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「今日の演奏はすごくよかった。成長したね、森さん」
部活動の終わりに、三久は並木先生に珍しく真剣な顔で褒められた。
「ありがとうございます」
三久は言う。
前半はともかくとして、確かに後半は、本当に(……まるで自分じゃないみたいに)すごくうまくピアノを演奏することができた。
並木先生に褒められて、三久はなんだかすごく嬉しくなった。
……ずっと隠している自分の夢に、……今日は、ほんの少しだけ近づけたような気がした。なんだか、本当に自分がプロの演奏家になれるような気も、……少しだけした。
それがすごく嬉しかった。
三久はその日、部活動が終わってから、音楽室に一人残って、(少しだけ音楽室の簡単な掃除をしてから)グランドピアノの椅子に座って、自分の課題曲である『鳥のように自由に』を試しに演奏してみた。
すると、さっきほどではないにしても、昨日よりも随分と良く課題曲を演奏することができた。
三久はさらに嬉しくなって、まるで本当に自分が鳥のように自由に空を飛んでいる、あるいは生きているような気持ちになった。
(そんな気持ちなるのは、本当に久しぶりのことだった)
三久は興奮した面持ちで音楽室の片付けをして、それから古い音楽室をあとにした。
鞠はいつものように、みんなと一緒に「お疲れ様でした」をして、音楽室から一足先にいなくなっていた。
だから三久は、今日はもう鞠とは会わないだろうと思っていた。
でも、下駄箱のところで、「先輩」と声をかけられた。
三久に声をかけてきたのは、もちろん、三雲鞠だった。
「……三雲さん」
少し驚いた表情をして、鞠は言った。
鞠はどうやら、三久が学校を下校するのをこの場所で、ずっと待っていたようだった。
「……今日も、先輩と一緒に帰ってもいいですか?」と、鞠は顔を真っ赤にしながら、三久に言った。
「……うん。いいよ」
と、鞠に負けないくらいに顔を赤くしながら(もちろん、三久には自分の顔は見えていない。見えていたら絶対にうんとは恥ずかしくて言えなかった)三久は鞠にそう言った。
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