第4話
翌日、日誌は翼の机にあった。
日誌と出席簿は学級委員が取りに行く役目だが、それより先に日直が手元に置いておく例もある。さっそく今日の日付、授業科目、日直二名のフルネームと先に書けるだけ埋めていく。一時間目、現国。二時間目、地学。三時間目、英C……。
八時十五分にもなれば教室が騒がしくなり始め、隣人も到着したようだ。
「おはよう、花宵」
翼は声の主を見上げ、瞳を射貫くような純粋とも虚無ともいえる目で見つめて無言ののちに読みかけの本へと視線を移す。
(なんか、変だな…)
快翔と比べ、翼は言葉を発することは少ない。機械だなんだと言われるような、何を考えてる何を感じているかさえもわからない相手だからこそ、理解のしがいがある。教室の喧騒をよそに快翔は不自然にならない程度に観察を続けることにした。
授業中の四十五分、十分休み、昼休み、違和感の正体は未だ靄に包まれているような、掴めそうで掴めずにいた。刻々と進む時間に不安は募る。
(不安…?)
対人的に使われる不安とはなんだ。否、快翔とて思いつかないほどバカではない。だがそれが『花宵翼』との関係で向けられるものなのか、自信がなかった。
(自信がないもクソも、相手は花宵だろうが…)
何事もないことを示すように翼は日直の仕事を淡々とこなしている。授業が終われば黒板消しを持ち、日誌を書いて次の授業に備える。いつも通りの『花宵翼』だ。行動は。
HRが終わったら声をかけようと思っていたが、時すでに遅し。教室に翼の姿はなかった。仕方がなく、違和感を感じたまま快翔は教室を出た。
(早いなぁ…)
上履きで埋まり始めた下駄箱を流し見して上履きからスニーカーに履き替えた。外に近づくたび出席番号が数を重ねる。
「あれ…」
教室には姿がなかった翼の上履きがない。
(どこないんだろ…)
気にしても仕方がないし、特別探そうとも思わない相手だとして快翔はそのまま帰ることにした。
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