裏切ったのはみんなだろ、まるで俺が悪役みたいに！ ―少女絢爛オカルティック・パビリオン side:Number―

第1話 少女たちの裏切り

『少女絢爛オカルティック・パビリオン』――五人の少女は黄金碑郷を護る力（パズル）たちへ選ばれた。

　彼女らはパズルの特性に見合った変身能力『インテリジェンス・ドレス』を持つ。

　パブリックイメージにおける“魔法少女”というものが、いつから普及しているかは知らないけれど、そう形容されがちな彼女らの力が人の理を超えた異彩を放つものだとはよく知っていた。

　……そうでもなければ、異形の怪物を続々と送り込む、マテリアール帝国へ太刀打ちなどできないだろう。

　それでも俺は、やっと彼女らへ並び立って戦えるだけの力を身につけた。

　男の俺でも纏える『インテリジェンス・ドレス』、ナンバープレイスの力。

　やっと彼女たちに肩を並べて戦えると想っていたのに――、

「ルービック、ウィズダム、ジグソー、アナグラム、チャトラン……なんでだ！？

　なんできみたちがマテリアールの連中を庇う、黄金碑郷（おごんひきょう）のみんなを攻撃するんだッ！」

　五人が揃って黄金碑郷へ反旗を翻したと聞いたなら愕然となったが、

（黄金碑郷の防衛を宿命づけられたオカルティック・クラフトたちごと寝返っている。

　マテリアールの連中はいったいなにをした？）

「ルービック！」

　自ららが作りあげた瓦礫の山に五人が降り立つ。

　それまでのファンシーさが抜けた嘘のようにシャープな黒衣にみなみな身を包んでいる。

　その頭目として圧倒的な力を振るう、ルービックこと美継恵瑠乃（みつぎえるの）。

「これがお前たちのしたいことなのか！？」

　直後、マテリアール帝国の戦闘員――ビットリンたちの群れが押し寄せ、チャトランの使役する端末たちが混ざって装甲と化し、強化される。

（ビットリンたちが強化されてる！）

「ぐ……チャトランっ、お前！」

「あなたという規格外に戦略を覆されるのはいい加減ウンザリなのよ、ナンバー」

　個々の兵員の資質を底上げして最大限戦略的に活用する、それがチャトランガのオカルティック・クラフトに選ばれた彼女の才能だ。

　ナンバーとは戦士としての俺、天都戸魅那（あまつどみな）の名前。

　チャトランこと盤上王成（ばんじょうおなり）は昔から俺のことを目の敵にしていたが、

（質が上がったとはいえ、倒すのに時間がかかるだけ、それこそがチャトランの戦略なら狙いはなんだ、考えろ――）

　ナンバーとしての俺の性能は、攻撃した相手から“数字”を奪い、敵対者（エネミー）の構成要素を崩すことだ、逆に数字を拡散して他者の要素を乱すこともできる。

　だがそれはけしてビットリンたちに相性のいい能力ではない。

（マテリアール帝国の工作員たちは『余剰数』を持った存在だ、俺の能力は彼らより寧ろ）

　黄金碑郷の戦士たちに対抗する、カウンター性において真価を発揮するのだ。

　――裏切った？

　黄金碑郷の戦士たちが、なんでそんなバカなこと……。

　黄金碑郷の統治者、三剰賢人会に呼び出された彼は、最初にそう聞かされたとき愕然となった。

　――そうだ、きみの知っている彼女らはもうどこにもいない。

　なおもナンバーはその言葉を否定したかったが、現に彼女らはマテリアールの戦闘員たちと行動を供している。目の前で見てもそのことが彼には今なお信じ難い。

　――そうさな、彼女らオカルティック・パビリオンはマテリアールへ討ち取られた、だからあれらはそのシステムを奴らが奪い悪用した、云わば紛い物だ。正気の彼女らがそんなことをするわけはないのだから。

　辛い役目になるが、市民たちを守るため、きみはこの重責を負ってくれるかね？

　賢人が長、メルキオ＝ゴルドの言葉は本当だったかもしれない。