百合短編集

ふゆき3

白雪姫は眠りたい

「一緒に死なせて」

絶望的な人生の中、君はそう言っていた。

結局 君も私も自分を愛せない可哀想な人間だ。

それでも お互いだけを信じ お互いだけを愛し

歪な形ではあるものの何とかやってきた。

きれいな花丸なんて私たちには必要なかった。

ギリギリのラインでどうにか取り繕って、

まあまあ 生き延びてきた。


そんな私たちだったけれど

先に君の限界がやってきたようだ。

倒れた君はまるで白雪姫のように ただ綺麗で

雪の姫と言うその名前がよく似合っていた。


……でも 君がいることでうまく回っていた私の世界は

壊れ始め、堕ちるのにそう時間はかからなかった。

死ぬことすら恐くないと思うほどには壊れかけていた。


…死のうと思った…


だけど 私たちの間には1つだけ約束があったから

君を幸せにできなかった償いとして……


大好きな君にキスをした 子供だましのようなやさしいキスだった。

「キスなんかしても起きてくれる訳がないのに……」

私は君の王子様にはなれなかった。

わかっていたんだ。

それでも君の人生(ものがたり)を一緒に作れたのなら

魔女だってかまわない__。


震える手で包丁を取って 君といる時間を思い出した。

私は…… 泣かなかった 泣く理由なんてなかった。


君を刺して、

君の手を取って、

私を刺した。


白い雪のような君のワンピースが

真っ赤な血で覆われて行くのだけが見えた。

鈍い痛みと熱が冷えていくような感覚も消え始め、

心地の良い眠気が私を包み込んだ。

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