act 11

9月10日金曜日、午後8時。警視庁記者クラブ。


ぎっしりと詰めかけた記者たちの熱気で、部屋の温度が上がっている。カメラマンたちがレンズの最終調整に追われる中、警視庁捜査一課長の片岡徹と広報課長の成瀬香織が入室した。一瞬の静寂の後、フラッシュが光り、シャッター音が部屋中に響き渡る。


成瀬が軽く咳払いをすると、部屋が静まり返った。


「本日9月10日午後8時より、記者会見を始めさせていただきます。」


片岡が一歩前に出て、厳しい表情で話し始めた。


「本日9月10日金曜日午後6時43分、殺人容疑で、吉本晋也容疑者を逮捕しました。容疑者は35歳、東京都港区在住の医師兼アーティストです。」


記者たちのペンを走らせる音が激しくなる。


「吉本容疑者は、9月1日水曜日の午前10時15分頃、自ら警視庁本部に出頭してきました。その後約9日間に及ぶ事情聴取と徹底的な裏付け捜査を経ての逮捕となります。現時点で、複数の殺人事件への関与が疑われています。」


片岡は一呼吸置いて続けた。


「なお、容疑者が出頭した際、『すべてが計画通りだ』という発言をしております。この発言の真意を含め、現在詳しく捜査を進めているところです。」


成瀬が前に出て、「それでは、ご質問をお受けいたします」と告げた。


一斉に手が挙がる。成瀬が指名すると、前列の記者が立ち上がった。


「読売新聞の木村です。被害者の数は具体的に何名でしょうか?」


片岡が答える。「現時点では複数名としか申し上げられません。詳細は捜査中です。」


次の質問者が立つ。「NHKの上野です。容疑者の犯行動機は分かっていますか?」


「動機についても捜査を進めているところです。」片岡は慎重に答えた。


「共同通信の渡辺です。複数の事件とのことですが、どのくらいの期間にわたる事件なのでしょうか?」


片岡は一瞬考えてから答えた。「捜査上の理由から具体的な期間はお答えできませんが、ここ数年の未解決事件を中心に関連を調べています。」


「毎日新聞の岡田です。容疑者の『すべてが計画通り』という発言の意味について、警察ではどのように捉えているのでしょうか?」


片岡の額に薄く汗が浮かぶ。「発言の真意については現在捜査中です。容疑者の心理状態も含め、慎重に調査を進めているところです。」


質疑応答は30分近く続いた。最後に片岡が締めくくる。


「我々は引き続き徹底した捜査を行います。市民の皆様のご協力をお願いいたします。特に、ここ数年で身近な方が突然行方不明になったなどの心当たりがある方は、どんな些細なことでも警察にご連絡ください。」


記者たちの興奮した声が飛び交う中、片岡と成瀬は厳しい表情のまま退室した。


会見場の外では、テレビクルーが速報を伝え始めていた。「連続殺人事件の容疑者、警視庁が逮捕」というテロップが画面を流れる。


SNSでは既に #吉本晋也 #連続殺人 などのハッシュタグがトレンド入りし始めていた。日本中を震撼させるこの事件の全容は、まだ誰にも見えていなかった。

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