エロゲ廃人だけど悪役貴族に転生した ~隠しルートのラスボスに転生したので、チートスキルで原作をぶち壊しながら最推しのヒロインを救います~
Manami
第1話 隠しルート
くだらない人生だと自分でも思う。
俺はいじめからひきこもりになった。
いや、たぶん違うな。
いじめを言い訳にしてひきこもりをしている。
ひきこもりたいからひきこもっている。
「卑怯者だな、俺」
俺は人間が嫌いだ。
学校も社会も大嫌いだ。
「ハハハ。かっこ悪いやつ」
親は死んだ。
俺は親の遺産を食いつぶして生きている。
親はいくつもの不動産を経営していたので、金銭で困ったことはない。とはいっても遊びに興味はないので、特に使い道もないけど。
もういっそ寄付でもするか。
でもなんかあった時に困りたくないしなぁ。
「あーあ。なにも楽しくない」
もう漫画もアニメも楽しめない。
昔は楽しかったのに。
「やっぱり人間ってのは、ひとりでいると壊れるもんなんだな。人といるのは辛い。孤独なのも辛い。ほんと俺、生きるのに向いてないな」
俺は夜の街をブラブラ歩いていた。
「あれ、ここは空き地だったはず」
見たことのない店があった。
「おもちゃ屋? なんで夜までやってるんだ?」
好奇心から入ってみた。
「うわっ」
そこは大人のおもちゃの店だった。
「うへえ。高え。プラゴミみたいな外見なのに」
こんなの誰が買うんだよ。
「エロ本とかないじゃん。意外だ。ま、今どきアダルトコンテンツなんてネットでいくらでも見れるし、無くなるのも必然か。昔はコンビニにもエロ本が置いてあったんだけどな」
エロゲの棚を見る。
「おお、この女の子かわいいな」
月光というタイトルのゲームを手に取る。
「ま、ゲーム機もってない俺には関係ないけど」
棚に戻そうとする。
「あ、それね。普通のノートパソコンで出来ますよ。そんなスペックもいらないんで」
若い店員が言った。
まだ大学生くらいに見えるが、なにが悲しくてこんなところで働いているのだろうか。
「あ、そうなんすか。じゃあ買おうかな」
正直、なにも買わずに帰るのもなんなので、俺はこのゲームを買うことにした。昔から、トイレのためだけに店に入ることはできない性格です。
来店したからには、買わないと失礼じゃん。
「さてと」
せっかく買ったしプレイしようか。
「す、すごいな」
俺は感動していた。
壮大な世界観。
没入感のある物語。
重厚な音楽。
「いやはや、感動した。俺もまだ遊びを楽しむことができたんだな」
いや、違うな。
遊びじゃない、本気だから楽しめたんだ。
このゲームのキャラは生きている。
画面の向こうに本物の世界がある。
それくらい本気で作りこまれたゲームなんだ。
「うし。こうなったら全部のヒロインを攻略してやるぞ。サブイベントもしゃぶりつくしてやる」
俺は寝る間も惜しんでエロゲに没頭した。
気がつけば半年が過ぎていた。
トイレに行く時間すら惜しいので、部屋に簡易トイレを設置。飯も作らず、二日に一回だけ出前で注文。気がつけば俺はバケモノのように痩せこけ、髪やヒゲは伸び放題になっていた。
「ふふっ」
鏡を見て、思わず笑ってしまう。
「いやいや。フフッ。キモッ」
まさにエロゲ廃人だ。
「でも、不思議といい気分だ」
胸が熱くなる気分だ。
こんなに本気になれるなんて。
清々しくていい気持ちだ。
「ついに全クリした」
終わってしまった。
満足感と、少し残念な気分。
「すごいゲームだったな」
このゲームは魔王が崩御したあとの世界で、王位継承をめぐってさまざまな問題や波乱が巻きおこるというストーリーだ。
ルートは大きくわけてふたつ。魔王の娘マリリンと、たくさんの女魔族を仲間にしながら魔王を目指すハーレムルート。女騎士シアンと共に魔族を打倒して人間の時代をもたらす純愛ルートだ。どちらもやりごたえがあり、とても楽しめた。
「メインストーリーそのものはサクっと遊べるが、サブイベントとやりこみ要素が充実してるのが良かったな。ネットでの評判はどうなのかな?」
ここに来てはじめて、俺はネットでこのゲームについて調べた。やはり、ネットでも好評であるようだ。エロゲなので万人受けはしないが、知る人ぞ知る名作ゲームって感じだ。
「ん?」
そこで、気になる情報があった。
「チュートリアルを進行せず、ストーリー開始前にヒロインたちの好感度を最低まで下げると、魔王の娘マリリンとの戦闘イベントが発生する?」
そんな隠し要素があったのか。
調べてみると、このイベントそのものはそこそこ有名だが、マリリンに勝てた者はいないらしい。それもそのはず、マリリンは最強クラスのスキルをもち、正攻法では誰も勝てないと言われているほどのキャラだからだ。
もちろん仲間として共に戦うこともできるのだが、ネットでは「マリリンを使うと強すぎて下手になるからやめろ」と言われているほどだった。
「しかしこんな無意味な敗北イベント、なんのために作られたんだ?」
どうも引っかかるな。
「やってみるか」
ヒロインの好感度をあえて下げる。
どれも俺の大好きなキャラたちだ。
胸が痛い。
『魔王の名のもとに、あなたに裁きを言い渡す』
剣を構えるマリリン。
『死になさい』
話は本当だった。
本当に戦闘に発展した。
「うへえ。強いな」
もちろん負けた。
傷ひとつ付けられなかった。
「これ、勝てるのか?」
これだけ作りこまれているのだから、ただ負けるだけの無意味なイベントがあるとは思えなかった。
それくらい、俺はこのゲームを信じていた。
きっとなにかあるはず。
俺は何度もマリリンに挑んだ。
マリリンが取りうる行動を分析し。
手を替え品を替え。
「なんとなく分かってきたぞ」
それからなんと半年が過ぎた。
俺はマリリンに負け続けていた。
半年。それほどの長い時間をただ負けることに費やした。もはや狂気の沙汰というしかないだろう。
「だけど糸口は見えた」
チュートリアル開始前でも、いくつかのイベントには挑むことができる。そのうち、マリリン打倒のために必要なイベントはおおよそ分かってきた。
悪心の炎、精霊キュウビとの契約。
チュートリアル前に接触できる精霊はこいつしかいない。契約により戦闘能力が飛躍的に上昇する。
血塗れ伯爵イベントのクリア。
序盤では破格の経験値を得ることができる。
特級遺物、土精霊の勾玉の獲得。
コイツの入手が最も難しかった。
オークションイベントで獲得できるのだが、希少アイテムなので値段もかなりする。金策ができない序盤に入手するとなると、かなり苦労させられた。
これらのイベントをすべてクリアすることで、マリリンの体力を六割ほど削ることができた。あとはプレイングの勝負。
気力の戦いだ。
そしてついに。
「よし! やった!」
俺の刃がマリリンに届いた。
「かつて共に戦ったマリリンを倒すのは、やっぱりちょっと後ろめたさがあるな。さて、報酬はなんだ? 称号でも貰えるのかな?」
しかし、現実は想像を絶していた。
『私は魔王になるためなら、悪魔に魂を売る覚悟でいます。あのマリリンすら倒したあなたという悪魔に、私のすべてを捧げます』
そう言う紫髪の少女。
なんと、ここに来て新たなるルートが発生したのだ。劣悪な鉱山で働かされている子供たちを救うため、魔王を目指す少女イデアの物語。それはエロゲにも関わらずエロ要素いっさいナシ、騎士団と魔王国すべてを敵に回す超極悪難易度のルートだった。
「分からない。なんで世界のすべてを敵に回してまで、魔王になろうとしてるんだ?」
子供たちを救うためだけではないだろう。
なにせ、あの騎士団と魔王国を敵に回すのだ。
成功するはずのない戦いなのだ。
負けることが見えきっている賭けなのだ。
『戦うことは生きる意味ですから』
イデアはそう言った。
「生きる意味か」
俺には分からない。
命より大事なものなんてない。
意味がなくても、価値がなくても。
ただダラダラ生きていればそれでいい。
俺はそういう考え方だった。
「それでも、このゲームは俺に生きる意味をくれた」
深く頷く。
「だから、ありがとう」
コントローラーに手をやる。
「イデア、君のことも救ってみせるよ」
また長い時が過ぎた。
俺は時間を数えることさえしなくなっていた。
俺はイデアのことを、かけがえのない存在だと思うようになっていた。イデアが可愛くて俺のタイプだからってだけじゃない。いくつもの修羅場を共にした、仲間だからだ。ゲームのキャラをこんなふうに思うなんて、ちょっぴり恥ずかしい。
でも、悪い気分じゃない。
「お前がラスボスなのか」
魔王なき宮殿。
そこにいたのは醜いブタのような男。
『魔族の恥、半人間の虫けらが僕に背く?』
ゲラゲラと笑う男。
コイツは本来は序盤で殺されている悪役貴族だ。
口ばかり達者でまったく実力が伴っていない。
いいところが何ひとつない。皆に嫌われている。
『グヒヒ。混血のまずい肉は僕のお口には合わない。全身バラバラにして、海に捨ててやる』
男性的魅力がないくせにヒロインに手を出そうとする浅ましさ、ブクブク太っていることを気にもとめない醜さから、二次創作ではもっぱらカマセとして扱われる。
新しい魔法の試し撃ちで意味もなく殺される。
嫌われもの。笑いもの。恥さらし。
そういうキャラだ。
そのゴミカスが、このルートのラスボスなのだ。
「つ、強い」
そして、こいつは強かった。
コイツは序盤で殺さなければならないキャラだったのだ。放置しておけば手がつけられなくなるほど強くなってしまう、そういうキャラだったのだ。
「マリリンの時とは違う。まるで勝てる未来が見えない。強い。強すぎる」
俺は戦った。
最上級の装備を準備した。
レベルもスキルも磨いた。
しかし。
「届かない」
こいつは強すぎた。
「いや、ゲームなんだからクリア方法は用意されてるはずだ。探せ。探すんだ」
魔王国と騎士団はこの手で消した。
もう頼れる仲間はいない。
パーティメンバーは俺とイデア、ふたりだけ。
「クソッ。また負けた」
出口が見えない。
「ウンドラン……」
憎たらしい悪役貴族の名前を口にする。
「次が最後だ」
レベルもスキルもカンストした。
サブイベントは嘗め尽くした。
もうこれ以上はない。
「いくぞ」
もう何百回目か分からない。
俺はウンドランに挑んだ。
そして。
「負けた……」
意味がわからん。
どうなってんだ。
なんなんだコレ。
強すぎるだろ。
「は?」
その瞬間だった。
パソコンがプチュンと暗転した。
しばらくして、文字が浮かびあがる。
『あなたは魔王の資格者に選ばれました』
意味不明。
「え、なにこれ。電源も消せん」
壊れた?
ウイルスか?
「はああ。このパソコンも買ってかなりしてるし、ガタが来るのも当然か。面倒だけど、新品を買いにいくか。おっとその前にヒゲくらいは剃らないと」
廊下に出る。
「あれ?」
ゴキン。
足が枝のように折れた。
「え? え?」
ち、力が入らない。
どうなってるんだ。
「いっ……」
頭が痛い。
視界がグワングワンと揺れる。
「ま、待って」
俺、死ぬ?
「まだ、イデアのこと、救えてな――」
意識がプツリと切れた。
「あれ?」
ここはどこだ?
木製の天井が見える。
フカフカのベットから起き上がる。
壁には無数の絵画。
棚の上には高そうなツボ。
「高級そうな絨毯だな」
違和感を感じて、体を見る。
「あれ?」
小さい。
明らかに子供だ。
それにまるで礼服のような黒い服。
これは明らかに病院とかではない。
「な、なにが起きて」
部屋にあった大きな鏡を見る。
「は?」
生意気そうな顔。
銀色の絹のような髪。
燃えたぎる鉄のような赤い瞳。
人間のそれではない尖った耳。
「こ、こ、これ」
俺はコイツのことを知っている。
ああ、よく知っているとも。
憎い憎い。この世界でもっとも憎い男だ。
「ウンドランじゃねぇか……」
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