「盗まれたプラネタリウム」

綺麗な風景写真が撮りたい

第1話 「盗まれたプラネタリウム」

 「館長、プラネタリウム盗まれたそうですね」


 「あ~、そうだな」


 「取り返さなくていいんですか?」


 「あ~、構わないよ」


 「何故ですか?」


 「あれはな、あれ単体だけでは、全く使い物にならない。中からライトを照らすことで、星空を映し出す機能だけの1パーツに過ぎないからさ」


 「何故ですか?」


 「今まで秘密にしていたわけでもないし、リピーターのお客さんなら皆さん知っている話さ。誰も取材に来なかったから広く知られていないだけだが、どうしても知りたいかい」


 「是非願いします。ここまで取材に来て、何の成果も無く帰れませんよ」


 「じぁ~ヒントをやろう。テレビアニメの〇ザエさんって、年取らないだろ」


 「確かに・・・ご長寿アニメの番組ですね。1969年放送開始ですから、55年間ずっと〇ザエさんの家族って、ほぼ同じ年のままですね」


 「あ~テレビアニメだからな、1990年放送開始のテレビドラマ『渡る世間は□ばかり』とは違って、年々年を取る役者の年齢に合わせた脚本も必要じゃない、絵に合わせて中の人が、声色だけで演技だからな」


 「プラネタリウムは何処でも、何だかよく判らないこじつけの神話の話みたいなのをしていますね。話の内容は昔からずっと基本は同じで、ほぼ変更されていませんから、その部分の考え方はテレビアニメと同じですか。それと宇宙科学の判明した事実を分かり易く、映像と音声で解説して伝えるのですよね」


 「そうさ、だがアニメと違って同じ声である必要も無いのだから、音声も上手く話せるのであれば誰でも交代が可能、機器の操作等も同様だから、意外と自由度が高いのだよ」


 「そうですね。もしかして、あのプラネタリウムって『職員さん』によるライブ上映なんですか」


 「正解、うちの職員たちが生で、その時その時の状況や客層に合わせて、お客さんに楽しんでもらえるよう、面白おかしく上手く演技や操作をしてくれていたのさ。だから時間帯によっては貸切もある。小学校の低学年と高校生に同じ話って訳にはいかないし、タイムリーな話題も必要だろ。何処かの△庁みたいな高価なプロジェクションマッピングでもないから、殆どお金もかかっていないしな」


 「そうなんですね。今までコンピューター制御の装置での映像と録音による、全自動上映だと思っていましたよ」


 「他のプラネタリウムはそうかもしれないが、うちの装置は全て職員の手作りだからな。星を映し出すための装置も全部手動だから、小さな穴が沢山空いていて、いろんな色のフイルムが貼ってあるだけの、ただのドンガラ。盗まれたあれたった1つだけでは殆ど機能しないのさ。手間だが意外と簡単に作れるし、簡易タイプはそこの売店内でも、お土産として売っているしな」


 「この話って、記事にして広く世間に知らせてしまってもいいんですか?」


 「構わんよ。ニュースで話題になって、ここを訪れる、観に来てくれる客が増えれば、廃館の話も立ち消えになって儲けものだな。だが我々は市の職員だから、忙しくなっても給料が増える訳でもないからな。ほどほどに頼むよ」

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