呪いの言葉
Nagi
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このページを開かれたということは、貴方もきっと怪異物語がお好きなのでしょう。これも何かのご縁。あの日私の身に起こった出来事について、少しだけお時間を頂ければ幸いです。貴方のような方にこそ読んで頂きたく、筆を取った次第です。
私はK市内にある図書館に、非常勤職員として勤めています。お給料は決して高いとは言えませんが、図書館で働くことは、小さい頃からのささやかな夢の一つでした。
小学生の頃の私は、文字通り本の虫とでも言わんばかりに、いつも教室の端っこで背中を丸めて、本を読み耽るような子どもでした。読書がもたらす体験は他のどんな物事よりも素晴らしいと思っていましたし、文字という単なる記号の羅列が、脳内に直接働きかけ無限の世界を創造することに、いつだって深い感動を覚えずにはいられません。たとえ現実世界が困難に満ちていても、本の中には私にぴったりの世界があり、私が本当は口にしたかった言葉達で溢れています。だから、そんな私が図書館に入り浸るようになったのは、至極自然なことなのです。本に囲まれた静謐な空間は私の心を穏やかにし、不思議な安心感を与えてくれます。私にとって図書館は未知の世界とアクセスできる無限の可能性に満ちた特別な場所であると同時に、私を受け入れてくれるとても大切なただ一つの居場所なのです。
そんな私がもし図書館で働くことができたら、どうしてもやってみたいことがありました。それは、図書館と、図書館の前に佇む二宮金次郎像にまつわる、ちょっとした噂の検証です。
市内に住む方ならご存知かもしれませんね。その噂は私が小学生の頃には、地元の新聞で取り上げられるほど話題になっていました。当時は都市伝説が日本中でブームとなっていたこともあって、「口裂け女」とか「てけてけ」とか、そういった有名なものに並んで、特にK市内の小学校内では「二宮金次郎像」が非常によく知られていました。曰く、「夜になると金次郎が動き出す」だの、「満月の夜には金次郎が血の涙を流している」だの、挙句の果てには「夜遊びしている子には金次郎が包丁を持って追いかけてくる」といったものまで登場する始末。子どもじみた馬鹿馬鹿しい噂話だと思われるかもしれませんが、とはいえ当時の小学生にとっては心底恐ろしく、同時にとても興味を惹かれる話題だったのです。もちろん私も例外ではなく、「学校の七不思議」や怪談集に二宮金次郎が出てくるたびに震え上がったものでした。
上述したように、二宮金次郎にまつわる話はいくつかのパターンがありますが、その中に一つ、特に私の心を強く惹きつけるものがあります。
草木も眠る丑三つ時
金次郎の掌にあったはずの
本が消えています
どこへいってしまったのでしょうか
その秘密は図書館の中
奥から数えて四番目の棚を探してご覧なさい
怪しい光を放つ
闇より黒い本が見つかるでしょう
しかし決して手に取ってはいけません
それを読んでしまった者は
奇怪な死を遂げるからです
図書館という私にとって特別な場所にまつわるそのエピソードは、あれから何十年も経つというのに、私の心を掴んで離しませんでした。もちろん、本当に信じているのかと聞かれれば、一概にそうとは言えません。けれど、深夜の図書館には私の知らない別の表情があるに違いない、どうしてもそれを見てみたいといつしか思うようになりました。
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