第154話 悲報
共和国首都へ
非常に重要な
その第一報となる
その
「子供たちが……」
疎開先であるパストラ村の感染症騒ぎによって次の疎開地である港町バラーディオに向かっていたはずのヴァージルとウェンディーの
バラーディオの手前の宿場町に潜ませていた
すると街道の途中で停車している馬車を発見した。
その馬車は確かに大統領夫妻が子供たちのために用意した車体だったが、
兄妹と行動を共にしているはずのジリアン、リビー、
馬車を引いていた馬の姿すらもなく、全員が荷車だけを残して
しかし現場には
そこまでが第一報の内容であり、至急、現場の調査及び周辺の
「イライアス……」
クローディアは不安に瞳を揺らしながら夫に目を向ける。
イライアスは冷静さを保つべく、大きく息を吐いた。
そして秘書官であるエミリーとエミリアの双子姉妹に命じる。
「悪いことが起きたと言わざるを得ないな。まずは国境封鎖を。子供らを国外に連れて行かれぬように。しかし各所への通達は内々に。対外的に国境封鎖を発表してしまうと国民の不安を招く。それから次の報告を待つ前に手を打とう。
イライアスは妻の肩を抱くと彼女を
「我々に出来ることをやろう。今はそれしかない」
夫の言葉にクローディアは不安げに
すぐにでも子供たちを探しに飛び出していきたい気持ちを懸命に抑え、2人は心を強く保つべく
☆☆☆☆☆☆
「ブリジット。ボルドさん。アーシュラさんから火急の報が届きました」
そう言って女王の執務室に駆け込んで来たのは、ブリジットと同じ34歳でダニア評議会の議長を務めるウィレミナだった。
今回の作戦でアーシュラから受け取った手紙は、まず評議長のウィレミナが内容を確認することが、ブリジットやボルドも含めた全員の認識として一致していた。
ウィレミナにはダニアの政治の長としてそれを確認する必要があるからだ。
彼女は手紙をブリジットに手渡すと同時に概要を説明した。
「
ウィレミナの話す概要の詳細はアーシュラの手紙に書いてある。
彼女の話を聞きながらブリジットとボルドは食い入るようにアーシュラの字に見入った。
ダニアのエミルを捕らえ、共和国側の要人の誰かを捕らえれば、王国にとってはこれ以上にない共和国への
もし公国に
その内容にブリジットとボルドはハッとした。
アーシュラを通じてクローディアから聞かされていることがあるのだ。
ブリジットはボルドと
この局面ではそれが必要だと確信したからだ。
もはや
「……なるほど。ヴァージル様とウェンディー様が疎開を」
ウィレミナは一を聞いて十を知る冷静で理知的な女だ。
ブリジットらがそのことを議長である自分にも言わずにいたことを責めるようなことはもちろんしないし、何のわだかまりもなく理解した。
「共和国にとっても、相手に捕らわれて最も困る人質はあのお2人です」
「
ブリジットはその顔に怒りを
そんな妻の肩に手を置き、ボルドはウィレミナに目を向けた。
「エミルの追跡はアーシュラ隊長に任せつつ、共和国内に監視の目を増やすべきですね。ヴァージルとウェンディーが向かう先であるバラーディオに駐在する我らが同胞たちにも街中の監視を強化するように伝えましょう」
共和国の各主要都市には同盟国としてダニアの女戦士たちを数多く常駐させている。
港町バラーディオにも150名ほどの赤毛の兵たちが駐留し、共和国軍兵士と共に港町の防衛任務に
ボルドの話にウィレミナも
「ええ。賛成です。この話、議会にかけてもかまいませんね?」
「ああ。非常時には議会が一枚岩であるべきだ。ただし、2人の疎開の件は評議員の間だけで留めてくれ。それ以上広がると収拾がつかなくなる。クローディアにはアタシからその
「お願いいたします」
そう言ってウィレミナが頭を下げ、ブリジットの執務室を後にしようとしたその時だった。
彼女の部下の1人が新たな手紙を手に、駆け込んで来たのだ。
部下の女は
「続報のようです。すぐにご確認を!」
その手紙を受け取り、その場で開いたウィレミナは思わず目を見開き、ほんの
しかしすぐに我に返り、ブリジットとボルドに目を受ける。
「敵の動きが早いです……ヴァージル様とウェンディー様が……
ウィレミナが告げたのは悲報だ。
その話にブリジットのみならずボルドも悲痛な
☆☆☆☆☆☆
部下の新たな報告に、クローディアは表情を失い、
「そ、そんな……」
ヴァージルとウェンディーが
その第一報を受け取ってから1時間もしないうちだった。
続く第二報が共和国首都のイライアスとクローディアの元にもたらされたのは。
それは……悲報であり
ヴァージルとウェンディーを乗せた馬車が無人で見つかったその街道付近の林の中で、無数の遺体が発見された。
打ち捨てられたその遺体の多くは野盗と
そして……赤毛で筋骨隆々の体格を誇るダニアの女戦士2名の遺体もそこにはあったという。
それがヴァージルとウェンディーの護衛をクローディアから
「ジリアン……リビー……」
その名を
クローディアはそんな夫の胸に顔を
ジリアンとリビーはクローディアにとっては特別な部下たちだ。
長く
2人はヴァージルやウェンディーのことも大切に見守ってくれた。
その2人が任務の果てに命を落としたのだ。
その事実にクローディアは打ちのめされ、しばし立ち上がることが出来なかった。
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