第2話 鏡の瞳
「お兄ちゃん、今日は浩輔君と一緒じゃないの?」
「お帰りも言わずに浩輔かよ。いつもいつも一緒じゃないっての」
居間に入ると、一足先に帰宅していた妹が制服姿のまま話しかけてきた。
浩輔は家にも度々遊びに来るから、遥香とも当然、幼馴染だ。
「だって浩輔君カッコいいんだもん。浩輔君がお兄ちゃんだったらいいのになー。今度いつ家に来るの?来る前に教えてね。ねぇお兄ちゃんてば」
妹の遥香は、俺達の母校でもあった地元の中学の2年生だ。今日は塾も友達との約束もなく暇なんだろうか。居間のソファに座り棒アイスで喉を潤していた。
カズマは返事もそこそこに2階の自室へ避難しようと階段に向かった。
遥香は黙っていればそこそこ可愛いのに、兄には手厳しい。きっと学校では猫を被っているに違いない。
遥香とは血の繋がりは無いが、物心ついた時から兄妹だ。当然お互い遠慮もなく、ともすれば血縁のことなど思い出しもしない。
自室に入り床にカバンを置くと、クローゼットの中の衣装ケースから部屋着を取り出しながら浩輔の事を考える。
確かに浩輔は男の俺から見てもそこらの俳優よりカッコイイし、この前も隣のクラスの女子に廊下の隅に呼び出されていた。
だが、教えてはくれないが、好きな女子でもいるようで何故かいつも断っている。
あいつだって彼女いたことないもんな。そうだよ、俺達は同レベルだ。
カズマは、部屋の隅にある全身鏡の前で着替え始め考える。
俺だって満更でもないよな。背は浩輔より若干低いが、男性の平均身長は超えている。なんたってまだ成長期だし。
今度は髪を1筋摘まんでみた。
「カズマの髪の毛はフワフワして触り心地いいよな。色も明るくて羨ましい」
浩輔はよくそう言ってカズマの髪を両手でグシャグシャにかき混ぜてくる。
あれは褒めているんだよな。
目だって、浩輔の切れ長で鋭い目とは対照的な、クリっとした少しつり目の茶色がかった大きめだ。
浩輔よりは色白の肌だけど、受験生だからしょうがない。
鏡の前で、上腕の筋肉を盛り上げるように、肘を曲げてポーズをとってみる。
筋肉だって……ない訳じゃない。クソ。
「はぁ……」と1つ溜息をつき、鏡から目を逸らしさっさと服を着る。
カズマは机の引き出しから問題集を出して鏡に背を向けた。
その時、後ろの鏡の中の瞳に見つめられているとは思いもしていなかった。
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