発明

長万部 三郎太

自分もです、ヘヘッ

マジックやイリュージョンの世界にも「ネタを発明する専門家」がいるように、ドス黒く汚れた裏社会にも同じような職がある。


わたしはあらゆる「完全犯罪」を発明し、ダークネット・マーケットでその手順や必要な道具などをセットで販売し膨大な富を築いてきた。


時々、未熟な犯罪者に購入されお粗末な対応でニュースに取り上げられることもあるが、発明者のわたしにまで捜査が及ぶことは決してない。そのようなシナリオも含めての「完全犯罪セット」なのだ。


しかし、いつも売る側のわたしだったがこのセットを自分で使う日が来た。

積年の恨みというのは判断を狂わせるというが、どうしてもこの手で直接葬りたい男がいたのである。



わたしは自身が取り扱う商品のなかでも、とびきり高い「安心確実超特急セット」でターゲットを消すことにした。これは言ってしまえば素人でも余裕で政治家を狙えるほどの威力を持っている……。



犯行当日。

標的の屋敷に潜入したわたしは、奴が呑気に帰宅するのを天井裏で待ち構えていた。


しかし、何かがおかしい。マイクロカメラで屋敷をチェックしていると既視感にも似た妙な雰囲気に包まれたのだ。


「あっ……」


浴室洗面台にあるドライヤー。わたしの発明品だった。

髪を乾かそうとして“トリガー”を引くと自然な拳銃自殺ができるセットだ。


居間の巨大なシャンデリア。これもわたしの発明品だ。

標的が下にいることをカメラ付きAIが認識すると、ガリウムが取り付け金具を腐食させて破断を引き起こし、そのままロマン溢れる事故死が演出できるセットだ。


他にもキッチン、リビング、玄関から屋上、庭からベランダと至るあらゆるところでわたしの商品が発見された。あの男、恨みを相当買っていた。そして間接的にわたしの商品もたくさん買っていた……。


「なんだ、放っておいても奴は死ぬな」

拍子抜けしたわたしは用意した手順をすっ飛ばし、最後の脱出を試みた。


(この下の床を抜けて、この基礎部分を……回り込んで、っと)


屋敷からエスケープできるポイントまで到着したわたしは目を疑った。

なんとそこには10人ほどの先客が息を殺して潜んでいたのだ。


「また誰か来たぞ……」

「声がデカい、抑えろ」

「今何人いるんだ」

「いいから静かにしろ」

「誰が考えたんだ、こんな計画」


わたしは身バレを回避すべく超下手に回った。


「皆さん、“安心確実超特急セット”を買われたんですかね? 自分もです、ヘヘッ」





(それで食べていけるのか?シリーズ『発明』 おわり)

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発明 長万部 三郎太 @Myslee_Noface

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