第13話

「ったく、どこにいったんだ……」


警察には届け出ていた。


だが、絵理香はもう25歳だ。


大のおとながいなくなったとしても、警察はそう重要視してはくれない。


「本人が望んで家族の前から姿を消したのだとしたら、それを制する権限は我々にはないですからね。ま、これに記入しておいてください」


担当した警官は、事務的に調書をまとめ


「では結構ですよ」と冷たく言った。


「見つかりましたら、ご連絡しますから」


その場に立ち尽くしたままの村瀬に、警官が出口の方向に手のひらを差し出した。


頭に血が上るよりも先に、呆気にとられてしまった。


村瀬はそのまま、足取り重く警察署を後にした。


――妹を、絵理香を救えるのは俺だけだ……。


誰もあてにできない。


病気がちな夕子も、警察も、誰の力も借りることはできなかった。


村瀬は絵理香の部屋を後にすると、妹の立ち寄りそうな場所を探して回った。


毎日、毎日、同じことを繰り返す。


絵理香の部屋を訪ね、絵理香を探しにでかける。


会社には休職願いを出していた。


大学生の頃から憧れていた広告代理店に勤めるようになって、もうすぐ5年になる。


もしこのまま、絵理香が見つからなければ、会社を辞めなくてはならないかもしれない。


村瀬は婚約者の畠山亜矢の悲しそうな顔を思い浮かべ、重たい気持ちになる。


その思いを振り払うように、村瀬は肩をグルグルと回し、実家の玄関チャイムを鳴らした。


たった今、仕事を終えてきたような表情を無理に作りながら、夕子の返事を待った。


「お帰り。疲れてるとこ、申し訳ないね」


村瀬は無言で首を左右に振った。


「さて、それでは便利屋が電球交換させていただきますよ」


夕子に気づかれないように、無理に明るい声を出す。


それに対し、夕子が目を細め弱々しい笑みを返してくる。


――絶対見つけ出す。母さんのためにも。


村瀬は夕子に見えないように、下唇を噛み締めた。

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