第13話 検索と実験と再会 3



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洋二は掛け布団をめくり、立ち上がり、部屋の照明をつけた。

PCの電源をつけ、パスワードを入力し、立ち上がりを待ち、インターネットのブラウザを叩く。

右手の小指内側から生えた爪チップをPC本体のUSBコネクターに触れさせようとする。

だが、爪チップは消えていた。

ヒヤリとする洋二。

だが頭の右側がむずむずする。

髪の毛をまさぐると中に、毛髪とは違う硬いものに触れる。

硬い異物を排除しようするが、その異物は髪の毛の先にあったのだ。

洋二はその時に気づいたのだ。

この異物がUSBコネクタで、髪の毛がコードの代わりになっていることに。

よくよく考えれば、右手から生えた爪チップを本体に指しながら、キーボードやマウスを使うのは不可能なのだ。そこで髪の毛から〈出た〉のだ。

まず最初に洋二が脳内とネットを繋げて行ったことは寝床のスマホで行ったことが再現できるか試した。

果たしてそれは完全にPC内においても再現できた。

次に洋二は「飯田安奈」の名前をクリックしてみた。

すると次の瞬間、とんでもないものが羅列された。

飯田安奈の、出身、両親、血液型等の身体検査で判ることの20年以上分、通学した小中高大、アルバイトから現在までの職歴、それどころか交友関係や初体験の相手まで出てくる。

洋二は直ぐに、ディスプレイの電源を落とした。

物心ついてから既にネット環境にあった世代なので、両親や学校からコンプライアンスやポリティカル・コネクトについて厳しく教えられてきた。

数秒見ただけだが、あの情報はネット内のコンテンツだけではなく、役所や学校までニュースソースに用いらないと成り立たないものだと理解した、だから消した。

更に、交友関係や男女関係は個人の、匿名の日記やつぶやき、メールから判断したものであろう。

つまり法人・個人問わず、全てにアクセスしなければあの画面は出ないのだ。

スマホに又爪チップを入れようとすると、案の定、爪チップが直ぐに生えてきた。

洋二は日曜朝に放映している特撮TVドラマが子どもの頃から好きで、集団の方も、単体の方も、最初のひと月だけは両方観て、一年全部観るかを決めるのだ。

その単体の方の人気投票があって、国営放送の特番バラエティで近々発表される。

単体の一位を自動車に乗るヒーロー〈ドライブ〉にしたら、どうなるか?

念のため、iPadで見ると、洋二が操作した通りに、〈ドライブ〉が一位になった。

直ぐにスマホで、元に戻したが、これではっきりした。

―このオレから出てくるUSBはネット内の全情報を集めて・精査できるだけでなく、ネットの全てのセキュリティやウォールを無力化し、干渉すらできる。

洋二はそれがどれだけヤバいかも理解した。

同時に更にに二つ、想起する。

一つは、さすれば、自分の脳内に全てのネット情報が入ってくるのも可能なのではないか。

それはやり方によれば、端末すら使わずに済む。

だがそのような所業は〈神の視点〉だから、おこがましいと洋二は考えた。

そこまでする度胸は、今は、なかった。

もう一つは、先程、飯田安奈の情報を見た瞬間にディスプレイを消したワケに繋がる。

個人情報や公文書の無断の閲覧は犯罪であるということだ。

飯田安奈の情報をその両方から得たということ、単体ヒーローの人気投票一位を一瞬でも〈ドライブ〉にしたこと、これは探った・イジったというだけで、痕跡を残し、ハッキングが逆探知されることには繋がるのではないか、と。

―近所の、ネットカフェに行くしかない!

そう、倫理や道徳以外のも足が着くことを恐れたので、洋二は増長しなかったのだ。

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