キミとシャニムニ踊りたい 第3話「ヒーロー」

蒼のカリスト

第3話ー①「ヒーロー」

 テスト期間初日の昼下がり

 いつもの公園にて、片足を少し前に出し体重をかけ、出した側の手を下に。

 もう片方の手は上の方にあげたまま、中村華は眼前にいるあたしに喧嘩を吹っかけて来た。


 「勝負だ、晴那!アタシとの喧嘩に決着だぁぁぁ!!!」


 「嫌だけど。勉強したいから、帰って良い?」


 「はぁぁぁぁぁぁンンンンンンンンン?勉強ゥゥゥゥゥゥゥ?おめぇ、何をイキってんだ、てめぇぇぇぇぇ!何だ、てめぇぇぇぇぇぇ」


 「うるさい」


 「中さん、何がしたいんすか?」


 梶野も困惑していたようだが、必要以上に困惑していたのは、中村の方だった。


 「お前が勉強なんて、アッヒヒヒヒヒヒヒヒッ!無駄無駄無駄無駄無駄位、時間の無駄無駄無駄無駄無駄って・・・」


 あたしは中村の話を無視して、自宅に戻ろうとした。 

 それを遮るように、梶野はあたしの前に現れた。


 「もうちょっと、絡んでやれや。中さんが悲しいじゃないっすか。いいんすか?泣くと面倒なの、あんたも分かってんだろうが」


 「知らんけど・・・」


 中村は再び、何処の漫画の影響なのか?再び、先ほどの構えを取り始めた。


 「お前が勉強なんて、10000年早いんだよ、バァァァカ。晴那、アタシとお前は同じなんだ。だから、分かるんだ、本能で分かる。今日は全然出来なくて、泣いたんだろ?」


 あたしは面倒になったので、全力で自転車の方へ歩き、その場を後にしようとした。

 それに気付いた中村はすぐさま構えを解いて、あたしの下にすぐさま、駆け寄って来た。


 「ちょっ、待てよ!アタシにビビったな?アタシの言ってることがじゅぼしゅしゅぎて、嫌なんだろ?そうだ、テストで勝負しようぜ!アタシがてめぇに負けたら、土下座して、詫びてやるからよ!しかし、てめぇがアタシにまけ・・・。あっ・・・、今日のテスト寝てた・・・。どうしよう、ど、どうしたらいい?咲?」


 あたしは自転車を漕いで、何事も無かったように、その場を後にした。


2


 「あのアマ、中さんに対して、何なんすか。マジで、本当に、中さん?」


 「や、やべ、ど、どうしよう。勉強しなきゃ。あっ・・・、ハゲの絵描いちゃった。どうしよ、マジでどうしよ」


 「中さん、何歳っすか」


 すると知ってか知らずか、2人のしょうもない会話に入り込むように、二年三組の春谷と若宮の2人が割り込んで来た。


 「やめなよ、依。帰ろうよぉ」


 「うるせぇ、舞。私は正義。私のやることは全て正しいんだ」


 「あんた、誰?」 

 先ほどの高揚感のある声から一転して、中村の声色はいつもの落ち着きを取り戻した。


 「2年3組の春谷っすよ。アタイらの噂流して、暁の逆鱗に触れた小便漏らしたバカ女と後は誰かちょっと、よく分かんないっすわ」


 「えっ・・・」 

 若宮は絶句していた。


 「ち、違う!漏らしてない!変な風評被害やめろ」 

 春谷は若宮に突っ込みを入れた。


 「何の用だ、アタシは今テスト勉強しなきゃで忙しいんだよ」


 「今更しても、遅いだろ?この依様が直々に勉強教えてやるよ。その代わり、暁晴那をやっ・・・」


 「歯ァ、食いしばれ」


 「な・・・」


 一瞬で回り込む中村の動きに、春谷の体は硬直したまま、動けなくなっていた。


 それは寸分たがわぬ軸の動かない見事な回し蹴りだった。 春谷の顔面左方向にとんでもない速さの蹴りを入れようとしたが、その直前で寸止めすると言うとんでもない芸当を見せつけた。  


 「なーんてね!ド素人にやる程、この技は安くねェんだわ」 

 そういうと中村はゆっくりと脚を下げた。


 「そ、そうだよな、そりゃそうだ。こんなことしたら、タダじゃあ、済まないからな。そりゃそうだよな、出来るわけ」


 中村は煽って来た春谷の鳩尾をめり込む程の一発を喰らわせた。 

 春谷はハッッと胃液を吐き出し、その場で倒れ込んでいった。 

 余りの状況に、近くにいた若宮は近くの公衆トイレに逃げるように、駆け込んでいった。


 「ダチにも、見捨てられて、だっせぇオンナ」


 ぐぐぐっと声も出ない様子を狼狽える春谷を見下すように、中村は言葉を続けた。


 「アタシはな、てめぇみてぇな自分で何もしねぇ他力本心なアバジュレが大嫌いなんだよ。コソコソやってねぇで、やるなら、てめぇの拳で決めろや、ボケ」


 春谷は瞳を潤ませながら、息も絶え絶えの状態で中村を睨みつけていた。


 「中さん、流石っすわ。マジで尊敬するっすわ」  

 梶野はいつものように、中村を賞賛していた。


 「さぁ、勉強するか。アイツに負けてランねぇからな」


 「ふーん、勉強するんだ。そうかい、そうかい」


 中村の背筋は凍るように、硬直した。 

 一瞬にして脂汗を掻いてしまうような、あの時の感覚が蘇って来てしまい、すぐに言葉が出て来なかった。

 後ろを振り返ると其処には彼女が居た。


 「あ、あの、その、えっと、えーっと、姐御。何のようで?」


 姐御こと、加納さんは吹奏楽部の女子と同じクラスの同級生数名と共に、公園に集まっていた。 

 どうやら、若宮が加納さんをメッセージアプリで呼び寄せたようだ。


 「姐御呼びやめて、私は中村さんと同い年だよ?」


 一言一言に重みを感じる加納さんの言葉に、中村は震えていた。それはもう、今にも漏らしてしまいそうな程に。


 「あ、あの、こいつがアタシにダルがらみしてくるもんで。そ、その!これは正義です!正義!」


 「どう見ても、悪は中さんっすけど」


 「うっせぇー」


 「ありがとう」


 加納さんの意外な言葉に、中村と梶野は怪訝そうな表情を見せた。


 「へっ?」


 「あいつ、吹奏楽部でウザかったんだよね。後輩に当たったり、理不尽なことばっかり言ってさ。ぶん殴ってやりたいって、思ってたんだけどね」


 「は、はぁー・・・そんなつもりは・・・」 

 中村は言葉に戸惑っていた。怒られることはあっても、褒められることは久しい。素直に喜んでいいのか、直には理解が及ばなかった。


 「本当にありがとう。ただ・・・」


 「いや、その・・・」


 加納さんは中村に近づいて、髪の毛に触れ、耳元で囁いた。


 「ひよっちにやったことは絶対に許さないからね。今度、そんな真似したら、分かってるよね?」


 再度、硬直した状態に中村の瞳は虚ろになっていた。


 「あ、は、はい。マム・・・」


 「中さん!しっかりしてくださいっすわ」


 加納さんは立ち上がり、一度手を払った後、帰ろうかといつもの笑顔を浮かべ、同級生達と帰って行った。


 中村の表情は一気に曇り、ぶつぶつと言葉を呟き始めた。


 「円周率は3.1415141514151515101841122231122343・・・・」


 「中さん・・・。もしかして・・・」


 翌日、中村と春谷の2人は学校を休んだ。

 しかし、梶野は先生や親に怒られたくなかったので、中村を見捨て、テストに励んでいたとか・・・。 

 正直、どうでもいい・・・。

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