第144話 それぞれの焦り
「隊長。もう少し速度を上げられませんか?」
プリシラは荷代から御者台のアーシュラにそう声をかけた。
エミル
プリシラの
エミルの背中が見えているような状況なのだ。
だが追跡はそう簡単ではない。
15分走るごとに止まり、追跡相手の
雨でも降らない限り、馬車の
色々な
そうなったら目も当てられない。
「プリシラ。気持ちは分かりますが落ち着きなさい。1時間後にすぐにエミル様を救おうと
プリシラが
集団行動とはそういうものだ。
「……はい。すみません。隊長」
プリシラは拳を握りしめ、
アーシュラは再び前を向くと御者台に座ったまま前方をじっと見つめる。
目だけでなく、彼女の
(エミル様……かなり力が弱まっている。何かあったんだ)
エミルはアーシュラから見ても父親のボルドを超える強烈な力の持ち主だった。
ゆえにアーシュラはエミルの
エミルの強い力はアーシュラからは感じ取りやすいからだ。
だが、実際に
どのような理由かは分からないが、エミルの
(王国の薬……その可能性は大いにある)
王国には
実はアーシュラも同じような薬を自作したことがあった。
自身で試してみると確かに
(やはりエミル様を
アーシュラは先ほど共和国首都に向けて飛ばした
王国のチェルシー将軍が
そのことを大統領夫妻に知らせるための
エミルだけでなくあの2人まで
アーシュラは御者台で目を光らせながら共和国とダニアを徐々に
☆☆☆☆☆☆
「おいおい。
川漁師の漁を手伝い終えて集落に戻ってきたジュードは
そんな彼の
彼らの視線の先では、集落に生える木々の枝に
ジャスティーナだ。
まだ体に痛々しく包帯を巻いたままの彼女は、その周囲でオロオロしながら「やめてちょうだい」と声をかける川漁師の妻の言葉を無視して、一心不乱に体を動かし続けていた。
つい先ほどジュードは川漁の合間に漁師らからジャスティーナの回復具合を聞かれ、順調に回復しているから今頃は剣の訓練でもしているかもしれないなどと
そして戻ってきたらこの有り様だった。
「ジャスティーナ。あまり皆さんを
ひたすら
しかしジャスティーナはまったく意に介さない。
「別に
「数日前まで死にかけていたんだぞ。君は」
「だが死ななかった。生きている以上、体を
そう言うジャスティーナにジュードはそれ以上の小言をあきらめ、川漁師の夫妻に言った。
「すみません。
そう言うジュードに夫妻は目を丸くしながらも
そんな彼らの戸惑いなどどこ吹く風で、ジャスティーナは体を動かし続ける。
動かす
だが痛みは生きている証拠だ。
そして自分に痛みを与えた相手に対する闘争心を忘れさせない大事な
(あの白髪女。必ず借りは返すよ)
やられたらやり返す。
ジャスティーナの胸にその
プリシラやエミルのような成人前の子供をつけ
ジャスティーナは枝から手を放し、静かに地面に着地した。
その衝撃にまだ体が痛むのを感じつつも、彼女は顔色ひとつ変えずにジュードに目を向ける。
「ジュード。私はあと何日でここを
その言葉にジュードは嫌そうにため息をついた。
「……出来れば最低1ヶ月はここで体を癒してほしいな」
だがジャスティーナはそんなジュードをキッと
「3日だ。3日でここを
「人間の体はそんな簡単には治らないぞ。過信は君らしくない」
ジャスティーナの鋭い視線を受けながら、ジュードは一歩も引かずにそう言った。
「治らなくてもいい。移動しながら治すさ」
「勘弁してくれよ。君が寝ているベッドに車輪でも付けて、俺が引いて歩くのか?」
そう言うとジュードはジャスティーナに歩み寄り、その肩にそっと手を置いた。
「気が
ジュードの言葉にジャスティーナは自分の内心が
特に
「私はまだ……受けた依頼を完遂していない」
プリシラとエミルを親元に返す。
それがあの2人からの依頼内容だ。
「分かってるさ。それを完遂するために、今は休養が必要なんだ。手負いの君に出来ることは少なくても、万全の体を取り戻せばプリシラやエミルのためにしてやれることは山程ある。
その言葉にジャスティーナは深く息を吸い込んで静かに吐いた。
自分自身を落ち着かせるように。
確かにジュードの言う通りだ。
自分は
怒りにではない。
かつて救えなかった娘への無念を、プリシラやエミルを救うことで晴らそうとしているのだ。
ジャスティーナはそんな
「言ったな。ジュード。おまえの古巣である王国の土を再び踏む覚悟はあるのか?」
「ああ。エミルがもし王国に
「フッ。そういう暑苦しいのはおまえには似合わないよ。ジュード。ぶん
そう言うとジャスティーナは力強く拳を握り、それからジュードと共におとなしく漁師の家に戻るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます