Yくんとコロ助を作った話
梶野カメムシ
前編:「キテレツ大百科のうた」
中学時代の奇妙なエピソードをふと思い出したので、筆慣らしついでに書いてみます。誇張なしの実体験ですが、記憶力がザルなので事実と異なる点があるかもしれません。多少サスペンス風味です。
※ ※ ※
自慢ではないですが、中学までの梶野は成績上位でした。
学年平均で五番……いやクラスだったかも……とにかく五番目くらい。
なんでそんな順番がわかったんでしょうね。
通知表に順位が書かれてた気もしますし、噂で聞いた気もします。
記憶がザルなので曖昧ですが、とにかくそこそこ頭がよかったのです。まあ高校入学時にドロップアウトして今に至るわけですが。
成績上位の理由は単純で、友人がほぼゼロだったから。本を読むか勉強か、どちらかしか記憶にないですから。
当時の梶野はコミュ症でいじめられっ子側でした。友達の家に行ってもひたすら漫画読んでるタイプでしたから、今ならいなくて当然と思います。
私は「群れる」「人と合わせる」という意識が欠片もない子供で、誰も友達になってくれないとわかると、ひたすら図書館に通うようになりました。勉強ができたのはその副産物。国語のプラスで英語のマイナスを補う感じで、ドロップアウト後の大学受験も国語の点数で押し切りました。もちろんド文系です。
そんな私ですが、友人が欲しくなかったかといえば、そんなことはありません。
漫画や物語に登場する友情に強く憧れましたし、本ばかり読んでいる自分にコンプレックスもありました。いつか何とかしたい。でもどうすればいいかわからない。まあ根暗系男子のよくある青春です。その後、一念発起して大学デビューし、逆方向に色々と弾けるわけですが、今回は割愛。
これは、そんな孤独な少年(笑)が、ふとしたきっかけから友人を作り、ともに一つの目標を目指した末に別れる……そんなお話です。うん、嘘は言っていないw
※ ※ ※
「キテレツ大百科」はご存知でしょうか。
トキワ荘の天才、藤子不二雄の漫画作品の一つです。
平賀源内的な天才発明家「キテレツ斎」の子孫である主人公キテレツが、先祖のメモを頼りに発明品を再現する……というのが物語の趣旨です。
要は「ドラえもん」の秘密道具を、主人公が自作するみたいな話だと思ってください。当然、キテレツはのび太タイプではなく、しっかりした秀才肌。のび太的なコミカルな役目は、最初にキテレツが作ったマスコットロボ、「コロ助」が担っています。寸胴にチョンマゲがトレードマーク。
この作品、今ではかなり有名ですが、これは87年に始まったアニメ(「初めてのチュウ」とか)効果によるもので、それ以前は全3巻のマイナー作でした。
当時中学生だった私はこの作品が好きでしたが、アニメ化する何年も前だったので、周囲に同好の士は一人もいませんでした。まあ私も熱烈なファンという程ではなく、コミックも1巻しか持ってなかったんですが。
そんなある日のこと。
「梶野、話があるねん」
放課後、真剣な目をしたYくんに呼び出されたのです。どこに呼ばれたかもう忘れましたけど、多分校舎裏とか。
Yくんは頭がよく、成績は学年トップ。特に理数系の天才だと聞いたことがありました。例によって噂の出どころは謎ですが、その後、全国トップレベルの高校に行ったみたいな話を聞いたので、ずば抜けて頭が良かったのは間違いないです。
Yくんとは同じクラスのハズですが面識はなく、今だに「同じクラス……だったっけ?」と首を捻る程度に赤の他人でした。まあよそのクラスに声かけに来るのは流石に不自然なので、多分そうなんだと思いますが。
私を見下ろすYくんはイタリア系ハーフみたいな、バタ臭い感じのハンサムでした。黒目がちな瞳は自信たっぷりで、いかにも女子にモテそう。クラスカースト底辺の私とは対照的です。
そんなYくんが、やはり自信に満ちた声で、こう言ったのです。
「梶野、俺と一緒にコロ助を作ろうぜ」
目が点になった……という表現を知るのはもっと後ですが、当時の私はまさにこれです。
Yくん曰く、教室で「キテレツ大百科」を読んでいたのを見て、私に目をつけたそうな。マイナー作品を読んでる者同士、波長が合ったのかもしれません。誘われる前に、しばしキテレツトークをした覚えもあります。その上で、さっきの勧誘に至るわけです。
「ほら、漫画に設計図があったやろ。
あれを参考にする」
Yくんはわざわざカバンから「キテレツ大百科」を取り出しました。付箋が挟んでありました。
確かに、コミック第一話のコロ助を作る前の場面には、ロボットの設計図が載っています。歯車とか内部のメカニズムが透けて見える、なんたら大百科とかでよくあるやつです。
でもそれは、言うまでもなく漫画のそれで、本物じゃありません。というか本物の設計図なんてないです。漫画なんだから。
というか、からくり人形をベースにしてることもあって、設計図にしてからがもう子供だまし。小学生の私は騙せても、中学生だとちときつい。
これをもとに、コロ助を作る?
本気か? いや、無理だろ……
私の心境はこんな感じでした。というか誰でもこうなるはず。コロ助って自立して、人間と遊んだり会話したりするんですよ?
コロ助がイメージできなければ、ドラえもんで代用してください。「一緒にドラえもん作ろうぜ!」と同級生に誘われて、「おっけー」と答える人間は普通いません。そういうことです。
では何故、私がこの誘いを受けてしまったかと言うと。
「梶野は頭ええからな。
おまえなら手伝ってくれると思って」
この殺し文句は、今でもはっきり覚えてます。
学年トップに賢いと認められ、名指しで協力要請を受けるのは、コミュ症の私には効果抜群でした。
もうこの時点で「よくわからんから断る」という選択肢は私から消え、「できる範囲で協力する」と約束してしまいました。
何をどうやってコロ助を作るつもりなのか、さっぱり説明されないまま。
当時の心境を振り返るに、別に私がコロ助を作らされるわけでなし。Yくんの望み通りに手伝えばそれでいいと考えていた気がします。
本当にコロ助を作るのは無理でも、ラジコンとかプラモ的な何かなら作れるかもですし。私に理系の知識は皆無なので、考えるのはYくんに任せておけばいい。私が悩む必要もない。
それにもしかすると、Yくんは天才で、本当にコロ助を作ってしまうかもしれない。
だいたいそんな感じで、私は自分を納得させ、Yくんとコロ助を作ることになりました。ちょっと秘密計画的なわくわく感もありました。
けれど、そのわくわくは長続きしませんでした。
私はYくんのことを、本当に何も知らなかったんです。
後編に続きます。
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