第六話【杖】
僕と父さんはシュレーナさんとギーヌさんと一緒に馬車に乗り杖を買いにウェンツェ王国の王都リネシアへと向かっている。
荷台には僕とシュレーナさんだけ。
父さんは操作をするギーヌさんの隣で今後のことについて色々会話をしている。
「シュレーナさん、本当に学校に行くんですか?」
「うん。もっと魔法を知りたいし。それよりあの時の魔法、あれなに」
「あ、いやぁ」
シュレーナさんは目を輝かせて何かに期待しているがそれに応えることは出来ない。
僕にもさっぱりわからないからだ。
「よく覚えてなくて……」
「そっか……。上級火属性魔法は元々使えてたの?」
「使えてないです。そもそもめちゃくちゃ頑張って中級魔法を発動出来るくらいだったので」
「へぇ〜、やっぱり魔法って不思議なことが多いね。だからこそ魔法学校に行かなきゃ」
「……確かにそうかもですね」
***
オルス村を出発してからかれこれ三時間ほどが経過した。
すると前で会話をしていた父さんが荷台にいる僕たちに向かって声をかけてきた。
「もう着くから降りる準備しておけよ」
「わかった!」
ウェンツェ王国となっているまさに中心に位置するこの王都リネシア。
ルハイル大森林からやってくる魔物の侵入を阻止するための頑丈で分厚い城壁が王都を囲むように建てられている。
本で知ったことなのだがこの立派な城壁は過去に三回ほど破壊されているそう。
一度目は三陸戦争の影響で破壊された。
二度目は未知なる存在による観測不能な何かによって攻撃を受けたとか。
三度目はルハイル大森林に突如現れた五十ほどの変異型魔物によって一部崩壊。
その三度の出来事を踏まえて元々の城壁の前にさらにもう一つ建設し分厚くしているだとか。
ギーヌさんが門の前にいる者達に何かを見せると馬車は進み始める。
横幅がかなり大きく整備された道をしばらく進んでいくと少し奥の高い位置に王城が見えてきた。
「でかっ」
思わず声に出してしまうほど大きかった。
声を出してはいないがシュレーナさんも普段目にすることのない光景を前にして目を輝かせソワソワしていた。
***
カラン、カラン。
一軒の店の前に馬車を止め扉を開けると入ってきたことを知らせる鈴が鳴った。
「ほう、うーん、ここらでは見ない顔じゃな」
店の奥から背中を曲げ杖をついたおじいさんがやってくる。
「オルス村から来たので」
「オルス村か。あそこはルハイル大森林が一番近いところだから大変じゃろ」
「そうですね。かなり辛いですけどなんとかやってますよ」
「そりゃあ凄いのう」
僕たちは何をしに来たんだ。
なんて思った瞬間、店の奥から一人の女性がやってきた。
「ちょっとサケじい、お客さん困ってるじゃん。そうやって毎回買いに来てくれたお客さんの邪魔しない!」
サケじい。
なんとも斬新な名前だな。
「また来たのかい、リン。今日はワシが店を見ると言ったのに」
「任せられませんー。あっ、なんかすいません。杖買いに来たんですよね! ぜひぜひ見て買っててください!」
リンという女性はサケじいをどこかへと連れて行きながらこちらを見て何度かペコペコしていた。
「気さくなおじいさんだったな」
「ですね。私の父もよくあんな感じになります」
「そうなんですか! あ、クレイ達は自由に杖を見てきていいぞ。欲しいのがあったら言ってくれ」
早速僕は自分にあった最適の杖を探し始めた。
せっかくなら高いもの、良いものを選びたい。
だからと言って性能が劣っていたら意味もないしな。
これはよく見極めないと。
「……魔法石、か」
僕が最初に手に取ったのは先端に綺麗な石が埋め込まれている杖だ。
この石は所謂魔石と呼ばれるもので稀に魔物から手に入ることもある。
特定の石に魔力を込めることで人工的に生み出すこともできる。
魔石は良く魔力を吸収してくれるので杖につけることで本来の力よりもさらに強い力を発揮する事ができる。
だが吸収、放出という工程を繰り返すことで徐々に魔石の耐久性が低下していき割れてしまう。
さらにあまりにも膨大すぎる魔力には耐えられないという特性もある。
長期間使うとなると魔石の杖はやめといた方がいいのかもしれない。
となると少し高価になるが魔晶石の魔法杖にしてみよう。
魔晶石は魔石と似ているが違うとすれば耐久性と限界だろう。
魔石と比べ耐久性が高く簡単には割れないうえに膨大な魔力にも耐性がある。
ただ魔晶石は複数の魔石を加工し作られるので手間がかかってしまう。
その為高価になってしまうのだ。
「どんな杖を探してるのかな?」
悩んでいるとリンさんが僕の顔を覗くようにして声をかけてきた。
「出来れば魔晶石を使った杖が欲しいんですけど」
「魔晶石の杖ね、君、まだ学生っぽいのにわかってるね。あっ、さすがに習ってたりするか」
「まだ学校は行ってないです」
「あ、え? そうなの!?」
「これから通う為に杖を買いに来たんです」
「はへーそうだったのか。ならこんな感じの大きめのじゃなくてこっちの方が使いやすいと思うよ」
リンさんが見せてきたのはかなり丈夫な木で削り作られた杖。
見た感じ魔晶石とかはついていないみたいだが。
「大きい魔法杖を買う人も多いけど学生とかベテラン魔法士の人はよく小さいのを使ってるよ! 杖の中に砕いた魔晶石をねじ込めてあるんだよ!」
魔晶石を杖の中にか。
確かにそうすることで点と点を結ぶようにして魔力が先端に行きすばやく魔法を放てる。
前の杖も小さい感じので使いやすかったし今回もこのタイプで行くとしよう。
「じゃあ、これでお願いします」
僕はリンさんの話を色々と聞いて最終的には小さい杖を選ぶことにした。
「ありがとうございます〜!」
杖をリンさんに渡し返すとそれを持って会計待ちをし始めた。
しかしまだシュレーナさんが選び終わっていない。
「んー」
シュレーナさんは立てかけられている二つの杖を交互に見つめている。
どうやらどちらにするべきかで悩んでいるらしい。
少し行ってみよう。
僕はシュレーナさんのもとに向かった。
「悩んでるんですか?」
「そう、これとこれで」
シュレーナさんが指さしたのは綺麗に輝く小さな円形状の魔晶石を花形で囲んだ杖、もうひとつは僕と似たような小さな杖だった。
「どっちも良いから決められなくて」
確かにシュレーナさんは花が好きだから花形と迷うのもわかる。
でも今後の事を考えるとなると僕的にはやはり小さい杖の方をおすすめしたい。
「そうですか……、さっきリンさんから聞いた話なんですが小さい杖の方が人気があるそうですよ。利便性も高いそうですし。」
「そうなんだ」
「あ、いや、最終的に決めるのはシュレーナさんなので参考程度に聞いてもらえれば」
「……わかった。お父さん、私この小さい杖にする」
「そうか、じゃあお店の人に渡しておいで」
ギーヌさんにそう言われシュレーナさんは小さい杖を持ってリンさんの元に行く。
「ありがとうございます! それではお会計ですね」
お会計、その言葉がリンさんから発せられた時、大人二人が少しソワソワしているように見えた。
無理もない。
高いのは確定しているから。
「加工魔晶石内蔵の杖が二点で金貨二枚と大銀貨二枚ですね」
「は、はははい」
明らかに父さんが動揺している。
硬貨の入った袋にさっき手に入れたが震えているし中々手を出そうとしない。
それはどうやらギーヌさんも同じだった。
「あ、あの大丈夫ですか? お支払い出来ない感じですか?」
「いや、で、出来るんですけど。すーはぁ……さらばアイズ硬貨!」
「また働きます……」
二人の大人はついに袋から手を出しリンさんに大金を手渡した。
「ありがとうございます! ちょうどですね。それでは商品を」
僕とシュレーナさんはそれぞれ杖を手に持つ。
そして、
「父さん――」
「ギーヌ――」
「「ありがとう」」
僕達の言葉に一瞬、二人は固まったがそのあとすぐに笑顔で言葉を返してきた。
「それで頑張れよ」
「シュレーナ、今度こそは君が思うように――」
そして買い物を済ませた僕たちは王都リネシアを後にした。
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