人間と仲良くなりたい魔王、ある日森の中で勇者に「人類滅亡を手伝え。」と言われました。

十口三兎

Prologue

-勇者side-


これまで、頑張ってきた方だと思う。助けを求める人々を救い、仲間を支え、国を支え、魔王討伐を願う人類の期待に応えようと努力していた。

していたんだ。




中央王国の広場、美しい女神が水を注ぐ銅像の前、多くの民衆の前でそれは行われた。

或る人はそれを断罪と呼び、或る人はそれを当然の裁きと国王を称えた。

そこでは独りの見目麗しき青年が屈強な男どもに捉えられ、国王および、元パーティメンバーたちの前で跪く形で行われた。


野次馬はヒソヒソとそれまで散々持ち上げ、褒め立てていた人間を蔑むように眺めた。


「勇者?ほとんど後援しかしない臆病者よ。」

「飲み込みが悪くて頼んだ仕事をいつも間違えていたなぁ。」

「確か、すごい女好きで酒好きのクズなんでしょう?」

「パーティのお金に手を出して、それが公になったんですって。」

「うわー最低。」

「魔法もろくに使えない体たらくらしい。」

「我儘で傲慢でそのくせ弱いんですって。」


「私達は騙されていた。本日をもって、勇者リューゲを追放とする!今すぐこの国から立ち去れ!」


国王が強欲そうな顔を顰め、ジャラジャラと音を立てながら、派手な装飾のマントを纏った贅肉がたっぷりとついた腕を振り上げた。


「国王!違います!私は、私はそのようなこと…!」

「残念だよ。リューゲ。君には期待していたが。」


王女が残念そうに言う。


「私は……」


「とんだ詐欺師だねぇ。リューゲ?」

「ルフト‼︎元はといえばお前が…‼︎」

「おっと、罪人はだまりな。これより、元勇者リューゲを追放とする!」

「なんで⁉︎違うっ俺はそんなことっしてないっ‼︎‼︎」


違う。俺は、俺はそんなことしてない。頼むから信じて。誰か___。


抵抗をしめすリューゲをひきづるようにして、彼は中央王国の門外に締め出された。




許さない。許さない。許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さなさい許さない許さない許さない許さないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない

ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない



追放されて一年が経った。稽古はまだ続けてる。腕が鈍らないように。いつの日か俺を侮辱した奴らを全員皆殺しにするまで。



遠くで馬車の音が聞こえた。


襲おう。


リューゲは唯一の相棒である神剣を抱え、音のする方に向かった。


「貴様は魔族か?」

「ここは、通しませぬぞ!マーラ様!今すぐ避難を!」


白い髭と髪を振り乱しながら、頭から羊のようなツノを生やした御者が叫んだ。


突如、威圧感が当たり一体を覆った。

それまで空を飛んでいた鳥たちは急に羽ばたきをやめ、地面にひれ伏し、空を流れる風さえも、その動きを止めた。

マーラ、確か俺が討伐する予定だった魔王の名だ。


「問題ありません。ワタクシの前では、危険も危険ではなくなります。人の子。立ち去りなさい。」


馬車の中から、漆黒のドレスを身に纏った、美しい魔族の王が姿を現した。

溢れ出る殺気とその禍々しいオーラ。伝説の竜のような、それでいて悪魔の羊のような荒々しい角。何者の心を見透かすような真紅の瞳は、まさしく人のものではなかった。


「マーラ様っ!いけません‼︎こやつは正気ではございません!こやつの手にあるものが目に入りませぬか!神剣ですぞ!」


驚いた。このような地味な剣を一眼で神剣だと判断できたのは師匠以来だ。


「貴様…魔王か?」

「っ!口を慎め!無礼者!」

「構いません。人の子よ、続けなさい。」

「魔王であるならば頼みがある。対価は俺の魂でどうだ。」

「…貴方は悪魔と契約を結ぶつもりですか?それも、魔王であるワタクシと?」

「ああ、俺の望みはただ一つだ。」

「……聞きましょう。」

「魔王マーラ。人類滅亡を手伝え。」

「…………………………はぁ?」


人間と仲良くなりたい魔王、ある日森の中で勇者に「人類滅亡を手伝え。」と言われました。

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