2日目 趣味

 今日、新学期が始まった。担任から各自、自己紹介表を書くように言われた。それには自分の名前、誕生日、好きな事・物。そして趣味。在り来りな項目だ。しかし私はいつも困る。なぜなら私にはこれと言う趣味がないからだ。もちろん今迄に何個かはあった。

 例えば、小学生の頃はお絵描きが趣味だった。対して上手く無い絵をクラスの子達に見せつけては優越感に浸っていた。今はそんな事出来たもんじゃない。思い返す度恥ずかしさでいっぱいだ。記憶を消し去ってしまいたい。でも、嫌な事ばかり覚えている私は記憶力がいいのか悪いのか自分を疑ってしまう。

 中学生の頃は、料理にハマっていた。ハマったきっかけとしてはバレンタインデーに作ったマフィンを親友が美味しいと言って食べてくれたからだった。それ以後、私は学校が終わってから即帰宅し、毎日のようにお菓子やご飯を作っていた。

 しかしハマればハマるほど食べる量も増えると共に、体重も増えていった。初めは全く気にしていなかったがとある日、クラスの子達の話が耳に入ってきた。それは私の悪口だった。微かに聞こえて来たのが「デブ」という言葉だった。もしかすると聞き間違いかもしれないと思った。しかしクラスの子ほとんどが細かった。私だけ太かった。鏡を見ると、そこには確かに丸々とした体が写し出されていた。その時から私は体型を凄く気にするようになった。お腹を引っ込めて見たり、ダンスをしてみたりして少しでも痩せようと努力をしてみた。しかしまだ、料理にはハマっていたので食べる量も変わらず高カロリーな物ばかり作っていたのもあり、少しの努力も水の泡となっていた。

 そんな日々を繰り返して行く内、中学生生活後半に入った。思春期真っ只中。私は他人と比べる事を覚えてしまった。勉強能力、運動神経、そして容姿。他人と比べる度に劣等感に襲われ、あれだけハマっていた料理にすら手をつけないようになった。あの子が作ったお菓子の方が美味しい。あの子の方が切るのが上手い。そんなちっぽけな事で気に病んでいた。その時から、自分の作る物に自信を無くし、趣味にでさえ劣等感を抱えてしまうようになった。

今となっては趣味を作るのが怖い。私は趣味をつくらないように、劣等感を抱えないように自衛しているつもりだ。だから、いつもその項目だけが埋まらない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る