大異世界裁判

@Omeras

第1話 プロローグ

薄暗い部屋の片隅に腰を下ろし、ふと考えてみたことがある。「もし、この世界から法が消えたらどうなるのだろうか?」

恐ろしくも奇妙な仮想の世界が頭の中で形を取り始める。


初めは、法がなければ自由なのかもしれない、と思った。

所有権なんて概念が消え去れば、山も海も誰のものでもなくなる。目の前にある果物や魚を、何の躊躇もなく取って食べることができる。食べ物には困らない生活がそこにはあるかもしれない。

だが、その先を考えたとき、思いもよらない暗い影が忍び寄ってきた。想像してみてほしい。


侵略者が現れたとき、この世界にはそれを止める術が存在しない。今の世界なら、誰かが暴力をふるえば暴行罪で裁かれるし、ケガを負わされれば傷害罪が適用される。しかし、この仮想の世界では、そんな法の力はどこにもない。つまり、誰かが拳を振り上げるその瞬間に、私はただ立ち尽くすしかないのだ。「自分で身を守るしかない」。その冷酷な現実が、身に迫るように感じられた。もしも誰かが襲いかかってきたら、その場で反撃して、相手をあの世に送り込むこともためらわないかもしれない。なぜなら、法がないのなら、裁かれることもないからだ。それが許されるという感覚に、少しばかり寒気を覚えた。


ふと、自分の愛する人たち、家族のことが脳裏をよぎった。私が突然この世界から消え去ったとき、彼らはどれだけ心を痛めるだろうか。現代であれば、彼らは私のために正義を求め、裁判で争うことができる。

だが、法のない世界で彼らにできることは、復讐だけだ。身内の不幸が他者の手によるものなら、報復することしか救いはない。法というストッパーのない中で、怒りと悲しみは一層濃くなり、復讐は復讐を呼び、殺伐とした連鎖が終わりを迎えることなく続くのだ。そんな無法の世界に、現代の「高度に守られている」自分が放り出されたら、果たして生き延びることができるだろうか?恐ろしい疑問が頭に浮かび、寒さにも似た震えが体を走った。

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