのは、北の厄災と呼ばれたドラゴンロード、毒竜ニズヘグ。この世界の四大竜王の一角だ。


「やりましたね!」


「あぁ、シスイ。見習いの君には、いい勉強になっただろう」


 見習いとして勇者の一団に同行させてもらった俺は、歴史的瞬間を目にしていた。東西南北の果てに玉座を構え、絶えず人間の領土に侵攻してきたドラゴンロードの一角が陥落したのだ。非常に重要な出来事だ。だが。


「これはマズいな」


 毒竜の眷属たる大蛇が複数体、這い出してきていた。主君の仇を取るつもりらしい。主を失ってなお、忠誠心は健在というわけか。


「もう、回復も毒消しも使えない。死ぬしかないか?」


 僧侶のイドラも、絶望しきっている。


「もう、魔力なんて残ってないわよ?」


 魔法剣士のネビュラスも、諦めているようだ。


「いや、生き残る方法はある。俺たちは、生きて凱旋し、この栄光を語り継がねばならない」


「どうやって? 私たちはニズヘグとの戦いで全力を使い果たした。もう無理よ」


「こいつを囮にすればいい」


 勇者レギアは、俺を指さした。


「レギアさん、何を言って……」


 次の瞬間には、俺は両脚を切断されていた。灼けるような痛みが走る。勇者の剣は鋭い切れ味で有名だが、毒竜を斬ったせいで毒が染みついている。傷に染みて痛みが増す。


「ぐっ、うあああああ!」


「悪く思うなよ、シスイ。見習い風情より、毒竜を狩った英雄本人が凱旋しなければ意味はない。俺には賞賛される義務がある。だから君はここで死んでくれ」


 ふざけるな。こんなところで死んでたまるか。


 そう思い手を伸ばすと、右腕まで斬り落とされた。


「英雄譚には君のことも書いておくよ。勇者レギアを庇って死んだ、名も無き冒険者としてね」


 そうとだけ吐き捨て、レギアは仲間を連れて毒竜の城を出た。


 大蛇たちは、抵抗できないと悟る否や、俺に一斉に飛びかかり、噛みついてきた。


「ぐああああっ!」


 俺は全身を貫く痛みに悶絶し、意識を失った。


             ◇


 気が付くと、見知った顔が目の前に現れた。硬い鱗に覆われた紫の双眸。間違いない。毒竜ニズヘグだ。


「お前は、死んだはずじゃ?」


「肉体は死んでも魂は残る。ドラゴンロードの【座】は常に受け継がれてきたものだ。ここ数千年は私が王座に就いていたというだけでな」


 ニズヘグは何でもないことのように言った。


「本来であれば、討伐者が次のドラゴンロードとなるのだが、斯様な卑怯者には譲りたくない」


 レギアのことか。確かに、あいつがドラゴンロードになったら面倒だ。


「シスイ・オヴェスタ。お前に【北のドラゴンロード】の座を譲る。そして、私の仇を討ってくれ」


 いきなりな提案だな。さっきまで死闘を繰り広げていた相手の力を受け入れるとは、重い選択だ。だが、迷う気はない。


「いいですよ。レギアは、僕の仇でもあるので。でも、僕はさっき噛みつかれて死んだはずじゃ……」


「そこは大丈夫だ。毒竜の【座】を継承すれば毒の耐性がつく。それに、私の部下もすぐお前に従うようになる」


「そんなものですか」


 何はともあれ、渡りに船だ。ニズヘグの力を使って奴に復讐してやる。

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