壱ㅁ譚

@M_I_M_I

いち怪目『くりかえす』

これは私が体験した出来事なんですけどね。




十五夜の夜に、とある廃墟に行ってきたんです。




よくありそうな話でしょう?




どうせ夜に廃墟に肝試しに行って、そこで幽霊を見た、で終わるんだろう。




ってね。




まぁ、あながち間違ってはいないんですけど。




でもね、一味違うんです。




どこか一味違うんですね。




まぁ聞いていってください。




十五夜の夜に、私は〇〇県〇〇市にある、森の中にひっそりと佇んでいる廃墟の家に行ったんです。




ただの暇潰しとして、ドライブのつもりで隣町なんで車を走らせたんです。




暗い暗い鬱蒼とした森の中を走らせて、5、6分ぐらいですかね。




大きめの洋館のような見た目の、くすんだ色の家が見えてきたんですね。




あ、ここだ。と思って、その家の前に車を停めたんです。




元々私はここの家の事を知っていたんですね。




知ったのは私がよく拝見している所謂オカルト掲示板ってやつです。




その掲示板にはホテルの廃墟や廃病院、廃学校、自殺で有名な場所など




よくある場所しか載っていなかったんですね。




私はそういう場所はほぼ全て知り尽くしている程オカルトマニアなので、飽き飽きしながら見てたんです。




そろそろ閉じようか、と思ってふと画面を見ると、そこにはその洋館風の家が載っていたんです。




洋風のホラー映画によく出てきそうな、そんな家。




少し日本には珍しい見た目の家が廃墟になっていて、私は興味を引かれて見てみたんです。




どうやらその家、家族が住んでいた訳でも無くただ女性1人だけが住んでいたらしいんですね。




その女性がある日、家の中でもなく庭の木で首を吊って自殺したらしいんです。




それ以来事故物件になっちゃって、いい家なのに誰も住んでいないらしく、廃墟になってしまったらしいんです。




まぁこれもよくある話じゃないですか。




でも、その掲示板によると




「くりかえす」らしいんです。




何度も何度も。




首吊りする前、生きている頃の生活も




死ぬ時の首を吊る準備も




首吊りも




ずっとずっと、何年経ってもくりかえしているらしいんです。




廃墟に探索に来た人々が、みんな、こう言うんですって。




「くりかえしている」


「何度もくりかえす」


『くりかえしてくりかえして次に進まない』




と。




意味がわからないですよね。




それでも私はどことなくそれに興味を持って、隣町ですし行くことにしたんですよ。




「くりかえす」とはどういう事なのか。




女性の霊が出てきて、くりかえしているのか。




それとも、来た人が、何かをくりかえしてしまうのか。




そして話は戻りますけど、車を停めて、家の目の前に経ったんです。




ザァァっと、風が吹き抜けたんです。




周りの木々も揺れて、それはそれはもうホラー映画の始まりのように感じましたね。




秋になりかけでそこそこ寒いので、風よけの意味もあってそそくさと家の中に入ったんです。




怖いとかは微塵も思いませんでした。




私はあまり怖がらない人なので。




家に入って、玄関があるでしょう?




その玄関に、大量の紙が散乱していたんです。




足の踏み場がないくらい。




なんだろうと思って、その紙を1枚持ち上げて見てみたんです。




そこには白紙にリピートマークが書かれただけの紙でした。




赤黒い、茶色いインクで、1枚のA4用紙の真ん中に殴り書きのようにリピートマークが書かれているだけなんですね。




まさかと思い他の紙も見てみたんです。




案の定、全部手書きのリピートマークが書かれていたんです。




その時点で少し薄気味悪くは思ったのですが、ただのイタズラだろうと思って。




気にせず紙をその辺に捨てて進んだんです。




長めの廊下が一直線にあって、その廊下に何個か扉がある。




1番突き当たりをいくとリビングのようでした。




リビングに行く前に部屋を見て回ろうと思って、まず手前の部屋を開けたんです。




そこは小部屋のような部屋で、タンスや色々なものが置かれていました。




アルバムやカレンダー、家の持ち主であっただろう女性ともう1人男の人が写った写真が散乱していたんです。




それだけならまだしも、壁中に紙が貼り付けられていたんですね。




これもまたA4用紙に、同じ色で、殴り書きで




「もどりたい」


「もどりたい」


「くりかえす」


「くりかえす」




と。




それだけです。




それだけ書いた紙が、びっしりと貼ってあるんです。




インクが垂れている紙もありました。




ポタポタと赤黒いインクが壁を伝って落ちているんです。




あれ?って思いましたよね。




もうこの家は廃墟になって誰もいないはずなのに、殴り書きされた文字からインクが伝っている。




インクが乾いていないという事なんです。




ということは、ついさっきまで誰かがこれを書いたっていう事になるんですよね。




流石の私もびっくりして、思わず後ずさりしちゃいましたよ。




後ずさった時に、くしゃりと写真を踏んでしまって




その写真を拾い上げて見てみたんです。




ロングストレートな黒髪、少しつり目、鼻筋も通っていて、The美人な女性と




その女性の肩に手を置いてる男の人が写った写真でした。




その写真の裏にも、リピートマークが殴り書きされていましたね。




とりあえず小部屋は見たので1度出て、時間もあまりないしリビングに行くことにしたんです。




リビングに繋がっているドアは開いていて、廊下を歩いている時も中が見えるんですけど




まぁやっぱり、一面紙だらけなんです。




少し精神がアレな人だったのかな。と思いながらリビングに入ったんです。




リビングにはソファとテレビ、観葉植物やオシャレな雑貨などが置いてありました。




奥を見ると対面キッチンがあって、近くにダイニングテーブルがあって、イスが2つ置いてあって。




結構広めなリビングで、廃墟ながらにいいなぁなんて思ってました。




リビングも異様なんです。




壁にカレンダーが色々な場所に掛けられているんですが、




全て日付が十五夜である9月17日で止まってるんです。




色々な店のカレンダー、役場のカレンダー、なにかのグッズであろうカレンダー




大きいカレンダーから小さいカレンダーまで、全部9月17日なんです。




だから憶測なんですが、自殺した日はこの日だったのかななんて思ったんです。




だからその日付で止まってるのかなって。




時計を見ると、全ての時計がある時間で止まってるんです。




22:49。




この時間で止まってるんですね。




全てですよ。




壁にかけてあるメインであろう大きいオシャレな時計も、テーブルに置いてある小さめの時計も、キッチンに置いてあるタイマーでさえも。




しかも当時行った日にちが同じで、時間もあと少しで22:49なんです。




うわぁ、と思いましたよね。




どこか最悪な気がして。




いよいよ異様な気がしてきて、帰ろうか悩んでたんです。




そしたら廊下の方から、ガサガサと荒らすような音が聞こえてきたんですね。




空き巣が来たのかってぐらい。




一気に人の気配もして、もしかしたら本当に空き巣が来たんじゃないかと思って




ゆっくりリビングから廊下の方を見渡したんです。




すると微かに声がするんです。




「…………………………違う」


「…………………………………………また」


「…………………もどれない」


「……………………………………くりかえし」


「くりかえしくりかえし」


「くりかえしくりかえしくりかえしくりかえしくりかえしくりかえしくりかえしくりかえし」




ってね。




叫ぶのを我慢しながら、口に手を当てて、必死に耐えてましたよ。




体の震えは止まらないし。




その声は、女性のものなんです。




か細い、それでもドスの効いたような、


低い低い唸り声に近い声。




全身に鳥肌が立ちました。




そして確信しましたよ。


これは人間じゃないと。




ガサガサバサバサ、何かを探しているのか部屋を荒らしているのか、




ずっと「くりかえし」と言いながら部屋の中を徘徊しているんです。




するとやがて廊下に出てきたんですよ。




その女性は、あの写真の人物と同一人物でした。




それでもあの美しく見えた黒髪はボサボサ、綺麗な顔立ちは邪悪にまみれたような表情で血まみれ、傷だらけ。




体もボロボロの白いワンピースに、あらゆる所から血を垂れ流しながら傷だらけ。




手には刃物と紙を持って、刃物で自分の腕を切り付けて出た血を拭ってその指で紙に何かを殴り書きしてるんです。




すぐに勘づきました。やはりあの紙を書いていたのはこの人だと。




私はその人、人と言っても霊ですが、霊に見つからないように必死にリビングに隠れていました。




そして奥を見ると対面キッチンがあって、近くにダイニングテーブルがあって、イスが2つ置いてあって。




結構広めなリビングで、廃墟ながらにいいなぁなんて思ってました。




リビングも異様なんです。




…ん?もう聞いたって?




あぁ、すいません。続けますね。




恐怖で震え上がっている時、私はどうやって脱出しようかと必死に頭を回していました。




絶対に見つかってはいけない、そう本能が言ってるような気がしましたね。




足音が近づいてきて、ペタ、ペタ、と裸足で歩く音が聞こえてくるんです。




私はキッチンに隠れていたのですが、そのキッチンの目の前まで足音が近づいてきたんです。




あぁ、見つかる。そう思った時、何故か足音がピタリと止まり、




また遠ざかって行きました。




私は一気に安堵して、少し顔を出して見てみたんです。




すると、その霊は後ろ向きのまま歩いてさっきの部屋に入っていくんです。




そしてまたガサガサバサバサ、部屋の中を荒らしているんです。




「くりかえす」をくりかえしたまま。




叫ぶのを我慢しながら、口に手を当てて、必死に耐えてましたよ。




体の震えは止まらないし。




その声は、女性のものなんです。




か細い、それでもドスの効いたような、


低い低い唸り声に近い声。




全身に鳥肌が立ちました。




そして確信しましたよ。


これは人間じゃないと。




…またくりかえしてる?




……あぁ、すいません。




どうも最近、同じ事をくりかえし言っている気がして。




続けますね。




あの女性の霊は、きっと生前に何かがあって




自分が死んだことも忘れて




何かが起こる前に戻りたがってるのではないか。




そう思ったんです。




よく霊体になったら、その辺をずっと彷徨うと言うじゃないですか。




だからあの女性の霊も、戻ろうとしても死んでしまっているから生前のことをずっとくりかえしてるんじゃないか。




と思ったんですよね。




紙に「くりかえし」と書く程に。




「くりかえしくりかえしくりかえし」




ずっと言いながらウロウロ徘徊してるんです。




同じ動きを同じやり方で同じ場所で




永遠とくりかえしてるんです。




もう私頭がおかしくなりそうでしたよ。




スマホの時間を見ると、22:48。




あと1分で、時計の時間と同じになる。




何かが起こる気がして、私は息を飲んで女性の霊と時計を交互に見てました。




49分になりました。




その瞬間、あの女性の霊が一瞬で消えたんです。




手に持っていた紙と刃物が、床にゴトンと落ち




空間が元に戻ったような気がしました。




私もしばらくぼーっとしていたんですけど、ハッと我に返り慌ててこの家から飛び出しました。




そして車に乗って、来た山道を急いで帰っていったんですね。




すると、森から出たはずなのにまた森に入っていくんですよ。




あれー?って思いながら、それでも走らせてたら




あの家の前に着いたんですよね。




いつのまにか道を間違えたのか。




そう思ってUターンして戻ったんですけど、どうもおかしいんですよね。




この家に来るには、森を通る時は一直線のはずなんです。




それに気づいた時には、あの家の目の前でした。




それから私は、何度も何度も、




バックしてUターンして来た道を戻ってまた家の前に着いて




バックしてUターンして来た道を戻ってまた家の前について




をずっとくりかえしました。




ずっとずっと。




何度も何度も。




戻れないんです、自分の家に。




戻れないんです、このループから。




これを話してる今も、ずっと。




もう何十回も、何百回も




ぐるぐるぐるぐる同じ場所を回っているはずなのに




朝にすらならないんです。




おかしいですよね。




おかしいと言えば、聞いてください。




これは私が体験した出来事なんですけどね。




十五夜の夜に、とある廃墟に行ってきたんです。




よくありそうな話でしょう?




どうせ夜に廃墟に肝試しに行って、そこで幽霊を見た、で終わるんだろう。




ってね。




まぁ、あながち間違ってはいないんですけど。




でもね、一味違うんですよね。






















ほらね。




この話を話し終わっても、




ずっとくりかえすんです。




話を終わらせられないんです。




私はこの家に来る前にもどりたい。




もどってこの家に来る前に引き返したい。




そのために私は




何度も何度も






何百回も何千回も何万回も






あの女性の霊と9月17日をくりかえして






車を運転しながら話し続けます。
























これは私が体験した出来事なんですけどね。




十五夜の夜に、とある廃墟に行ってきたんです。




よくありそうな話でしょう?




どうせ夜に廃墟に肝試しに行って、そこで幽霊を見た、で終わるんだろう。




ってね。




まぁ、あながち間違ってはいないんですけど。











『くりかえす』 END.

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