第53話 バカが義体でやってくる 3
3
江野君は寺田と動画部の部室にいた。
寺田は動画配信サイトでお笑いのページを観て笑っている。
江野くんは、中学生の頃、そこそこ友達がいたのだが、この中高一貫校に高校から入ったので、その友達たちとは疎遠になった。
友達がいないというのは彼にとっては由々しき自体であり、同時に、ようやく入れた名門私立校に親の手前辞めるワケにもいかなかった。
だから兼崎、桜木、林田、大森、寺田という仲間になれて嬉しかった。
最初はからかわれキャラだと思っていたが、それがどんどんエスカレートしてくる。
どう考えても自分より低能な寺田にもイジられるのは我慢ならなかったが、コイツらもかわいそうなヤツらだと思う気持ちにすることにした。
だが、それは逃避であるに過ぎず、妹から最近口が臭いと云われ、フケが降るように増えた。
明らかにストレスで身体が悲鳴を上げているのだが、それを認めるのは更にストレスなのだ。
そこに洋二が入ってきた。
「だ、誰だ! おまえ!?」
そう寺田は叫んだ。
例のマイナーなアメコミヒーローの恰好をしている。
バイク便で時間指定、場所指定で先程受け取ったのだ。
寺田が自分のキャラ作りも忘れて、怒声したのにはワケがある。
例えば、ネットで〈ギリースーツ〉と画像検索してもらいたい。
洋二の姿は今まさにそのようなものだった。
寺田は身構える。
洋二は距離を取る。
手の関節をぽきぽきと鳴らすと彼はコクピットに座っていた。
寺田の攻撃体としてのデータが前面のディスプレイに表示される。
それよりも寺田は吠えるだけで、自分から攻撃を仕掛けるヤツではないのは、洋二には手に取るように判る。
―いいよ、但し、さっきのパンチは人に当てないように!
藍のその言葉を思い出し、洋二は寺田にのしかかった。
下敷きになった寺田はギャーギャーと騒ぐ。
一分後、言葉少なくなってきた。
更に三分後、無言になった。
洋二の現在の身体は何度も云うように複製生体である。
体重は洋二の以前の生身と変わらぬが、作り物である。
その作り物の物体が持つ冷たさを寺田はモロに感じているようだった。
洋二が寺田から離れ、立ち上がる。
寺田は無言で、洋二が離れても肢体を一切動かせなかった。
「今から、ブチかます前に必要なことがある」
この言葉を洋二はけったいな衣装のまま江野に耳打ちした。
「アンタを助けるべきか、否か」
洋二としてはこの一線だけは譲れなかった。
「言っている意味は判るな?」
洋二のその言葉に、江野は無言で首を縦に振る。
首を立てに振った時に、口が開いていたためか、呼吸が漏れた。
洋二の衣装は、顔を覆う大きな口のデザインなのだが、空気穴は存分に空いている。
表情は見えないのだが、首の曲げ方で、口臭がキツいと勘づかれたのに気づいた。
「ああ、助けてくれよ、頼むよ」
「何から助ける?」
江野はひと息ついた後に云う。
「ここから這い上がるために助けてくれよ!」
「よく言った。ここにいろよ」
洋二はしゃがんで次は寺田の耳元に話しかける。
「聴こえたか!? この時点で今夜の決闘は終った。江野がそう言えば終わる話なんだよ。だからここからはエピローグに過ぎない。おまえは負けた。だからオレの手足となって働くのだ」
無表情のままうなづくことが寺田の返答であった。
もともと、兼崎を含む四人のイジメっ子(寺田は既に軍門に下ったのでオミット)はこの部室のPCとメンバーのスマホに侵入することで行動は読めるが、来ることだけは知っている他校からの助っ人五人の情報は無かった。
寺田は今回の打ち合わせのために連絡を取り合い、実際にファミレスで一回ミーティングをしたので、一人の人物のスマホ(デカゴンだ)から残り四人のスマホも探知した。
こうして、兼崎ら四人と助っ人五人衆の位置情報を全て把握したのだった。
「今の見て判ると思うが、PCやスマホのブロードバンド製品は完全に掌握した。ここでオレのバックアップを二人でやるんだ」
というと洋二は部室を出ていった。
そして空を見上げる。
「今夜は月がめっぽう赤い」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます