さとうとしおの日常
ひるね
第1話
「てなわけで、これから一週間こっちに泊めて欲しいんだよね 」
家から大急ぎで引っ張ってきたであろう布団を脇に抱えた幼馴染の少女、
「ちょっと、ストップストップ! うぇいとあもーめんと! 早くさっさとおーぷんざどあー! まだ物語の幕は始まってないぞ! ドアを閉めるな道を開けろー!貴様は完全に包囲されている!大阪県警が黙っているとでも思ったか!さぁ早く早くハリーハリー! 私が額に傷のある少年になってしまう前に! ドアを開けろー! 雪だるま作ろー! ドアを開けてー! さもなくば貴様の恥ずかしい秘密を世界の中心で叫んでや____ 」
ガチャ
「だぁーっ、うるさい! 徹夜で疲れてるんだ、静かに寝かせろ! 」
「んで?他人の黒歴史を世間に晒しあげようとしてまで俺に何をしろと? 」
あまりに外聞が悪すぎるので、ひとまず彼女をリビングまで上げる。
「先生! 黒歴史を量産するほうがいけないと思います! 」
「そうか、ならお前が去年クッキーを作ろうとして産業廃棄物を生み出した話を校内にばらまくか...... 」
「前言撤回、弱い者いじめはよくないと思います! 」
手のひらくーるくる。もはやドリルである。
「ならとっとと本題に入れ 」
「はーい......さっきも言ったんだけど、家族が私を置いて海外旅行に行っちゃったから、しばらく泊めてほしいんだよね! 」
「......どういうことだよ!? 」
どうやら彼女の説明を聞く限り、両親が彼女を置いて海外旅行に行ってしまったらしい。
そこでリアルホーム○ローンな状況にならないように、隣にある俺の家で両親が返ってくるまでの1週間を過ごしたいそうだ。
「あのさ、なんで俺が泊めてくれる前提なわけ? 」
「え? 私ほどの幼馴染のぱーふぇくと美少女が泊めてって言ってるんだよ? 普通泊めるよね? 」
「図々しく押しかけてきていきなり泊めろってのはおかしいだろ残念美少女 」
「おやおやぁ~? ついに
「帰れちんちくりん、お前にやる飯はない 」
「ひっどーい! 」
ぷくーっと頬を膨らませる有紗。
こういったところを除けば誰もが認める美少女であるのに、残念だ。
「いいよ、どうせ暇だし。それに、どうせお前ひとりで生活なんてできないだろ? 」
「ひどい!わたしだって得意料理のカップ麺くらいは作れるんだからね! 」
「いや、得意料理でカップ麺が出てくる時点で生活力の無さが知れてるだろ...... 」
そう、この女、佐藤有紗は生活力が皆無なのである。
初めてカップ麺を作ったとき、こいつのやったことを今でも俺は忘れない。
こいつはおそらく人類で唯一、カップ麺をお湯に注いだ女なのだ。
頭の中に疑問符が浮かんだ皆様のために、もう一度言おう。
この女は、カップ麺をお湯に注いだ女なのだ。
「大丈夫!最初に料理したときからカップ麺の作り方は成長したよ! 」
「カップ麺を料理とは言わんだろ 」
「えっ...... 」
「心底驚いたみたいな顔をするのやめろ 」
某銀河系にポカーンとする猫のような顔をする有紗。
だが、こいつが言う料理はつまり産業廃棄物を生み出すのに近い。
現に、最初にカップ麺を作った時もこいつは作り方をよく読んでいない。
カップ麺の作り方なんて知らなくても作れると思うかもしれないが、料理に関してはそこらのサルよりIQが下がるのがこの女だ。
こいつ曰く、カップ麺をお湯に注いだのは”どっちが先でもいいかなぁって”とのことらしい。
そういってこいつは、沸騰したお湯の中にカップ麺を入れたのだ。
そう、容器ごと。
「カップ麺はだいぶ原型を保つようになったんだよ!もっと私をほめろ! 」
「カップ麺が原形を保つってなんだよ...... 」
フレッシュジュースを作ろうとして青汁のような地獄の液体を作り。
野菜炒めを作ろうとして何かが焦げた残骸のような炭を作り。
卵焼きを作ろうとしてなぜか火が付く産業廃棄物を作った。
まさか卵焼きを限界まで焦がすと火が付くようになるとは......
そんな事実、こいつがやるまで知る由もなかったし、なんなら知りたくなかった。
おかげでフライパンが一つ逝ってしまった。
「居候するからには料理は手伝うからね! 」
「勘弁してくれ、過労で死ぬ 」
「え?私が? 」
「俺がだよ 」
俺を殺す気か。
最悪の場合、家が全焼する。
「えーっ、じゃあ何すればいいの? 」
「......その手に持ってる布団を客間に敷いてこい。その間に飯を作ってくる 」
「ひゃっほう!了解しました翔様! 」
さーて、どこの押し入れにしようかなっ!と言いながら、あっという間に家の中に行ってしまった。
まさかあいつ、どこぞの国民的ネコ型ロボットのように押し入れで寝るつもりなんじゃないだろうな......?
客間の押し入れはほとんど使うことがないから、ぎゅうぎゅうに押し込んでいたものが崩れ落ちる可能性が高いのだが____
ガラガラガラ......
「ぎにゃーっ!? 」
「すでに遅かったか...... 」
ため息を吐きながら、崩れ落ちたものを再び敷き詰めに客間に向かった。
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