第29話 帰宅と疑惑と捜索 9



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姉と弟は二人で話し合ったが、まず趣味がない。

何かを集めるとか自作するとかがない。

お酒は飲むようだが付き合い程度で溺れることはあまりない。

家族旅行には藍が中学の頃まで、よく行ったが、あれは心から楽しんでいたのか。

楽しんでいたのだろうが、母親が決めたコースをついて行っただけの気がしてきた。

同僚や中高大の旧友といった付き合いがない、実家の話もほとんどしない。

今の地位が課長だということをよく母親が喜んで話すから、それくらい会社の仕事を心血注いできたようだが、正直、プライドのようなことを感じさせない父であった。

「昭、ちょいとここはこの姉に任せてよ」

「何でさ。年齢より女に任せるのは勘弁。、男の仕事だと思うよ」

―かわいい。やはり昭はかわいい。なにより、「その姉はどういう情報握ってんの?」と質問していい立場なのに、それに気づかないことが更にかわいい。

そう、今朝の襲撃女性、母親が避妊具を自分に見せつけたこと、叔母・類と父・延彦の関係、とコレらは藍もどれも口にしたくないので、ちょうどよかった。

「私のクラスの友人にそういうことを得意とする人がいるのよ。まずはその人に確かめたいことがある」

昭は不服そうだが、その表情には生気が宿っていた。

両親が離婚するかもしれない、その原因は父親が若い女性を妊娠させ・中絶させたことというトゲを数か月抱えていた昭は姉と話し合うことで、その重荷の大半を下すことができたからだ。

正直、昭としては、家族の話に他人を巻き込むのはイヤだったが、この安堵感にしばらく浸りたいという想いがあったので、しばらくは静観しようと思ったのだ。

だが昭はその友人を勝手に女性だと思っていたので、男性、つまり鮎川洋二だと知っていたら、又別の反応をしたことだろう。

藍は昭の部屋を辞して、自分の部屋に戻った。

―今朝の襲撃女性の顔は鮎川くんも見ている。あの女性もお父さんの関連であることは間違いないだろう。

父親の周辺を探れば、飯田安奈と谷口早苗の情報に出くわすと藍は睨んでいた。

そして未だ二人が同一人物であることを藍は疑っていた。

―谷口早苗と名乗った女は、私という姉がいることを知っていたらしい。なれば、昭の語った暮れの話から春である今朝の行動に出た可能性はゼロではない。

二人の姉弟に起こった偶然として、二人ではなく、一人の女性を想定することの方が現実的だと藍は判断していた。

自分の家族に起こっていること鮎川洋二の身に起きたフシギな事、つまり、刺されても・墜落しても何もなかったことは何か関連があるのだろうか。

―そして、仮に襲撃女性の身元が割れたとして、鮎川くんにはなんと言って首実検に参加してもうおうか。

真面目さと誠実さで鮎川洋二に藍は好意という程のものではないが、好印象くらいは持っていた。

だが実は苦手でもあった。

なにより自分より身長が20㎝以上高いから、それだけでちょっと、怖い。

小さい自分からしたら羨ましいのだが、小さいままだから怖いのは当たり前だ。

少し話しても頭の良さは感じるし、沈着冷静の落ち着きを感じる。

しかしだからこそ、そういうひとに、「一緒にあの朝の女性らしきひとを見つけたから来て」と云わなくてはならないのは気が重い。

仮に父親の会社の人なのが確実ならば、丸ノ内線に乗って、父親の会社まで行かなければならないのだ。

―その間、何を話すんだよ。

好印象は持っていたが、自分の世界をしっかりと構築している感じが外界の俗事を気にかけないようにしていると藍は見ていた。

―あ、鮎川くんから、小林先生には今朝の襲撃事件について報告しろ、って云われていたのを今の今まで忘れていたよ。

いや、それでいいのだ。

苦手なトコもある鮎川と違い、小林先生を藍は嫌いだったから。

伯母・類とも話さなければならないし、藍は今日だけでえらく多い課題を与えらていることに気づいた。

だがそれをあまり気に留めない性格でもあった。

藍がこの世でいちばん好きなことは眠ることであった。

そのためのあらゆる万難を排す人生を送ってきた。

成績が良いのも、トラブルを速やかに解決しようとするのもそのためだ。

スマホカバーやキーホルダーがタツノコプロ©付きのアクビちゃんなのもそのためだ。

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