第43話 全力土下座する兄貴
――――【雄司目線】
ファミレスに入った途端、俺は目の前の光景を疑った。
「兄貴……何してんだよ」
差しで話そうと書いてあったのに、律香先輩と雛森が席に座っていて、雛森は兄貴の突拍子もない行動におろおろするばかり……。
一方の律香先輩は落ち着いた表情でミルクティーに口をつけていた。
「申し訳ありませんでしたーっ!」
ファミレスのカーペットの上に正座していた兄貴が頭をこすりつけて雛森に謝罪している。周りにいたお客の視線は兄貴に集まっていた。
「陽香ちゃんがかわいくて、雄司に嫉妬してしまってあんな酷い行為に及んでしまった。キミの気が済むまでボクを好きにしてくれ! 全裸で逆立ちしながら町内を回ってもいい」
いやそれは止めて欲しい。
俺までヤバい奴の家族だと思われるのは困るから。
「許した訳じゃないです。でも顔を上げてください。じゃないとみんなが困りますから」
雛森は左右を見回し、兄貴の頭を上げさせようとするが触れようとして手を引っ込める。
やっぱり兄貴に触れるのは身体が拒否反応を示してしまうのかも。
「兄貴! 何やってんだよ、謝るにしてももっとマシな場所を選べよ……」
「雄司……ボクは雄司にも謝らないといけないんだ……雄司の彼女を! ボクは寝取ろうとした最低の男なんだ。もう死んで詫びるしかないよな……」
兄貴はやたら雄司の彼女と強調してきて、まるで拡声器のようだった。
まさか!?
兄貴は俺たちが偽装カップルだということに勘づいて、小芝居を打ったとか……。
「秀一、もうその辺にしておいたら? 雄司くんに勘付かれてるわよ」
「やっぱりボクの下手な演技じゃ、騙し切れないか……」
兄貴は律香先輩に諭されるとズボンを叩いて、席に座る。
「演技ってなんだよ、俺たちを騙してたのかよ!」
「そうだけど、何か問題ある?」
「なっ! あるに決まってんだろ! 雛森は泣いてたんだぞ! ふざけんな」
「雄司くん。あなたたちが怒るのは無理もないことだと思うわ。騙していたことは私からも謝るわ、ごめんなさい」
「律香先輩……」
「お姉ちゃん……」
「でもね、あなたたちが私たちを一方的に非難することはできないわ。私たちがあなたたちにストーキングされていたことを知らないと思って?」
「うっ」
「ああ、えーっと……」
俺は言葉に詰まり、雛森は惚けた振りをするが律香先輩は視線を外すことなく、俺たちを見据えてきたので、いたたまれなくなってしまう。
「あまりいい趣味とは言えないけど、お互いさまってことでいいかしら?」
「深淵を覗くとき深淵もまたこちらを覗いているんだよ、勉強になったかい?」
「「は、はい……」」
なんだかお釈迦さまの手のひらで弄ばれたような気分だった。
――――【律香目線】
ファミレスから先に帰る陽香と雄司くんを秀一と見送っていた。二人はまだ腑に落ちないといった様子だったけど、私と秀一に後悔はなかった。
陽香と雄司くんが彼氏彼女の関係になるのは私たちの悲願だったから……。
私はあのお人形のようにかわいらしい妹に心を奪われた。同じ父親で陽香とは顔が良く似ていた。違うのは母親から受け継いだ瞳と髪の色。
庶子だった私は母が亡くなると雛森の家に引き取られ陽香と一緒に養育されていた。義母は陽香が産まれても、なるべく私を陽香同様愛そうと努力してくれていた。
だけど私があんなことを起こしたから、すべてが台無しになった。
私は陽香の寝込みを襲ったのだ。
そこを義母に見咎められ、私は勘当されてしまった。
ただ一つだけ義母に誤解されている。
私は決して陽香が憎くて襲ったんじゃない。
むしろ好き過ぎたのだ。
私よりも美しい存在に目を奪われ、常に彼女は私の羨望の対象。
それでも引っ込み思案で奥ゆかしいところは私の庇護欲を掻き立てて止まない。
私は彼女の姉であるということが誇りだった。
性の芽生えを迎えた私は聞きかじりの知識で陽香と一つになろうとしていた。
家を追い出された頃には私は陽香以外の人間をもう愛せなくなってしまっていた。
追い出されて以来、ずでと陽香の姿を追っていたら妹のピンチに颯爽と
私は何食わぬ顔で陽香の騎士に接近していた。やがて彼は私に興味を持つ。利用価値のある人物だと思い、彼の私への好意を知りながら彼を利用した。
また私が陽香と共に居られるように。
だけど陽香はどこでどう勘違いしたのだろうか? あろうことか雄司くんではなく、その兄の秀一くんに好意を抱いてしまっていた。
私は陽香のように才能に溢れた人間でもなく、ただの凡人の私が周りから寄せられる期待に応えようと努力し過ぎたせいで、心身ともにぼろぼろだった。
『おっと先客がいたのか……ごめんね、邪魔したかな?』
校舎の屋上から飛び降りようと手すりに手を掛けたとき、秀一が話し掛けてきたのだ。
『あなたは確か……滝川秀一くん?』
『ボクのこと知ってたんだ』
『張り出された成績ランキングを見れば、当然かと』
『そうだねそう。ボクもキミのことは知っている』
秀一も私と同じように思い詰めて、屋上に来たらしい。
彼は彼で雄司くんのことが……。
私は妹、彼は弟。
周囲の期待に押し潰されそうになっていた似た者同士だったため、彼とはすぐに打ち解けた。
ごめんね、雄司くん。私はあなたの恋心を利用させてもらった悪い女。あなたが思っているような綺麗な女の子じゃないの。
仲睦まじく歩く二人の姿をファミレスの窓から私たちは見守っていた。
―――――――――あとがき――――――――――
んほ~、もう終盤ですよ。ということで1ヶ月ほど前に近況ノートに書いた新作に取り掛かろうと思います。またそのときは見て頂けるとうれしいてす。
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