策謀
キンキンと天羽々斬の振るう剣とタマ吉のかぎづめがせめぎ合う。
単純な力ということではタマ吉の方があるようだが、天羽々斬には戦うための技がある。それは常に数手先を読んだものであって、徐々にだがタマ吉が防戦気味になり、大きく横に薙ぎ払う天羽々斬の剣戟にタマ吉の腕が大きく弾かれ、その隙を逃さず剣がタマ吉の喉元に突きつけられる。
「そこまで」
私が言うと、二人は戦いの姿勢を解いた。
なんだかんだ五分ほど刃を交えていただけあってタマ吉は息を切らせている。
「どうかしら天羽々斬、タマ吉の強さは?」
「姫さまが直々に創られた存在というだけあって、驚くべきものだと感じました。自慢ではありませんが、この私とここまで対等に戦える存在はそうはおりますまい」
「あなたの率いる軍の中でも?」
「精鋭の幾人かは戦えるでしょう。が、雑兵ではまともな戦いにすらならないかと存じます。加え、彼には粗削りなれど十分な伸びしろも感じます。……本当に彼は昨日に生まれたばかりなのでしょうか?」
「ええ。昨日の夜に」
それを聞くと恐ろしいものですな、と天羽々斬はカタカタと笑うように甲冑を震わせた。その様子を見るに天羽々斬はまだ手心を加えていたのだろうと予想出来る。流石は武の将だ。いくら私の血を多く与えたと言っても簡単にその地位は揺るがないのだろう。
「それで、人間目安でもその強さは通じる?」
「もちろんにございます。並の兵などものともしないでしょう。特に長い手から繰り出される一撃は相当な威力を持っており、私も幾度かひやりといたしました」
「貴方がそう言ってくれるということは、直轄の兵としては合格ね」
そう言った私に天羽々斬がかぶりを振った。
「姫さまの近衛兵だとしても、彼ほどの兵が揃うのであれば人間の軍隊はたまったものじゃありませんな。人間風情で対抗出来るのはせいぜい……」
「せいぜい?」
「忌々しい『神の祝福』を受けしものたちの子孫でありましょう」
私はすっと目を細めた。
『神の祝福』を受けしものたち。
彼に直接聞いたことはなかったが天羽々斬もその連中、血脈を確かなものとして考えているらしかった。
気狐に天羽々斬。母はどう考えているか知れないが、少なくとも魔族の幹部とも言える二人がその存在を認めているということは噂や空想の産物と片づけるわけにはいかなそうだ。
「やっぱりタマ吉でも『神の祝福』を受けたものたち……今はその子孫ね。そういった連中の相手をするのは難しい?」
「彼……タマ吉は正式な魔族というわけではありませんが、姫さまが直々に血を混ぜて作られた存在です。魔族に対して特別な力をもつだろう相手にはどうあっても苦戦してしまうでしょう」
面白くない話だ、と舌打ちをしたくなる。
と、カツカツと壁沿いに造られた螺旋階段を気狐が降りてきた。
『神の祝福』を受けしものたち。
いずれぶつかる時がくるかもしれないが、今はまだ真剣にそれを考える時じゃないだろう。心の中でかぶりを振って気狐に話しかける。
「ちょうどいいところに来てくれたわね、気狐。少し頼みたいことがあったのよ」
「姫さまのお創りになられた彼……タマ吉とおっしゃったでしょうか? 彼の妖術耐性について調べて欲しい、ということでしょうか?」
「よくわかったわね」
「このくらいのことがわからないようでは御前さま方にお仕えする参謀としては失格ですから」
「それじゃあお願いするわ。あと、確か気狐も自身の血を用いた傀儡生成の妖術が使えたわよね?」
「一応は。姫さまのものとは比べ物にならない、些細なものですが」
「タマ吉もその才があるはずだと私は読んでるわ。遠方の場所を攻めるのにここから軍勢を動かすのはあまりにも非現実的。その妖術の手ほどきをタマ吉にしてやって。教えるのは私より気狐の方が上手いでしょうから」
そう言伝を残し私は城内の自室に戻った。変化の魔法を使って町の近くに転移。
さて、昨日に二人冒険者を消してしまったが、元々居場所を一ヶ所にとどめない冒険者も多い。よほどのことがない限り大きな騒ぎにはなっていないだろう。
そう思いながら検問所へとゆったりと向かい始めた。
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