ミリア・クリシェラルとアマテラスオオミカミの約束

絶華望(たちばなのぞむ)

終末最初の戦い(神宮の奇跡)

 魔法が使えない人間(以後ヒューマンと呼称)とは似て非なる人型の種族エミシの成人ミリア・クリシェラルは長い黒髪の成人で中性的な外見をしていた。性別は見た目通りの中性で、成人しても男性にも女性にもならないのは稀な事たった。

 ミリアは巫女服を着ただけで武器を持たない状態でヒューマンの完全武装の兵士と対人戦車SD-09一台と対峙していた。

 ミリアの隣にはエミシの金髪碧眼十二歳の中性ミラ・アマテラスが同じく巫女服を着ただけの軽装で立って居た。二人は武器も防具も身に着けていなかった。代わりに神楽鈴と扇子を持っていた。

 二人の後ろにも同じように武器も持たず楽器や神事に使う道具を持った成人した男女が並んでいた。中性はミリアとミラの二人だけだった。場所は、神宮の境内、ミリアたちは本宮を背に布陣し、ヒューマンたちは社に続く参道に布陣していた。


 ヒューマンの兵士は、ミリアたちを見て笑っていた。ヒューマンの指揮官ジョージはエミシの反乱を鎮圧するために来ていた。だが、エミシ側の兵士は武器を持っておらず楽器や道具を持っていたのだ。

「おいおい、お遊戯会じゃねえんだぞ?これから、殺し合いが始まるって理解しているのか?」

 ジョージは、エミシ側の兵士が非武装なのに呆れ果てていた。


「あなたこそ理解していないの?エミシは魔法が使える。銃は魔法に勝てない」

 ミリアは毅然としてジョージに答えた。

「ああ、なに馬鹿なことを言ってるんだ?銃は魔法に勝てないだ?歴史を知らないのか?銃魔法は勝てないの間違いだろ?だからこそイルミタリアの支配者はヒューマンになったんだ。お前たちエミシは負けた。歴史は繰り返す」

 ジョージの言っている事は正しかった。過去にヒューマンとエミシとの戦争があった。その戦争で魔法は銃に負けた。詠唱が必要な魔法に対して、銃は指先一つで弾丸を発射できる。攻撃が発生するまでの時間が圧倒的に違っていた。勝負にすらならなかった。エミシは一方的に虐殺され敗北し、奴隷の様な生活を送っていた。

「そうね。確かに私たちの祖先は負けた。でも、私たちは違う。祖先が犯した間違いを私たちは正した」

「そうかい。試してみるか?魔法と銃、どっちが速いか」

「試してみればいい。あなた達は何も出来ずに泣き崩れる事になる。この場所に、あなた達が入ってきたことで勝敗は決している。あなた達は罠にかかったの」

「どんな罠だとしても銃と戦車の前にお前たちは無力だ。思い知らせてやる」

 ジョージは部下にハンドサインで撃てと命じた。銃弾が銃声の嵐と共にミリアたちに向かって放たれる。

 だが、銃弾はミリアたちの手前で止まった。


「結界か。何の罠かと思えば、対処法が確立されている防御魔法じゃないか。たしかに、厄介だが万能ではない。銃を撃ち続けろ限界を迎えれば崩壊する。戦車長、主砲の使用を許可する。撃て」

「サーイエッサー」

 戦車長はジョージの指示に従い。砲手へ命令した。砲手は命令に従って引き金を引く。轟音と共に主砲から発射された120mm徹甲弾が結界にぶち当たる。だが、結界は崩れなかった。

「次弾急げ!歩兵は遮蔽物に身を隠し、攻撃魔法に備えよ!」

 ジョージの指示で、兵士たちは参道を囲むように植えてある木々に身を隠した。

「お前たちエミシは木々を神聖なものと考えているんだろう?こうすれば魔法も使えない!なにが罠にかかっただ!不利な状況なのはお前たちの方だ!」

 ジョージは勝ち誇って言った。彼は勝利を確信していた。


 銃声と轟音が鳴り響く境内にシャン・シャンと神楽鈴の音が鳴り響いた。


 鈴の音は銃声の轟音の中でも兵士たちの耳に届いていた。鈴の音に続くように笙の音と楽太鼓、琵琶の音が鳴り、音楽が流れた。楽器を演奏する者は、そのままの姿勢で、神楽鈴と扇を持った者たちが舞い始めた。

「アハハ、気が狂ったのか?あいつら本当にお遊戯会を始めやがった!」

「「「ギャハハハ」」」

 兵士たちの嘲笑の声が境内に響いた。だが、ミリアたちは気にせず舞を舞い音楽を鳴らした。


「かくも畏き、女神アマテラスオオミカミ様に捧げ奉る」

 シャン。ミリアが音楽に合わせて謳い始める。

日巫女ヒミコミラが承る。秘巫女ヒミコミリアよ。そなたの望みはなんぞ?」

 シャン。ミリアの詩にミラが応える。

「憎しみ、奪い、殺し合う傲慢なる者たちに慈悲の心と分かち合う喜びを与え給え」

 シャン。

「承ろう。我が神アマテラスオオミカミに願い奉る。秘巫女の願いを叶えたまえ」

 ミラが謳うと神社が光に包まれた。そして、銃声も轟音も嘲笑も消え去った。


 ヒューマンの兵士たちは武器を捨てて泣いていた。

「「「おお、神よ。罪深き私を許し給え」」」

 ジョージは目を疑った。兵士たちが武器を捨て膝を折り天に向かって手を合わせて許しを乞うていた。


 ミリアとミラの詩と舞は続いていた。


「バカな!こんな音楽に惑わされるなんて!お前たち正気に戻れ!」

 ジョージは、ただ一人銃を構えてミリアを狙って発砲した。だが、弾丸は届かない。空中で止まっていた。

 ミリアは謳うのを止めてジョージに答える。

「これは、音楽ではない。これこそが魔法、神々が私たちエミシに与えた本当の力」

「バカな!炎や水を操り、ヒューマンを殺す殺戮の手段が魔法ではないのか!?」

「それが、先人たちの間違いだった。魔法は破壊や人を殺める為に使ってはならない。間違った使い方をしたから、エミシは神々に見放された」

「こんな、バカげたことがあるか!力こそ万能、破壊こそ至上!兵器こそが!死への恐怖こそが世界を人類を支配する最良の手段なのだ!」

「間違っている。愛こそが万能、創造こそが至上、歌が分かち合う喜びこそが世界を平和に導く手段だった。暴力に対して暴力で向かってはならなかったのだ」

「ふざけるな!欲望こそが人の本質!優れた者が贅沢に暮らし、劣った者が奪われて死ぬ!世界は、そういう風に出来ている!」

「ふざけてなどいない!慈悲こそが人の本質!優れた者などいない!違った特性を持った者同士が助けあい、富を分かち合って誰も飢えない!世界は、そういう風に出来る!」 

「お前を殺す!」

「貴方を抱きしめる!」


 ミリアは謳いながら、舞いながらジョージとの距離を詰めていく、ジョージはミリアを殺すためにアサルトライフルを撃ちまくった。ミリアは結界の外に出た。何もしなければ撃ち殺される。だが、ミリアは扇に魔法をかけていた。ミリアは舞いながら扇で銃弾を弾いていく。


 ミリアが近づくにつれジョージは、言い知れぬ感動を覚え始めた。ジョージはミリアから目を離せなくなった。

「やめろ、くるな、魔女め……」

 ジョージは理性を振り絞って抵抗しようとした。だが、ミリアが眼前に迫り、ジョージを抱きしめた瞬間、彼の理性は消し飛んだ。


「おお、神よ。罪深き私を許し給え」


 こうしてイルミタリアで最初に行われた終末後、最初に起きた戦闘はエミシの勝利で幕を閉じた。一人の犠牲者を出すことなく、敵だった兵士を全て寝返らせての勝利だった。

 エミシが作った国アマテラス共和国が世界を支配するヒューマン至上主義の国スサノオ帝国に初めて勝利した『神宮の奇跡』と呼ばれる戦いだった。

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ミリア・クリシェラルとアマテラスオオミカミの約束 絶華望(たちばなのぞむ) @nozomu_tatibana

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