第2話 アンビバレントステッキvs概念数整合
だが今の彼女たちは、どうにも自らの意思で望んで戦っているように見受ける。
逃げ遅れた子どもが――ビットリンたちに襲われていた。
「っ、やめろ!」
なのにあの子たちは動こうとしない、そうでなくたって俺は動くべきなのだが、ついルービックのほうを見てしまう。彼女は見下ろすばかりで、なにもしてくれない。
……もうあの頃のきみとは、本当に違うというのか?
「ぐっ――大丈夫か、逃げろ!」「うああぁああああ!!!」
その隣でひとり、大人が『マテリアール化』されてしまう。
(マテリアール帝国の『カテドラルモノリス』!)
大人は粒子となって、天空に顕現したモノリスへ吸収された。
泣き叫ぶ少年が、取り込まれた父を呼ぶ声。
俺はまた、誰かの大切なひとを取りこぼしてしまう。
「くそ――いい加減お前らは、なんの権利があって人をモノリスに閉じ込める!?」
彼は徒手空拳でビットリンたちを制圧すると、次に立ちはだかった相手には覚えがある。
幹部怪人がひとりポリゴォン、ナンバーの記憶では既にルービックに倒されたと記憶しているが……以前とは肩の装飾が豪華になって復活したらしい。
やつはケタケタ笑いながら答える。
「我々の自由のためだ、何者にも侵すことはできぬ!」
「誰かの自由を奪うことがか!」
「貴様もこちらへ来たらどうだ?
あの五人はいけ好かんが、貴様が来れば今よりまともに働いてくれるだろう」
「断るッ!」
子どもに恐怖を与えることをよしとし怯ませ、無力な人間を捕らえる連中が人の自由を語る。
ふざけているのか?
「ならば死ね!」
「ならばも何も、最初からお前は殺意が強すぎるんだ」
そしてナンバーには下衆ひとりを相手している余裕などない――、相対しているのは裏切り者の五人と敵の残る幹部もう二人だ。
(帝国幹部三人と正規のクラフトホルダー五人……姿は見えないが、下手をするとメビウスのやつも向こうの頭数へ入れないと)
幻の六人目、最後のクラフトホルダーの姿がない。こんな時でも現れない、あいつらしい気まぐれとも言えるが――。
ナンプレは黄金碑郷が独自に開発した非正規のクラフトであるため、ナンバーは彼女らと同等以上に渡り合えようと、正規のホルダーとカウントされないのだ。
(戦術単位では向こうにチャトランという
だからといって、黄金碑郷の防衛を諦めるわけにはいかない。
その責任を今、誰かが説いてくれるわけでもない、仲間がいるわけでもないのに?
そうだ……俺は彼女らの背中を追ったときも、ようやく並び立ったつもりで手にした変身能力すら、現にこうして裏切られた今でさえ、一度としてルービックたちに及んだことはない。
「あの男に手加減してはダメ、全員で畳み掛ける!
セット、――『アンビバレントステッキ』!」
所謂強化装備というやつ、杖状のアイテムがチャトランの手元に顕現する。
皮肉な名だ、正負双方の感情の起伏を利用するゆえに強大な力を扱えるが、当事者にはそのどちらが扱われているのかも定かでない。彼女らの背反の正否を、あれを見てわかるなんてことはないのだ。
対する非正規のクラフトホルダーである彼には、なんの後天的な武器も強化もない。
「チャトランッ!」
(こちとらいつも、武器なんてないのにッ)
あれを素手で受けると、過去の帝国幹部級や俺自身がそうであったように砕かれるだけだ。
そのたび“概念数字”で強引に補って四肢を修復する、あの苦痛は何度も経験したいものじゃない。
「『
概念数整合――パズルに唯一与えられた技術を、馬鹿の一つ覚えみたいに洗練させるだけ。
一時、肉体の硬度と筋力の靱性を同時に跳ねあげる。
(アンビバレントステッキを素手で受けるの!?
所有者以外を手酷く拒絶するこれを、胆力で――相変わらずこの男は、)
「厄介な、ならば『カレイドローン』!」
煌びやかで恐ろしい、虹色の尖兵たち――帝国の戦闘員より質も良かろう、視界を埋め尽くすほどの数召喚される。死角などないほどの集中光線の砲火を、地表に降り立つ彼は直撃から逃れえない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます