第49話 抱擁と計画と依頼 9



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こうして洋二は授業を受けることになったが、彼の目にはもうこのクラスは異世界と同義だった。

知らないことがあったことが洋二には恥ずかしかった。

彼の能力を使えば、動画サイトにある兼崎の動画とチャンネルなぞは瞬殺で、永久に消すことが可能だった。

いや、部室にあるPCの中の素材動画も同様である。

だがそれをしてどうなるというのか。

今夜も江野をイジメる動画を撮影すると聴く。

むしろ動画を消したのは江野だと疑われ、よけいにイジメが酷くなる確率が高い。

兼崎たちの所業をアイツの親の会社からの加担を含め、ネット内にバラまくかとも思ったが、人の心はそんなことで変わらぬであろう。

だがさすがに兼崎たちを殺すのは最悪の選択だ。

社会的に抹殺すら考えたが、それで悪は去ったと思うこのクラスの態度は自分は許せないだろうとも思う。

『お昼時間、屋上で待つ 藍』

そんな堂々巡りな思索にふけっていた時に、藍からメールが来た。

そして洋二はそのようにした。


「本当に屋上のドアの電子錠を開けられたんだ」

後から来た藍は洋二にそう云った。

「僕の能力を知っているのはこの校内できみだけだよ」

そう、藍は既に洋二の能力を前提に話している。

立ち入り禁止の屋上に二人はいて、コンビニエンスストアで売っている少し高めのカプチーノを藍は洋二に渡した。

―これを登校時に買っていたということは今・ここを想定していたのだな。

「日曜に夜に届いた動画の手前の黒い服の人、飯田安奈という女性よね」

「うん、判ったんだ」

「雰囲気は画面を通しても伝わったから。弟は少し癒された。ありがとう」

「怒られるかと思ったよ。飯田安奈に谷口という女性を黙らせに行かせたのだから」

「いえ、あれくらいの選択しか、私も思いつかない。どうやってそうさせたのかは聞かないし、聞いても私にはできないでしょうから」

こんな屋上でも数枚、桜の花びらが舞っている。

屋上から下をのぞくと狂ったように桜が咲いている。

「ネットでどこにでも侵入できる以外にこんなこともできる」

洋二は藍と距離を置いた。

そして階段が内部にある塔屋の壁を殴った。

漫画のように突き破りはしなかったが、拳のカタチは残っている。

「!」

驚く藍。

その複製生体の利き腕の拳だけ、触ってみると判るが、別の素材でできている。

撲殺できるかどうかは試したくもない洋二であったが、ミサイルやビーム兵器は内蔵されていないが、利き腕だけは戦闘用にチューンされていたのだ。

「脅したり、少しケガさしたりはできる。誰を相手にするか、判るよね?」

「私のお父さん」

「そうだ、実の娘がやっちゃいけない」

「昨日休んだのは飯田さんに会いに行ったんだよね。何を話したのかを教えて」

洋二は慎重に言葉を選んだ。

それでもやはりホームレスに身をやつし、身元不明者に成り切って出産したことだけは隠した。

だが堕胎したのではなく、産んで、捨てたことは話したのだ。

藍はスマートフォンの画面をタップした。

そして洋二のスマホが受信する。

「今送った私が知りたいこと、教えて欲しい。鮎川くんならば直ぐにできるよね」

藍からのメールに書いてある依頼を読む洋二。

「これは、これはダメだよ」

「同じ家に住んでいるの。もう限界なんだ」

「そんな家、いっぱいあるだろう」

「イジメのあるクラスだっていっぱいあるよね」

「正直に言う、ついさっき気づいた」

「そういう天然なトコ、嫌いじゃ、ないよ」

「僕は直したいよ」

「私、下校して中野に住んでいる伯母の家に行く約束をしている。そうしたら、もう、父をやつけるしかなくなる話を聴くと思う。今夜やる」

「オレも一緒に行こうか」

「いつかさ、例の蟹カレーを奢ってよ」

「うん。でも、変えたくないことがある。言わないでもいいかと思っていたけど、麻井さんの今までの苦労に砂かけるようだから、ちゃんと言っておく」

「聴くよ、言って」

「今夜、兼崎たちを完全に退治する」

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