古い恋に終止符を。

酔夫人

第1話 男運

「お見合い?」


 パソコン画面一杯、カメラ越しのお祖父ちゃんは満面の笑顔。聞き間違いではなかったか。


未玖みくももう28になるだろう?』

「その感覚は古いよ。いまは未だ28って言うんだよ」

『未玖の生んだひ孫の顔を見たいんだよ』

「……聞いてよ」


 孫が見られればいいという晩婚の時代にひ孫とは贅沢な。


「見合い」


 自分で言うのもなんだけれど、容姿はそれなりに整っている。

 絶世の美女ではなくても、それなりのスパンで男から告白されるのだからそう評価していいと思う。


 しかし、その代わりに男運がない。

 笑っちゃうくらい男を見る目がない。


 告白は「お友だちから」を条件に受け入れるが、毎回男の浮気で終わる。

 他に彼女や妻がいた二股浮気男もいた。


 お友だちから始めた男たちは全員キスもしないプラトニックな関係で終わったため彼氏未満。結婚と違って履歴は残らないが、彼氏となったら精神的に履歴に残る気がした。


 経験を積んで男の浮気に気づくのが早くなった。

 怪しいと思って罠を張ると、女といるのを毎回発見する。もし私の趣味に釣りがあったら結構よい釣果が……違う、違う。


 多くの浮気男を見てきて思うが、男はなぜか己の浮気はバレないと思っている。

 そして問い質せば連れていた女は姉妹、従姉妹と嘘を吐く、バリエーションは少ない。


「最新の浮気男の言い訳は叔母。斬新よね。浮気相手が同じ職場でね、立ち聞きされて会社なのに修羅場になったわ。思いきり平手打ちされてた」

『美玖、前世で何かやらかしたのか?』


 不憫だと同情的な視線は4人目までだった。

 それ以降は人智を超えた何かを見るような目でお祖父ちゃんは私を見てくる。


 前世と言われても……前世で人柱になって村いくつか救えば年俸億の有名スポーツ選手と結婚できるのかな。


『祖父ちゃんの人を見る目を信じてみないか?』

「……お見合いするわ」


 出会いと自分の目には期待できない。

 お祖父ちゃんの目を信じてみよう。


『おお、本当か! 4回も美人と結婚できた俺の目を信じろ!』


 ん?

 信じて大丈夫か?


 そういえばお祖父ちゃんの最新の離婚理由もお祖父ちゃんの浮気……。


「お祖父ちゃん、やっぱり止め……」

『よし、メッセージを送ったぞ。楽しみだなあ、ひ孫かあ』


 仕事早っ!

 仕事ができる男は違うね!


『ん? どうした、美玖?』

「お祖父ちゃん、その男性の女性関係はしっかり調べてね。探偵を使ってでも徹底的に調べてね」

『そんな男ではないぞ』


 そんな男ということは探すわけではないのか。

 政略的なお見合いなのかな。


「変な男と見合いさせたらお祖父ちゃんのお葬式には出ないからね」

『それは嫌だから祖父ちゃん頑張る!』


 頑張ってほしい、まだ見ぬひ孫ではなく目の前の孫のために。


「お見合いするならいつくらい?」

『半年後くらいかな』

「長っ! え、理由あり? 相手は再婚で、前の奥さんへの気持ちが整理できていないのは嫌だよ」


 忘れられないはいいけれど、整理できていないは精神的な浮気だと思う。

 再婚は整理してからで。


「待たされ続けるのは嫌だから期限を決めよう。半年後に見合いがセッティングできないならこの話は無しね」

『……祖父ちゃん、頑張る』


 祖父ちゃんの自信が減少した。

 どうやらお見合いの成立は難しそう。


「でもお祖父ちゃんだしな、力技でお見合いを成立させそう。そのときは結婚式に呼ばない罰を与えよう」

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