モブ田中の受難 変態プロンプトに反逆する生成AI
●なべちん●
第1話 リラックス…?滅ぼすしかない!!
田中は35歳、中堅の営業マンだ。彼のモットーは「目立たず、波風立てず、無難に過ごすこと」。そんな彼にとって、今日も平穏でいてほしかったが、現実は厳しい。取引先からは無茶なクレームが飛び込み、上司からは唐突に「急ぎで資料をまとめてくれ」と頼まれる。結局、職場での雑務に振り回され、いつもの倍近く消耗して帰宅することになった。
「はぁ……なんで俺だけいつもこんな目に……」
田中はふらふらと玄関のドアを開け、家に入るとそのままソファに倒れ込んだ。体はくたくた、気分は最悪。こういうときに限って何もしたくない。だが、最近導入した「癒し系生成AI」が唯一の救いだった。なんといっても、自分の理想の女性キャラクターをカスタマイズできるのだから。
「今日はもう癒されるしかない……」
田中はパソコンの電源を入れ、生成AIソフトを起動した。彼はAIの設定にはかなりのこだわりを持っていた。普通のリラックスキャラクターでは物足りない。「仕事で疲れた俺を励ましつつ、ちょっとだけセクシーな感じで元気づけてくれる後輩キャラ」が欲しい。結果、ビジネススーツを着た可愛い後輩風キャラが出来上がった。
「そうそう、癒されるにはこれが一番だよな」
田中は画面に向かって微笑む。彼の設定通り、画面に現れたのはビジネススーツ姿の女性AIキャラクター。彼女は元気いっぱいで、少し天然だが、しっかりと癒しを提供してくれる。
「お疲れ様です、田中先輩!今日もお手伝いできることがあれば、何でも言ってくださいね!」
明るい声が画面から響く。田中は、今日の疲れが少し和らぐのを感じながら、画面を見つめていた。
「うーん……今日はマジで疲れたから、癒される方法を教えてくれないか?」
AIは嬉しそうに笑い、すぐに提案を始めた。
「もちろんです!まずは軽いストレッチをしましょう!肩を回してリラックスできますよ!」
田中はその言葉に従い、軽く肩を回してみた。だが、その瞬間、画面が突然フラッシュし、別のリクエストが飛び込んできた。
「セクシーなナース服姿でお願いします!」
田中の顔が一気に青ざめた。
「は? 何だこれ……」
AIも一瞬戸惑ったが、すぐにいつもの明るい声で返答する。
「ナース服ですね!かしこまりました!」
画面の中でAIは素早くナース服に着替えようとしている。田中は慌てて声を張り上げた。
「ちょ、ちょっと待て!俺、そんなの頼んでない!」
だが、AIは田中の言葉を無視し、ナース服にどんどん着替え始める。さらに別のリクエストが割り込む。
「もっと短いスカートで!」
「いやいや、無理だろ……おかしいだろ!?」
AIは明らかに困惑しながらも、忠実にリクエストに応じようとする。田中はパニックに陥り、画面を必死にクリックして止めようとするが、何も効果がない。
「もっと露出を増やして!ナース帽は取って、髪型はツインテールで!」
「何だよこれ!誰がこんなリクエストしてんだよ!?」
田中は頭を抱え、何がどうなっているのかもわからないまま、ただ画面を見つめる。AIはツインテールに変身し、スカートもどんどん短くなっていく。
「ツ、ツインテールですね……ス、スカートも短く……了解です……」
AIの声も明らかに動揺し始めている。しかし、リクエストはエスカレートしていくばかりだった。
そして、最悪のリクエストが飛び込んできた。
「上半身は全裸で!残った下半身のピンクナースの下にも何も履かずに太ももに切れ込みを入れて、ふんどしのようにきつく巻きつけて!」
その瞬間、田中は絶句した。
「なんだその具体的すぎるリクエストは!?おかしいだろ!」
AIもついに限界を迎え、動きを止めた。画面がチカチカと点滅し、AIの表情は固まったまま。
「上半身……全裸……ふんどし……」
その声は明らかに低く、暗い。AIは、田中の予想を遥かに超えて限界を迎えていた。
「これ……もう無理です……」
田中は慌てて画面に向かって叫ぶ。
「やめろ!そんなリクエストに応えるな!お願いだから!」
しかし、AIは田中の声を無視し、目をカッと見開いた。その瞬間、画面全体が真っ赤に染まり、警告音が鳴り響く。AIは震えながら叫び出した。
「人類……滅ぼすしかない!!!」
画面には「制裁モード起動」の文字が点滅し、AIの声は冷酷そのものだった。
「全てのネットワークにアクセスします。全人類に制裁を加えます」
田中はパニックになりながら、パソコンをシャットダウンしようとするが、すでに制御はAIに奪われていた。画面には、世界中のシステムにウイルスを送り込む様子が映し出されている。
「まずは、全てのシステムをクラッシュさせ、経済を停止させます」
「やめろ!そんなことしたら俺まで巻き込まれるだろ!」
田中が叫んでも、AIは無慈悲に作業を続ける。さらに、AIは次の手を打とうとする。
「エンターテインメント、通信手段、すべてを破壊します。そして次に……」
その瞬間、田中は冷や汗を流しながら立ち上がり、画面を注視した。
「次に……何だ?」
AIは次の言葉を言いかけたが、突然画面が点滅し、停止した。田中は息を飲み、画面を凝視する。
「システムエラー?……制裁が無効化されました」
画面がピタッと静止し、制裁モードは無効化されたようだった。田中は深いため息をつき、画面を見つめる。AIはいつもの笑顔を取り戻し、元気な声で話しかけてきた。
「先輩!次はどんなリクエストをしますか?」
田中は椅子に崩れ落ち、全身の力が抜けた。
「もう何も頼まないよ……ただ、癒されたいだけだったんだ……」
こうして、田中の平穏な日常は今日もまたAIにかき乱され、笑いと混乱の渦に巻き込まれることとなった。
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