嗚呼、青春の1ページ
心底苛立つ目覚ましの音に、眠りから無理矢理現実に引き戻され、不機嫌絶好調で目覚まし時計にグーパンチを繰り出した。
モソモソと布団から抜け出し、ベッドの上で半目状態で正座したあたしは隣を見る。
「太陽……起きろ……」
「んー…」
「太陽お弁当」
「んー…」
あたしの呼び掛けに布団を頭まで被る太陽に、空手チョップをお見舞いすると布団の向こうから「ぐえっ」って声が聞こえてくる。
「行くよ、お弁当」
「……おぅ」
2人で半分寝惚けたままキッチンに向かう足取りはフラフラで、でも何だかちょっと気分がいい。
「玉子焼きは太陽ね」
「おぅ」
「あたしは監督ね」
「え?何督?」
「監督」
「ズルいぞ、お前」
「監督はソファにいます」
「卑怯だぞ、お前」
「ソファでちょっと転がってますけど、寝てる訳じゃないから気にしないように」
「寝る気だろ、お前」
「監督に逆らわない」
「ひでぇ犬ッコロだ――…痛い痛い痛い!!」
「逆らわない」
「……はい」
あたし達が恋人の振りをするルールにまた1つ新しいルールが加わった。
毎週金曜は、一緒にお弁当を作る日。
これぞ正に青春の1ページ。
あたし1人にさせるからイライラが倍増する。
太陽と同じなら寝不足だって我慢出来る。
あたしの家のキッチンで、卵に悪戦苦闘する太陽を見てるのは楽しい。
「ねぇ、太陽」
「なんだ、監督」
「昔さ? ……んと、幼稚園くらいかなぁ? あたし達普通に手繋いでたよね?」
「あぁ」
「いつから繋がなくなったか覚えてる?」
「小学校3年なったくらい」
「ふーん。何で?」
「お前が嫌がった」
「へ?」
「お前がみんなの前で手ぇ繋ぐの恥ずかしいから嫌だって言い出したからだ」
「あたしが嫌がったから繋がなくなったの?」
「そうだよ」
太陽のその言葉に、ふと思い出した。
小学校3年になった当時、少しだけクラスの女子に意地悪された事。
それが“みんなの大好きな太陽君”と仲良しだって理由だったから、みんなの前で太陽と手を繋ぐのが嫌になった。
今にして思えば大した事じゃないし、どっちにしても太陽としか遊ばなかったから意味はないけど、あの頃のあたしはあたしなりにみんなと調和を取ろうと必死だった。
そんなあたしの必死な部分に、太陽は文句を言う事なく付き合ってくれた。
それもまた、今から考えると青春の1ページなのかもしれない。
「俺、ウィンナーに挑戦してみようと思う」
「……」
「おい、監督。聞いてるか?」
「……」
「向日葵、お前! 寝てんだろ!!」
「……」
寝たふりをして太陽をイライラさせてやるのもまた青春の1ページ。
「俺も寝る!」
「……」
結局お弁当を作らないで、ソファで2人で2度寝してしまうのも、楽しい青春の1ページ。
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