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少し遅い時間だったためか、西中学校の校内に残っている生徒の姿はあまりなかった。
三久と鞠は音楽室を出ると、いつも利用している自分たちの教室や職員室などがある校舎の通路を一緒に並んで歩いて移動して、三階から一階について、それから下駄箱で靴を履き替えて、お互いに傘をさして、雨の降る校庭を歩き始めた。
三久の傘は白い傘。
そして、鞠の傘は赤い色の傘だった。
「先輩。高校はどこの高校にいくんですか?」
鞠が言う。
「地元の北高だよ」
三久は答える。
西中学校の正門のところにはすごく綺麗な紫陽花が咲いていた。
その藍色と紫色の花を見ながら、三久は少しだけ雨の中で足を止めて、そんな風に鞠と話をしていた。
それから二人はまた、雨の中を歩き出した。
「ここを出て行ったりはしないんですか?」
鞠が聞く。
「しないよ」
にっこりと笑って、三久は答える。
三久の夢はプロのピアノの演奏家になることだった。
でも、三久は、今は、(ピアノのプロになるために)この自分の生まれて育った田舎の街を離れるというような選択はしたくない、と考えていた。
簡単に言うと、三久は自分の生まれた街が大好きだった。
それが三久が、地元の普通科の高校である北高校を自分の進路に選んだ理由だった。
……ただ最近、もしかしたら自分はただ、自分の夢に、あるいは自分の音楽の力や才能といったものに、自信がないだけなのかもしれないとも思っていた。
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