4話。モブ皇子、5歳にして悪魔を斬る

「お、おのれぇえええッ! 子供ごときがこの我の力を上回るなど、あってたまるか!」


 アークデーモンが攻撃魔法を乱射してきた。

 火球だけでなく、雷撃や風の刃など、ありとあらゆる属性の魔法が、豪雨のごとく降り注ぐ。

 

 だが、俺が掲げる【闇刃壁】ダークエッジ・ウォールは、どんな魔法を叩きつけられても小揺るぎもしなかった。


「おっ、お兄しゃまをイジメないでぇええッ!」


 その時、ディアナの頭上に真っ黒な球体が浮かび上がった。

 いや、アレは球体というより、宙に穿たれた底無しの穴だ。


「固有魔法……!?」


 アークデーモンが目を剥いた。俺も驚いた。

 これは魔王ディアナの固有魔法【天を飲み込む黒い月】ギンヌンガガプじゃないか。


 ブラックホールのように敵の魔法を吸収して、自分の魔力に変換するチート魔法。まさにラスボスの奥の手だ。


 まさか4歳から、【天を飲み込む黒い月】ギンヌンガガプが使えるとは……

 我が妹ながら、恐るべき魔法の才能だな。


 シュウウウウウウッ!


 ディアナの【天を飲み込む黒い月】ギンヌンガガプが、アークデーモンの放った魔法をことごとく吸い込んで消し去った。


「なんだ、この子供らは!? まさかダークエルフの王族? だとしても、これほどとは……!?」


 アークデーモンがうろたえる。

 さらに天井に出現した魔法陣も【天を飲み込む黒い月】ギンヌンガガプに呑まれて消え去り、牢獄を覆う結界が効果を失った。


 これなら結界に邪魔されることなく、限界を超えた大きさの【闇刃】ダークエッジを生成できるぞ。


「ひやぁ、熱い!」


 【天を飲み込む黒い月】ギンヌンガガプで、大量の魔力を吸収したディアナは、ビックリした様子でひっくり返った。


 同時にディアナの頭上に出現した黒穴が消え去る。


「助かったぞ、ディア!」


 俺はアークデーモンに勝てる剣をイメージした。

 それは巨大な剣。この牢獄塔を両断できるくらいの巨人が持つような大剣だ。


「俺のことをダークエルフの姫を連れ去ろうとする不届き者と言ったな。その通りだ!」


 俺は後先考えず、ありったけの魔力を両手に集中する。


「俺は、いつか母さんとディアを自由にしてみせる!」

「なにぃ!? な、なんだその力は……!?」


 アークデーモンが恐怖に後ずさった。


「貫け【巨人の大剣】ティターンズ・ソード!」


 突き出した俺の両手から、まさに巨人が振るうにふさわしい天を割るかのような大剣が伸びた。単に巨大なだけでなく、強固で分厚い【闇刃壁】ダークエッジ・ウォールの特性も付与して、攻撃力を極限まで高めた。


 それはアークデーモンを突き刺し、真っ二つにしただけでなく、天井と壁を突き破った。

 牢獄塔全体が、大きく揺らいでかしぐ。


「……信じられん! この闇の力は、き、貴様、何者だぁあああッ!?」


 アークデーモンは光の粒子となって崩れ去った。


「やったぁ! お兄しゃま強いぃ!」


 ディアナが目を輝かせて、俺に飛びついてきた。


「ディア、怪我は無いか? 大量の魔力を吸収して、魔力暴走が起きたりしていないか!?」

「魔力ぼーそー? うん、平気だよぉ」


 にっこり笑うディアナは、どこも異常が無さそうだった。

 俺はホッと胸を撫で下ろした。


 そう言えば母さんが、ディアナの魔力量は常人並みだと言っていたな。


 そのおかけで、【天を飲み込む黒い月】ギンヌンガガプで魔法を吸収しても、魔力暴走が起きないのか?


「お兄しゃま、顔色がすごく悪そうだよ。だいじょうぶ?」

「うん? ああ……なんか、すごくダルいな」


 俺は魔力暴走は収まったが、虚脱状態になってしまっていた。力が抜けて、その場にヘタリ込む。


 もしかして、無茶な魔法を使った反動か? 身体から熱がすべて流れ出してしまったような……


「なんだ今の魔法は……!? まさか、お前たちがやったのか!?」


 その時、歪んだ部屋の扉が荒々しく蹴破られて、大柄な男が飛び込んできた。


 獅子のような金色の短髪に、凄みのある整った顔立ち。鍛え抜かれた身体をした威風堂々たる男だ。黒い衣装の上から、豪奢な真紅のマントを羽織っている。


「ひゃ、だれ……?」


 ディアナが怯えて俺にしがみついてきた。

 その男の放つ威圧感に、本能的な恐怖を感じたようだ。


 相手はゲームで見知った顔だった。俺の記憶にあるよりかなり若いが、間違いない。


 こいつは俺たちの父親、皇帝アルヴァイスだ。


「素晴らしい魔法であったぞ、褒めてつかわす!」

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