第3話ー③「ヒーロー」
「那、晴那、起きろ・・・起きろ!」
「にーちゃ・・・ん?」
目を覚ますと部屋ににーちゃんが居た。あたしは机の上で寝ていたようだ。
「今何時?」
「午後7時23分。疲れてるみたいだな、勉強お疲れみたいだな」
「そ、そうだ。勉強」
にーちゃんはあたしの腕を止めた。
「晴那、落ち着け」
「にーちゃん?」
「羽月さんに何か言われたのか?」
「何で、そう思うの?」
「最近のお前は勉強に関心を持ってくれて嬉しいからさ」
えへへと笑ってごまかそうとしたが、にーちゃんにはお見通しだったようだ。
「お前は何のために勉強してるんだ?」
「何の為?」
「俺は自分の為、いい大学に行って、親孝行したい、楽させたいから。だけど、お前は何を焦ってるんだ?」
「そ、それは・・・」
すぐに言葉が出てこなかった。こんなことをしても、無意味だと自覚しているからだ。
「焦る必要はないんじゃないか。今回はダメでも」
「あたしは羽月を信じて貰いたいんだ。こんなこと、意味が無くても、羽月にあたしを信じて貰う為に」
「それをして、晴那に何の得があるんだ。無駄骨だぞ、大会もあるんだ。バカなお前がこんな」
「あたしはあたしを信じてくれる人を裏切りたくない。バカだけど、あたしは今頑張れなきゃ、次の大会も頑張れない。もう、誰も裏切りたくないの・・・」
兄ちゃんは無言であたしの手を解いた。
「晴那、俺はお前が羨ましいよ」
「にーちゃん?」
にーちゃんは後ろを振り向いた。
「だが、その問題、wasじゃなくて、wereだぞ。基本がなってない」
「書き直さなきゃ」 あたしは消しゴムですぐに書き直した。
「仕方ないから、俺が教えてやるよ。その前に飯持ってくる。涼も遥も心配してるぞ、あと、詩羽も」
「ごめん」
「それはあいつに言ってやんな。俺に言っても、つまんねぇだろ」
にーちゃんは部屋を出て、扉を閉じた。
それから、にーちゃんとご飯を食べた後、英語と地理をやり直した。
にーちゃんはいつもそう。本当は分かってるクセに、ああやって、あたしを試すことを言って、あたしを炊き付ける。
本当に敵わないなぁ・・・。
午後10時02分
「よし、こんなもんでいいかな」
「えっ、あたしはまだ」
「今日は休め。晴那は詰め込むより、ちゃんと寝た方がいい」
「でも」
にーちゃんはあたしの頭を撫でていた。
「無理しない位が丁度いい。晴那みたいなタイプが一番向いてない。今日はゆっくり寝て、明日に備えなきゃ」
「分かった。あと・・・」
「何?」
「ありがとう」
「礼はテストが終わってからな。これで30点代だったら、容赦しないからな」
「えぇ・・・・」
翌日のテストはあたしの中では、完璧だと思った。 実際は綴りミスから、文法間違い、地図記号や文章問題が来て、やらかしたが、何とか乗り切ることが出来た。 同日のあたしはノッていたらしく、家庭科と保健体育は全問答えることが出来た。 その時、羽月が椅子から転倒したけれど、すぐに先生が訪れ、平気ですと訴える彼女を止める人は居なかった。
こうして、3日間に渡るテストは終了し、あたしはようやく、羽月の約束を果たすことに成功したのだった。
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