第21話

涙は出なかった。


心の防御作用が、それを真由美の遺体と認識しようとしない。


あの布を剥がせば、中には丸まった座布団や枕が入っているに違いない。


真由美は何か事情があって姿を見せないだけで、どこかで元気に笑っている……と。


里美は辺りを見回した。


黒い服に身を包み、涙を拭う人達。


正面に飾られた真由美の写真は、ついこの前までの笑顔となんら変わりはない。


違うのは、その笑顔を取り巻くようにして、色とりどりの花が飾られていることだ。


――どうして花に囲まれてるの?


――どうして写真に黒いリボンが結ばれているの?


――どうして……。



心の防御作用が少しずつ薄れていく。


真由美の葬儀であることを少しずつ思い出していく……。

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